第110話

「皆さん、ようこそいらっしゃいました」

飛行船が降り立ったのは、小さな島に同化するように停まっている軍艦。
海には破船した船がいくつもあり、まるでここは船の墓場だ。
といっても青い空に青い海。景色はとても綺麗で、観光地のようだ。

………え、ここって軍艦島だよな?漫画にない、アニメオリジナルの場所だよね?
おおおおおおおおおマジでかこの試験も通過しないといけないのか!!

俺たち受験生を迎えたのは老夫婦。
穏やかな笑顔を浮かべた二人はここがホテルであると説明した。
四次試験開始は三日後であり、それまでの間この島で休息を楽しむようにと。

これまで緊張状態にあった受験生たちは、なら早速休ませてもらおうと歩き出したのだが。
お待ちください、と止められてしまった。

「宿泊費前金で一千万ジェニーいただきます」
「え」
「…………一千万ジェニー!?」
「お金とるの!?」
「それも…」
「法外な値段だ!」

それだけのお金があれば、ヨークシンの超高級ホテルでも半年過ごせるそうな。
…そうか、いまいちこの世界の貨幣価値がわかってないんだけど。
いや、普通に考えても一千万ってでかいよな、うん。

……運び屋やるようになってさー、金銭感覚おかしくなってんだよね俺。
正確には天空闘技場でファイトマネーをもらってるときから、狂ってきてるかもだけど。
カード払いとかできんのかな。一千万ぐらいなら口座にあるけど。…うーん。
宿泊費を払えないのなら、難破船の中からお宝を探して持ってこいということで。
受験生たちは皆それぞれ海へと向かうことに。

も探しに行こうよ」
「…そうだな」
「よっしゃゴン、どっちが多く見つけられるか競争だ」

楽しげに海に向かうちびっ子たちに手を引かれ、俺も結局お宝探しを開始。
海流の影響なのか、難破船がごろごろしている海岸。船の中には財宝がたっぷりある。
遺跡を巡ってる俺だけど、財宝にお目にかかることはほとんどない。
長い時間が流れた遺跡っていうのは、そのほとんどが盗掘によって財宝を失う。
裏オークションに流れたり、もしくは博物館や研究機関に運ばれたり。
俺たち一般人が手にとる機会なんて滅多にないわけだ。

………やっぱり、ちょっと見てみたいよな財宝。
海水に濡らすと洗濯面倒だから、と俺はとりあえずズボンだけになる。
って、キルアとゴンは上着脱いだぐらいでそのまま飛び込んでるよ。あーあ。

「…かなりの数の財宝があるようだな」
「クラピカ」
「だが本物かどうかを判別するのは難しい。それを見極めるのも試験のうちということか」
「本物だったとしても、こんな環境じゃ保存状態はよくないだろうな」
「保存状態だぁ?宝は宝だろ」
「甘いぞレオリオ。宝石ひとつとっても、小さな傷が刻まれているだけでその価値は大きく下がる」
「そういうもんかねぇ。綺麗ならそれでいいじゃねぇか」
「…レオリオのそういう考え方は良いと思う」

綺麗だって感じられるものなら、もうそれだけで価値があるよな俺もそう思う。
レオリオってなんだかんだで、一番大事なところを当たり前のように大切にするのがいいよなー。
仲間とか、感じた気持ちとか。そういうものをひっくるめて守ろうとする。
だから素直に怒るし、情けないことも言えちゃうし、すごくかっこいいことも言える。
うん、いいよな。かっこいい。素直に頷くと、なんでかレオリオがこっち凝視して固まった。
………おーい?

「それにしても、その手の甲はどうした。以前はなかったと思うが」
「あぁ…ちょっと色々あってね。別に痛みとかはない」
「…随分と爛れてんな。火傷とも違うみてぇだし……毒か?」
「さすが医者志望だな」
「な!?毒を受けたということか、いつ!?」
「…もうけっこう経ってる。これはただ単に消えなかっただけだ」

違和感とかないし、これはどうしようもないんだよな。
むしろこの程度の傷跡で済んでラッキーだ、ってシャンキーが言ってたぐらいだ。

ー!こっちにもたくさんお宝があるよー!」
「早く来いよ!俺たちで全部とっちゃうぜ!」
「あぁ、いま行く」

楽しそうだなキルアもゴンも…っていうか宝の山になってるぞ。
あ、あれシャルに借りた本で見たことある。おお、ちょっと待てそっちの燭台って。

どれもこれもボロボロだけど、でもかなりの年代物ばかり。
わー、こんなものがこの海にはたくさん眠ってるのか。ちょっとわくわくしてきた。
交代でゲットした宝を見張っているキルアたちに俺も入れてもらって。
どんな財宝が出てくるかと嬉々として参加させてもらう。

呪いの石版とか出てこないかなー、と思うのはさすがに都合が良すぎるか。
…いや、このタイミングで出てこられてもちょっと困るんだけど。








ゴンとキルアはさらに値打ちのありそうな財宝がある船を見つけたようで。
それまでに獲得した宝はトンパに押し付け、その船に向かって泳いでいってしまった。
いやー、あんだけ沖に沈んでる船を探索できるのはすごい。俺じゃ息続かない。
念使えばなんとかなるかもしんないけど。水中で使ったことないし。
というわけで、俺は別の場所を調べてみることに。

「………これ、クロロが欲しいって言ってたような…?」

厳重に保管されていた上にぐるぐると布に巻かれていたイヤリング。
傷ひとつない。七色に光が変わる、<未知のイヤリング>と呼ばれるものだ。
この光の色によって、所有者の未来がわかるとかなんとか。
青だと悲しいことが待ってて、赤だと身の危険、緑だと安らぎ…だったっけ?

怖いよな、そんなんわかりたくないっての。

クロロいわく、正確には所有者の未来を当てる道具ではないって話だったけど。
えーとなんだっけ、イヤリングの色はランダムに変化するだけで?
誰かが手に取ると色変化が起こって、決定した色の意味する未来を招くんだとか。

だから正しくは、所有者の未来が悲しいから青くなるわけじゃなくて。
イヤリングがたまたま青に染まったから、所有者に悲しい出来事が招きこまれる。
そういう呪いを宿したイヤリングなんだ、って言ってた。
………なんのためにそんな呪いが宿ってるのか意味がわからん。
とりあえず直接触れないようにしておこう。指紋ついても嫌だしな。
かなりの値打ちものだろうから、ホテル代はこれでOK。老夫婦に提出してくるかな。

「………ん?」

あれ、なんかあのあたりすごい虫飛んでる。
ま、まさか何かの死骸があるとかじゃないだろうな?やだぞ、そんなの。
………って、ハエとかじゃなさそうだな。………蜂?

蜂っていったら受験生の中で数少ない女の子である、ポンズが浮かんでくるけど。
周囲を見回してみてもあるのは船の残骸ばかりで。彼女の姿はない。
だけどものすごい勢いで蜂たちがぶんぶん飛び回ってる。しかも数も多い。
め、めっちゃ怖いんですけど。このまま襲いかかられて刺されたら嫌なんですけど。
しかも俺いま上半身裸なんだよ、無防備なんだよ!

「………この蜂、引っ込めてもらえないか」
「…っ…」

とりあえず声かけてみたら、息を呑む気配。あ、いるんだ。
でも蜂はいまだにぶんぶん飛んだまま。…もしかして警戒されてる?
ただ財宝探すだけなのにそこまで緊張しないといけないものだろうか。
それとも何かあったのかな。確かこの蜂って、ポンズの悲鳴とかに反応して出てくんだよな。
悲鳴を上げるような状況…誰かに妨害されたとか?ただ単に怪我でもしたとか。

「攻撃の意思はない。俺はもうホテル代は手に入れてる。蜂、戻してくれ」
「………………」

お、蜂たちが戻っていった。
群れが飛んでいったのは船の瓦礫の下の方。なんだってそんなところに。
ひょっこりと上から顔を出してみると、かなり下の岩場でうずくまってる女の子がいた。
特徴的な大きな帽子、肩で跳ねている髪。ちょっと気の強そうな瞳。うん、ポンズだ。

睨むようにこっちを見上げてくる彼女に、イヤリングをポケットに押し込んで手を挙げる。
両手を挙げてゆっくりと近づいていくと、ポンズが足首を両手で覆っていることに気づいた。

「…捻ったのか?」
「私のことは放っておいて。関係ないでしょ」
「その足でここを上っていくのはひと苦労だろ。ほら」
「……?」

手を出してみるけど、ポンズは怪訝そうな顔をしてる。
ああもう、同じ受験生に頼りたくない気持ちはわかるけどさ、状況考えろよな!
岩場に腰かけてるとはいっても、多分これ満潮になったら沈む。
船がこんだけごろごろしてるのは、波がこの辺りまで到達する時間帯があるからだ。
そのときに動けないままここにいたらどうなることか。

「………少し我慢してて」
「え、ちょ」
「荷物はこれだけか?ほら、ちゃんと抱えてろ。上に行くから」
「だから私のことは放って…きゃ!!」

いきなり女の子に触るのは失礼かと思うけど、これは救助だ救助。
ポンズを抱きかかえて、彼女のリュックを拾って渡す。
こんぐらいの足場なら特に問題なく普通に歩ける。ビバ、ゴミ山生活。

ちゃんと上の安全な場所に戻って、ポンズを下ろす。
それから足首を確認させてもらえば、やっぱりちょっと腫れてた。
捻挫かー、湿布とかあるといいんだけど。レオリオ持ってないかな。
あ、ホテルに備え付けてあるかも。ちょっと聞いてみるか。

「ライバルのこと助けるなんて、余裕ってこと?」
「そんなんじゃない。ただ単に後味が悪い思いをしたくないだけだ」
「何よそれ」
「俺の勝手でやってるだけってこと。このままだとこれからの試験、不利だろ。むしろ都合よく利用してくれていい」
「………あんた、おかしいって言われない」
「…言われることもある」

けど俺から言わせれば周りの常識がおかしいんですー。

ポンズの足首に触れた状態で、彼女の患部にオーラを広げて「周」。
俺の腕輪に嵌めこまれた真っ赤に染まった石が、徐々に透明に戻っていく。
そして透明だった石がさらにオーラの放出を続けていくと、今度はだんだんと青に染まる。
う、完全に青に染まっちゃったか、これが限界だな。

「…どうだ、少しはマシになってると思うけど」
「え、えぇ。ちょっと違和感があるぐらい。これなら明日には治ってるかも」
「ならよかった」
「いまの、何?」

うん、だよね、気になっちゃうよね。
だけどごめん、ポンズにもまだ念の説明はできないんだ。
教えてあげたいんだけど、と苦笑いして内緒のポーズ。

「悪い、企業秘密だ」

いつか念を習得できたら、わかるようになるかも。





接触避けてるわりにクロロの趣味とか色々知っちゃってる主人公。

[2012年 2月 28日]