第111話

ポンズに部屋は譲っちゃったから、もう一回お宝探してこないとなー。
いくらでも財宝はありそうだしそれほど苦労はしないだろ。

「「!!」」
「………?」

大きな声が聞こえて足を止めると、むこうからキルアとクラピカが走ってきた。
どうしたんだ?と訳がわからず待ってると、二人ともなんかすごい顔。
不機嫌そうというか、怒ってるというか、切羽詰ってるというか。
な、なんだよどうしたんだ、何があったんだ?

、あの女は!?」
「…?いまは部屋にいる」
「それでお前はこれからどこに行くつもりなんだ」
「海に。俺の部屋の分、宝見つけてこないと」
「じゃああの女と一緒に泊まるわけじゃないんだな!?」

ぐわし、とキルアに腕をつかまれて俺はたじたじ。
え、ええ?なんで二人ともそんな真剣な顔で詰め寄ってくるんだよー。

「男の俺が、あの子と同室になったらマズイだろ」
「…そうだな、マズイと私も思う」
「俺も」

だろー?
ハンター試験をここまで残ってきた子だから、すっごく強いとは思うけど。
やっぱり女の子とホテルで同室は勘弁してほしいよな。落ち着いて眠れない。
それにポンズ可愛いしさ。俺は反して貧弱だから…情けない思いしそう。

「なーなー、だったら俺たちの部屋に来れば?」
「…キルアの?」
「そ。ゴンと一緒」
「……そうだな、その方が私も安心だ」

キルアの提案になんでかクラピカが頷く。
え、俺そんなに心配されるほど頼りない?そりゃキルアたちに比べれば弱いけど!
キルアとゴンが傍にいないと危なっかしい、なんて認識されてたらさすがに傷つくぞ。
………いや二人がいてくれれば実際心強いんだけどさ。
でも年齢的にはこう、俺の方が保護者というか庇護者であるべきでだな。

ひとり葛藤している間に、キルアに手を引っ張られずるずると。
心配事が減ったクラピカはやることがあるから、と別行動。
って、俺まで宿泊代出してないんですけど!無断で宿泊はまずいだろ!







とりあえず宿泊代になりそうな財宝は簡単に見つかった。
部屋も一応もらったんだけど、キルアと約束させられたから結局は三人で寝るんだろう。

!ゴンが釣りやらせてくれるってさ、一緒にやろうぜ!」
「釣りか…」

すごく嬉しそうな顔で駆け寄ってきたキルアと、むこうで釣竿を下げているゴン。
すっかり二人は仲良しだよなー、見てて微笑ましい。
誘ってもらえたのは嬉しいんだけど、俺はちょっと遠慮しておこうかな。

「後でそっちに合流するよ」
「なんだよ、どっか行くのか?」
「もう少し財宝調べてくる。俺の探してるものの手がかりもあるかもしれない」
「探してるもの…?」
「呪いの石版」
「は、何のためにそんなもん」
「俺の故郷の手がかりかもしれないんだ」

帰る方法がそれで見つかるのかわからないけど。
いま俺にできることってそれぐらいしかないんだよなー。そう考えてはや数年…。
この辺りにある難破船、すごい年代物もあるっぽいからアンティークも多い。
伝説級の財宝とかもあったし、呪われた品物があってもおかしくないよな。
そういうのに不用意に触れば危険だけど、俺には呪いを無効化してくれる首飾りもある。

うん、ダメ元で行ってみよう。

荷物はとりあえずキルアとゴンに見てもらって。
俺は再び難破船のあたりをうろうろ。うわー、腐ってる木材も多いな。
裸足になって足の裏に感じる触感で判断して、俺は大丈夫そうな部分を踏んで進む。

じーちゃんに渡されたあの石版って、オリエント方面の発掘物だったよな。
だからそれに関連した財宝が積んでありそうな船…。

とりあえず目星をつけた船に入り込んで、船倉を物色させてもらうことを繰り返す。
保管されたミイラとかまであったりしたのは驚いたけど。
碑文とかも発見したはしたんだが、俺がじーちゃんに見せられたのとは違う。
ううーん、凝をしてみても特別オーラが定着してるわけでもなさそうだしなー…ハズレか。

いくつかそうやって回ってると、いつの間にやら夕暮れ。
水平線に大きな夕日が飲まれていくところで、俺は思わず見惚れた。

「………どの世界でも、夕日っていうのは感傷的になるな」

赤く染まり燃える空。
………そう、燃えている。…………燃えてる…………船が。

あれ、えっ、船燃えてますけどおおお!!?
びっくりして振り返ると、燃える船の傍に人影がふたつ。
………あれクラピカとレオリオか?あ、そうか。
やることがあるから、ってクラピカは言ってたけど。

「…クルタの船か」
「………

近づいて声をかけると、よくわかったなとクラピカが小さく苦笑した。
燃え盛る船を見ても普通はわからないだろうけど、俺はアニメを見て知ってる。
いま炎に包まれているあの船は、クルタ族のもの。
旅団から逃れようとして難破した船ではないか、と言ってた気がする。

同胞を弔う炎が徐々に役目を終えて小さくなっていく。
鎮魂の歌、というようにホテルとなっている軍艦の汽笛が鳴り響いた。
そしてクラピカが手にしていたクルタ族のお守りを遠くへ投じる。

「…幻影旅団は必ずこの手で捕えてみせる。奪われた同胞の瞳も全て取り戻す」
「………あぁ」
「だからいまは、安らかに眠ってくれ」
「悲願を果たすためにも、お前はハンターになるしかない。必ずな」

そう背中を押すレオリオは本当に良い男だ。
クラピカの生きる理由は、幻影旅団を捕え同胞の瞳を取り戻すこと。
全てを奪われた幼い少年がいまこうして立派に育っているのは、その誓いがあったから。
それはわかってるけど、でも俺としては複雑で。

幻影旅団が正しいとは思わない。むしろ善悪で言えば悪だと思う。
他者の命をあまりにも簡単に奪い、それを気に留めることはない奴らだ。

でも俺は、旅団の面々を個人として知り時間を共有してしまっている。
だからできることなら、彼らにも傷ついてほしくないと思ってしまう。もちろん、クラピカもだ。
結局人間は勝手な生き物で、自分にとって大事なひとが無事であればそれでいい。
俺だって同じだ。クラピカたちはもちろん、シャルたちにも無事でいてほしい。

例えそれが、俺のわがままなんだとしても。

「もう暗くなる。戻らなければ何も見えなくなるぞ
「………もう少し、ここにいるよ。月も星も出てるから、十分明るい」
「だが」
「あっちでゴンたちが釣りをしてるはずだ。もう飽きて別のところに行ってるかもだが」
「釣り?」
「あの二人だとまた探検でも始めてるかもしれない。見つけたら戻るよう言っておいてくれ」

立ち入り禁止って場所まで入ろうとするからな、特にキルア。
まだ少し躊躇うクラピカだったけど、レオリオに促されてホテルへと戻っていく。
俺は岩場に腰かけてコバルトに染まる空をじっと眺めた。

この世界でできることなんて、俺にはほとんどなくて。
むしろ生き残るのがやっと。だから原作を捻じ曲げるなんて、きっとできない。

…できないし、しちゃいけないとも思う。
もし違う物語を紡いでしまったら、全てが歪んでいく気がする。
その結果、ゴンたちにどんな影響が出るかもわからない。先の見えない賭けだ。
ぐるぐる先のことで悩むより、いま俺がすべきなのは元の世界に帰る方法を見つけること。

立てた膝を抱えて、顎をのせて姿を見せた星たちを見上げる。

「………故郷か。懐かしいかどうかも、もうわからないな」

それぐらい、この世界に馴染んでしまった俺がいる。
………物騒な人達には慣れないけどね?ゾルディック家とか旅団とか超怖いけどね?

でもやっぱり。

愛着は、感じてしまっている。




あれ、ちょっと真面目になってしまった。

[2012年 3月 18日]