第108話

さてさて、次に到着したのはとても広い部屋。
まるでホールのように天井も高く暴れやすそうで、すごーく嫌な感じだ。
ま、まさか…。

『足手まといがいるにしちゃ、早い到着だったな』

あ、またアナウンスが入ったぞ。
この声ってやっぱりトリックタワーを仕切ってるあのキャラとは違うよな?
ずーっと考えててやっと思い出したんだけど、確かここにいる試験官ってリッポーのはず。
小柄でトサカ頭、メガネなんだかサングラスなんだかよくわからないのをかけてる男。
賞金首を捕えるブラックリストハンターで、ここにその囚人たちを集めている。

……つまりここは刑務所なんだよ。随分と過剰なアトラクションがあるけど。
そして受験生を待ち受けているのは、凶悪犯たち。
彼らと勝負してゴールに辿り着くことが、ここトリックタワーでの試験。

くそー、こういう罠系で全部終わると思ってたのにやっぱり戦闘あるのか。
時計を確認すると、まだ余裕で時間はある。そういえばそろそろひと眠りしたい。
ここにいると時間の感覚なくなってくるけど、三日間も閉じ込められるわけで。
………食事とかどうなんだ?やっぱ自分でなんとかしろってことなのかな。
とりあえず、これ以上足手まといにならないように頑張ろう。

『ここでのルールは簡単。生き残ったヤツだけが先に進める』
「……四人全員が生き残る必要はないのか?」

皆で無事に切り抜けるのが原則だと思って俺安心してたんですけど!?
生き残りだけが先に進めるって…俺置いてかれるかもしれないじゃんかー!

『あぁ、ここから先は関係ない。賢者は何人もいる必要はないだろ?』

あー…そういえばここって「賢者の道」だったっけ。
これまでの道のりは確かに普通の考え方じゃ切り抜けるの難しいものだったけど。
それがなんでいきなり肉弾戦になるのか、と俺は抗議したい。…できないけど。

『全員、中央に立て』

リッポーとは違う誰かの声がそう指示する。
かなり多くの道を管理してるはずだから、リッポーひとりで見るのは無理ってことなのかな。
このアナウンスのひとはリッポーの助手とかそういう感じ?
………でもこの声、どっかで聞き覚えがあるようなないような。

ダメだ思い出せない、と溜め息を吐いて俺は中央に移動した。
アモリ三兄弟も中央に移動すると同時に、壁だと思っていた場所から無数の扉が出現。
あ、え、どういうこと!?と目を瞬いてると。扉が開いて。

すごい人数の凶悪な顔した囚人たちが飛び出してきました。

いやあああああああああああああ、スタートぐらい言ってくれよおおおおおおお!!!!
俺たちは中央に立っていたため、思い切り取り囲まれるような図だ。
つか人数多い!部屋埋まりそうな勢いじゃんか!!

アモリ三兄弟を振り返ろうとしたら、どなたかの顎を肘打ち。あ、すみませ…!
ぞわ、とうなじが逆立つような感覚があって。
後ろを向いたと同時に首をがしりとすごい力でつかまれ、そのまま壁に叩きつけられた。
い……っ………てええええええ!背中、背中が痺れたぞ一瞬!!

「まさかこんな綺麗な顔にこんな場所で会えるとはな、ついてるぜ」

周りは戦闘の音で騒がしいはずなのに、俺を壁に叩きつけた男の声はよく響く。
………明らかに常軌を逸した目をしてる。あの、えっと、ヒソカにちょっと近いですハイ。
でももっと、なんというか…下卑た感じ。狂ってるけど、死んでもいる目だ。
ものすごい筋骨隆々。俺の首に加えられる力も凄まじい。
…堅で全身をガードしてなかったら、多分窒息してるどころか骨折れてる。

「涼しい顔してんな、兄ちゃん。これからどんな目に遭うかわかってんのか?」
「………ここにいるってことは、殺人か強盗か」
「はは、俺たちが受刑者だってわかっててその余裕か。まあそれも合ってるが、俺はひとを殺す前に楽しむのが流儀でね。金ももらうが、身体ももらっていくぜ。男女問わずだ」
「………」

身体をもらうというのは………。臓器、とか?
おおおお、まさか生きたまま掻っ捌くとかじゃないよな?何それグロイ!!

「たっぷり楽しませてもらう。他の連中は俺の邪魔をしないようしつけてあるからな」

たたたたたたっぷりと内臓を抉り出すと…!!?
ぎゃー!刑務所でなんつーことしてんだよお前ー!!
これで俺の臓器取り出そうが売りに行ける場所がないだろうがー!!

「………離せ」

うう、もう声もかすれたのしか出ないよ。
いくら堅でガードしてるとはいえ、圧迫され続けてれば苦しい。
男の腕をつかんで、俺はオーラを拡散させた。

≪息呑む時間(ストップウォッチ)≫

俺をつかんでた男の動きが止まり、俺は片足で分厚いその胸板を蹴り飛ばす。
怖いよー、俺に近寄るな犯罪者ー!!!!
と、恐怖のあまりだいぶ足にオーラが集まっていたらしく。

ガシャアアアアアア!!

「ぎゃあああ!」
「がふうぅ!」
「ぐっほ」
「うぎゃ…!!」

直線上にいた他の囚人たちも巻き込んで男の巨体が吹っ飛んでいきました。
かなりの人数が壁とお友達になったけど、そのおかげで男にはあまりダメージがない。
ちょっと咳き込みながらも起き上がる男に、俺はもう心臓が跳ねた。
起き上がるな立ち上がるなそのまま寝ててくれよおおおぉぉぉ!!

「…て、めえ…」
「寝てろ」

今度は俺の時間を加速して、男の前に飛び出す。
あいつが瞬きひとつした頃には俺はもう目と鼻の先。
仕方ない、と拳にオーラを集めて。下から抉るように顎を打つ!!

「がぁっ…!!」

って、あああああ!!?天井に男の頭が思いっきり刺さったー!!!
………やっべ、ひとの頭ってあんな風に天井に刺さるもんなんだ………。
えっと、手とか足がぴくぴくいってるから、生きてる…よな?

………………………うん、俺何も見てない!!








アモリ三兄弟が頑張ってくれたおかげで、俺はあとはあんまり動かなくてよかった。
でも一時間近くずっと戦い続けることになったよ、いやいや大変だった。
……こんだけの長時間、堅を持続させられるようになった自分にびっくり。
まあ、そうだよなー。旅団の喧嘩に巻き込まれたり、イルミの仕事に巻き込まれたり。
グリードアイランドでの仕事も修行になったもんな。

あれ、もしかして俺ってそれなりに強くなってきてるのか?
さすがに原作キャラには及ばないにしても、足手まとい回避はできるのかもしれない。
………足手まといっていうか、死ななければそれでいいんだけどさ。

『次の部屋を抜ければ最後だ。お疲れさん』

労う声が聞こえて、アナウンスが切れた。
楽しそうな声してたな。しかもちょっと柔らかい感じになってた。
マイクのむこうにいたひとは、それほど怖いひとでもないのかもしれない。
そうだよ、これまでの試験官って個性的だけど悪いひとはいなかったもんな。

「お、あの扉を開ければゴールだな」
「よっしゃ」
「あー、疲れたー!」

次の部屋に入ると、あるのはいままでと違う装飾の扉。
扉を縁取る金色の装飾はまるで文字のようで、俺はつい性分でそれを眺めた。

………あれ、ていうかこれ文字じゃん?
ハンター文字とは違う。どこかの遺跡で見たことがあるような…いや、でも。
完全に一致する文字は俺が知るところだとないな。系統が似てるのはあるけど。
んー、でもこんな字をどっかで見たぞ。どこだっけ。

「よし、んじゃさっさと三次試験も乗り越えるか」
「だな。なんだかんだ楽勝だったじゃねえか」
「よく言うよ。兄ちゃんたち俺を盾にしてばっかりだったじゃないか」
「「何か言ったか?」」
「………ちぇ」

アモリたちが扉に手をかける。そしてゆっくり開いていくと。
…同じように、刻まれた扉が淡く光を放ち始めていくのが見えた。
扉を囲むようにゆっくりと文字が金色から赤へと染まっていく。

………思い出した。あの文字は。

「扉を通るな!」
「え…?」

アモリたちの後ろから腕を伸ばして、開きかけてた扉を勢いよく閉める。
訳がわからない、という表情を浮かべる彼らを無視して扉を囲む文字を確認。
………よし、とりあえずいまは光は消えてる。

「な、なんだよ?」
「………この扉、仕掛けが施されてる」
「え」
「よく考えろ。アナウンスは<次で最後>と言ってた。まだ何かあってもおかしくない」
「…あ、そういえば」
「この扉に何があるっていうんだ」

それは俺もちょっとわかんないんだけど。
でもここに刻まれた文字が、俺が思い出した文字と同じなら。

たくさん収納する場所のあるコートから取り出したのは、メモ用紙。
それを手早く折って小さな紙飛行機を作る。
通らないように言い含めてから、また扉を開けると。やっぱり文字が光り出した。
開けた扉の先には、ゴールっぽいもうひとつの扉が見える。
けど俺は折った紙飛行機をとりあえず扉に向けて投げてみた。

ぽとり、と普通に扉の先に飛行機は落ちる。
………別に何も起こらないじゃないか、とアモリたちの表情が語る。
待て待て、そこで結論を出すな。俺はもう一個、紙飛行機を折る。

そして今度はオーラを紙飛行機に定着させて、投げる。すると。

扉をくぐった瞬間、紙飛行機が消失した。
…文字通り、なくなってしまった。どこかへ転送されたかのように。

「な」
「ど、ういうことだいまの…」
「なんでこっちは消えて…」

やっぱなー。こういうのあるからハンター世界は怖い。
色々と遺跡を巡って学んだことは、ハンター世界には念というものが根付いているということ。
過去の遺物たち、失われた文明にあっても念というものは定着していたらしい。
もう機能していない遺跡には、オーラを察知して発動する罠がいくつもあったりするのだ。
俺たちの世界だと熱センサーみたいな類に入るんだろうけど。
無機物には反応しないけど、オーラを宿したものには反応する仕掛けがある。

絶をすれば通り抜けられるだろうけど…アモリたちは無理だよな。
どこに転送されるかわからないから、迂闊に通らせるわけにも。

あ、ちなみにこの文字は古代からある呪術の儀式文字。
最近よく足を運ぶ古本屋でさ、呪いに関して詳しい文献を読ませてもらうこともあって。
その店の店長さんやら、俺に首飾りをくれた女の子やらに教わることもあったんだ。
…いや、呪術には俺興味ないけどな?でも、呪いに関して調べてるのは確かで。
俺の世界に帰る方法の足がかりになれば、と思って教えてもらってたのが役に立った。

呪術ってことは、それをどっかで断ち切ればいいんだろうけど…。
でもこれ、下手に解除しちゃうと呪詛返しが誰かにいったりすんのかなー。

「………他の出口を探すか」
「え、目の前にゴールがあるのに?」
「通る方法はないのかよ」

うん、もどかしいよな。ゴールが見えてるのに通れないのは。
俺はいいんだけど……、とアモリ三兄弟を見て溜め息ひとつ。

「……お前たちじゃ通れない」
「なんだと!?」
「おい、どういう意味だてめえ!」
「そのままの。…どこかに隠し通路とかないか、探すぞ」

おい説明しろ!と抗議の声が聞こえてくるけど、キコエナイ。
説明って言ったってさー、念のこと理解してないひとにどうしろってんだ。
それよりはさっさと進む方法を見つける方が時間の有効活用。

賑やかな三人は無視して、俺は黙々とその部屋を調べていった。
………あ、なんかちょっと遺跡巡りに行きたくなってきたな。

そんな現実逃避をしながら。
三十分後には無事に隠し扉を見つけて。
俺たちはなんとかゴールを果たしたのであった。




色々なひととの関わりや勉強って、無駄になりません。

[2012年 2月 7日]