第110話―レオリオ視点

ハンター試験の受験者ってのは妙な連中ばっかりだ。
ゴンとクラピカにはかなり助けてもらってるから、感謝してるけどよ。
トンパみたいに腹の立つヤツもいるし、ヒソカみたいな狂ったヤツもいる。
ただのガキかと思えば、キルアは暗殺一家のエリートだとかなんとか。怖いっつーの。

その中でこれまた異彩を放ってる男がとかいうヤツだ。

あの堅物のクラピカが妙に懐いてて、キルアの師匠でもあるらしい。
一次試験はろくに覚えてないが、軽々とマラソンをこなしてたんだろう。
二次試験の料理なんてスシ作りには参加する気もない感じだったぜ畜生。

とにかく空気が普通じゃねぇ。
何を考えてるのかわからん無表情の中で、あの目だけが強い印象を与える。
なんつーかな。常に色々と揺れてて、澱んでたり逆に澄んでたり。
キルアの師匠だって話だったから、裏社会の人間なんだろう。
俺たちが関わるのとは一歩暗い世界。そんな空気がヤツからはする。

だってのに。

!」

なんとかトリックタワーのゴールに辿り着くと。
悠々と寝て待ってたらしいが、キルアの声に目を開けて立ち上がった。
丁度外への扉が開いて、俺たちは三日ぶりに日の下へ。

試験の過程で汚れまくった俺たちはボロボロ。
は当然のような態度でキルアの顔についた汚れをぬぐってやってる。
その手つきが驚くぐらい優しくて、あの淡々とした横顔とのギャップがすげぇ。
キルアの手をとって何かを確認していたが、ふと俺たちの方に振り返った。

「クラピカ」
「…ん?」
「手、貸して」

あいつの言葉にクラピカは素直に手を出す。
おいおい、俺相手だったらぜってぇ「何のためにだ」とか文句言うだろてめえ。

「レオリオ、薬ないか。あと包帯」

どうやらクラピカの手にできたマメが気になるらしい。意外に面倒見良いヤツだな。

「あ?お前手当できんのか」
「これぐらいなら。自分で巻くの面倒だろうから、レオリオの分もやるよ」
「いや、俺は」

どんだけお人好しだこいつ!?見た目とのギャップありすぎだろ!
俺が返事をする前に、飛行船に乗るように指示が出てとりあえずそれに従う。
キルアに腕を引かれては先に乗船。…ほんとよく懐いてらっしゃいますこと。

かと思えば、しばらくして桶に水を入れて戻ってきた。
マジで手当する気なのか、と呆れながら俺も応急処置の道具を開ける。

「…ここまで大げさにすることはないと思うんだが」
「マメがあると作業に邪魔になることがあるだろ。ほんの少しの違和感も、命取りだ」

少しの違和感にすら気を遣う。こういうとこは、プロの仕事人って感じだ。
それを感じたのか、クラピカもおとなしくされるがまま。
………包帯巻く手際の良さは慣れてるといわんばかり。怪我多いんだろうな、こいつ。

「よし」
「…感謝する」
「次はレオリオだな」
「俺はクラピカみたいに柔じゃねえからな。んなもん」
「せめて薬を塗るぐらいしておけ。医者目指してるならわかるだろ」

ああもう、調子狂うからやめろって。
無関心なヤツなのかと思えば、そうでもない。どういうヤツなのか全くわからん。

「こんなもんか。レオリオよりは下手だろうけど、許してくれ」
「お、おぉ…悪い」
「いや。薬、ありがとう。ゴンは手当しなくて大丈夫か?」
「うん!これぐらいならすぐ治っちゃうよ」
「お前の身体どうなってんだよマジで。その回復力異常だろ」
「そうかな?」

騒ぎ出すゴンたちを置いて、水を片付けに去っていく背中。
ついじーっと見送っていると、包帯の確認をしていたクラピカがどうしたと声をかけてきた。
どうしたってお前のがどうした。なんであいつの前だとあんな素直なんだてめぇ。






次についたのは難破船が集まる入り江のある島。
島に突き刺さるみたいな形で巨大な船があって、なんとそれはホテルらしい。
四次試験まで、このホテルで休息させてもらえるらしいが……宿代がまさかの一千万ジェニー。
払えない場合は現物支給で、と難破船からお宝を探してくるよう言われた。
足元見やがって。けど部屋に泊まらせてもらえなければ体力消耗は避けられない。
そんなクラピカの脅しに負け、俺は渋々お宝探しに参加することに。

泳いで探すつもりなのか、は上半身裸になってる。
俺よりほせーけど、筋肉はついてんだよな。…そういやあいついくつだ?
キルアがガキの頃から知ってるらしいから、それなりに離れてんだろうし。

「…かなりの数の財宝があるようだな」

俺の隣に並んだクラピカが声をかけるとが顔だけ振り返った。

「だが本物かどうかを判別するのは難しい。それを見極めるのも試験のうちということか」
「本物だったとしても、こんな環境じゃ保存状態はよくないだろうな」
「保存状態だぁ?宝は宝だろ」
「甘いぞレオリオ。宝石ひとつとっても、小さな傷が刻まれているだけでその価値は大きく下がる」
「そういうもんかねぇ。綺麗ならそれでいいじゃねぇか」
「…レオリオのそういう考え方は良いと思う」

そう言ってあいつがかすかに目を細める。
少しの周りの空気が柔らかくふわりと温かくなった気がして。
…もしかしてこいつ、笑ってんのか?
その可能性に思い当たってから感じるのは、穏やかな何か。

………こんな空気を、こいつは持てるのか。
ひとを踏みにじってきたようなヤツには、絶対にまとえない空気のはずだ。

ますますわからなくなって俺が硬直してると、クラピカがふと口を開いた。

「それにしても、その手の甲はどうした。以前はなかったと思うが」
「あぁ…ちょっと色々あってね。別に痛みとかはない」

手の甲、と俺も視線を落とす。
確かに普通はお目にかかれないような傷跡がそこにはあった。
皮膚が溶けた痕のように引き攣れてる。
男にしては綺麗な肌だから、余計にそこには違和感があった。

「…随分と爛れてんな。火傷とも違うみてぇだし……毒か?」
「さすが医者志望だな」

俺の予想にあっさりと頷くに、おいおいと思う。
代わりといっちゃなんだが、クラピカがものすごい形相で食いついた。

「な!?毒を受けたということか、いつ!?」
「…もうけっこう経ってる。これはただ単に消えなかっただけだ」

全く気にとめていない、という表情で肩をすくめる。
ゴンとキルアに呼ばれたは、そのままあいつらの方へ行ってしまった。

俺たちの怪我はあんだけ気にするくせに、自分のことは放置か。
お前こそ不養生以外のなにものでもねーじゃねぇか、と言ってやりたい。
ああくそ、なんなんだあいつ。実は何も考えてないだけなのか?

無関心で冷たい危険な男なのか。
お人好しで自分のことを気にかけないある意味危ない男なのか。

いったいどっちなんだお前!






その後、お宝を鑑定してもらう集合場所には女を抱えて戻ってきた。
捻挫してるらしいが、お姫様抱っこっておい。おいし……じゃない、恥ずかしいだろ普通。
なんでもない顔をしたはお宝をじじいに差出し、鍵を受け取って女とそのまま部屋へ。
って、おい!!そのままいくのか!まさか試験中においしいコトする気じゃねえだろうな!?

俺やハゲ含めて歯ぎしりする連中を差し置いて、クラピカとキルアがなんでか後を追っていく。
その歩く速さといったら。………ありゃ競歩だな。

「二人ともどうしたんだろうね?あのひとが心配だったのかな」
「…いーや、別の心配してんだろあいつらは」
「別の?」
「……つか何の心配してんだか。それこそあいつの自由だろうに」

不思議そうなゴンにひらひら手を振って、俺も鍵を受け取り船内へ。
そうだよ自由だよ、あいつが楽しいコトしようがそうでなかろうが。
あいつがどんな人間だろうと、それは自由。俺がどうこう言うことじゃねえわな。

考えることもアホらしくなってきたぜ、と溜め息を吐いて。
さっさと寝ようと俺は部屋へ向かうことにした。






原作沿いでレオリオ視点は初ですね。
手当の手際が良いのは、天空闘技場でキルアの傷をみてたからだと思われ。

[2012年 2月 28日]