第109話

無事にゴールに辿り着いた俺はすることもなく。
先に到着してたヒソカから一番離れた場所に腰を下ろして、本を取り出した。
クロロに押し付けられた<ベンズナイフの歴史>っていう、不気味な代物。
でも借りたからにはちゃんと読んで感想言わないといけないし、さっさと読破しよう。

ベンズナイフがどんな過程で出来上がったのか、どのナイフがいつ造られたのか。
…すごいよな、ナイフの一覧まで載ってる。クロロほんとにこのシリーズ好きだな。

アモリ三兄弟はかたまって過ごしてる。仲良いよなー。
ギタラクルもいるけど、俺に声をかけてくることもなくこちらからかけるつもりもない。
ハンゾーが色んな受験生つかまえて話しかけてるのが聞こえる。
………ダメだ。興味のある本なら周りの音なんて関係なく読めるんだけど。
別に読みたい本でもないから、ハンゾーの声がうるさくて集中できない。諦めよう。

本を閉じて、壁に寄りかかって眠る態勢に入る。
試験終了の時間までまだある。体力は温存しておこう。







!」

………う?
響いた声に顔を上げると、キルアがこっちに走ってくるのが見えた。
おー、あいつらもゴールに着いたのか。ということは、三次試験も終了だな。
俺が腰を上げたと同時にタイムアップのアナウンスがあり、外への扉が開いた。

新鮮な空気が流れ込んでくる。
おー、外だ。日の光が見える。久々すぎてちょっと目が潰れそうだ。

明るい場所に出ると、キルアたちが汚れまくっているのがよく見える。
確か最後は皆で壁を壊して進んできたんだよな?そのせいで、こんなボロボロに。
キルアの顔の汚れをぬぐってやって、手も確認。あ、キルアは別にマメはできてないか。
さすが頑丈な身体。でも確か。

「クラピカ」
「…ん?」
「手、貸して」

クラピカの手をとると、やっぱりマメがいくつもできてる。
凶悪犯を収容しているトリックタワーだ、その壁は厚い。
いくら五人がかりで壊したとはいえ、かなりの重労働だったはずだ。手も痛むだろう。
でも俺、薬とかそんなに持ってるわけでもないからなー。

「レオリオ、薬ないか。あと包帯」
「あ?お前手当できんのか」
「これぐらいなら。自分で巻くの面倒だろうから、レオリオの分もやるよ」
「いや、俺は」

っと、その前に飛行船に乗るよう指示が出た。
早く行こうぜ!とキルアに腕を引っ張られ飛行船へ。
次の目的地に辿り着くまで少し休めそうだから、手当するならいまのうちだな。
えーと水をちょいと用意して。クラピカの手を洗って(隣でゴンも手を洗ってる)
レオリオにもらった薬を塗って、包帯を巻いていく。

クラピカの手ってぱっと見た感じは女の子みたいに綺麗なんだけどさ。
やっぱり男なんだよなー、骨ばった感じが。

「…ここまで大げさにすることはないと思うんだが」
「マメがあると作業に邪魔になることがあるだろ。ほんの少しの違和感も、命取りだ」

細かい作業ができなくなったり、意外と不便なんだよなマメって。
木刀を握るのにも支障が出るんじゃないかな。違和感って危険だ。
クラピカもそれはわかってるのか、それ以上は何も言わず受け入れてくれる。

「よし」
「…感謝する」
「次はレオリオだな」
「俺はクラピカみたいに柔じゃねえからな。んなもん」
「せめて薬を塗るぐらいしておけ。医者目指してるならわかるだろ」

まったく、医者の不養生とはいったもんだよな。
アンもぼやいてたことあるもんな、シャンキーは自分のこと構わなすぎるって。
ひとのこと心配するくせに、自分のことはないがしろにするところがあるんだ。
普段は自分が一番可愛いとか言ってるヤツらなのに、根本は優しくてひとが大事。

そういうところが、レオリオもシャンキーも好きだしほっとするけど。
こっちだって心配になるんだからちゃんとしてくれよ、と思うことはある。

「こんなもんか。レオリオよりは下手だろうけど、許してくれ」
「お、おぉ…悪い」
「いや。薬、ありがとう。ゴンは手当しなくて大丈夫か?」
「うん!これぐらいならすぐ治っちゃうよ」
「お前の身体どうなってんだよマジで。その回復力異常だろ」
「そうかな?」

さて、んじゃ俺はこの水を流しに捨ててくるかな。
清潔な水が欲しかったから、厨房からもらってきた水なんだよなこれ。
お礼も言わないと、とラウンジに入ってそのまま厨房に抜けようとしたんだけど。

………あれ?なんか見覚えのあるひとが座ってる。
ダークグレーの髪、何冊も本を積み上げて熱心に読んでるその姿。

「………店長?」
「んぁ?」

俺の声に上がった顔は整ってて、やっぱり知ってるひとだった。
クロロと会った古書店が無数にある街、あそこにある古本屋の店長。
すっごく品揃えの良い本屋で、お気に入りのひとつだ。
そこの店長が、なぜここに。

「三次試験合格おめでとう、兄ちゃん」
「…………」

あれ?そういえばこの声。
三次試験のとき、リッポーの代わりに聞こえてきた声と同じじゃ。

え、まさか、試験官のひとりだったりしたんですか店長!?
ちょっと待って、ええ!?ケーキ屋の店長に引き続き古本屋の店長まで!?
俺の周りにはどんだけハンターが集まってんだよ!
………腕の良い専門家はハンターの確率が高いってことなんかな、とほほ。

……これでシャンキーもハンターだったらどうしよう。

「…どういう流れでここに」
「キャンセル枠ができたせいで、引っ張り出された」
「………キャンセル。……ラフィー店長?」
「なんだ、知ってたのか」
「メンチから。店長、ハンターだったんですね」
「まあな。兄ちゃんが受験してるとは予想してなかったが」

にやり、と笑われる。ですよねー、俺みたいな一般人がハンター試験受けるとか。
自殺行為の何物でもないですよねー、よくここまで残ったと思うよマジで。

「そういや、呪い関連の書籍が回ってきたから置いてあるが、今度読むか?」
「…是非」
「なら時間あるときに来い。棚には出さないでおく」
「ありがとうございます」

そうそう、この店長さんこうやって客ごとに色々と気配りしてくれるのが素敵。
印象はぶっきら棒で怖い感じなんだけど、実はけっこう世話焼きなんだよなー。
見た目は意外にも中性的で、少年時代はむしろ女の子に見えてたんじゃないかってぐらい。
立派な大人のいまは、ちゃんと男だってわかるけど。美人に変わりはない。

古本屋の店長ってじーちゃんとかばーちゃんのイメージ強くてさ。
だからまだ若いのに店開いてるのが不思議だったけど。…ハンターなら納得。

「後の試験も頑張れや」
「…俺なりにやります」

絶対合格します、とは言えないけど頑張るよ!
知りたくもなかった色々な事実が判明しまくってるけど、俺負けない!

………行きつけの店の店長がことごとくハンターって本当にどうなの。





呪術師シリーズより店長の出張。ケーキ屋の店長といい、この世界はすごいな。

[2012年 2月 25日]