あれ、ちょっと真面目になってしまった。
[2012年 3月 18日]
ポンズに部屋は譲っちゃったから、もう一回お宝探してこないとなー。
いくらでも財宝はありそうだしそれほど苦労はしないだろ。
「「!!」」
「………?」
大きな声が聞こえて足を止めると、むこうからキルアとクラピカが走ってきた。
どうしたんだ?と訳がわからず待ってると、二人ともなんかすごい顔。
不機嫌そうというか、怒ってるというか、切羽詰ってるというか。
な、なんだよどうしたんだ、何があったんだ?
「、あの女は!?」
「…?いまは部屋にいる」
「それでお前はこれからどこに行くつもりなんだ」
「海に。俺の部屋の分、宝見つけてこないと」
「じゃああの女と一緒に泊まるわけじゃないんだな!?」
ぐわし、とキルアに腕をつかまれて俺はたじたじ。
え、ええ?なんで二人ともそんな真剣な顔で詰め寄ってくるんだよー。
「男の俺が、あの子と同室になったらマズイだろ」
「…そうだな、マズイと私も思う」
「俺も」
だろー?
ハンター試験をここまで残ってきた子だから、すっごく強いとは思うけど。
やっぱり女の子とホテルで同室は勘弁してほしいよな。落ち着いて眠れない。
それにポンズ可愛いしさ。俺は反して貧弱だから…情けない思いしそう。
「なーなー、だったら俺たちの部屋に来れば?」
「…キルアの?」
「そ。ゴンと一緒」
「……そうだな、その方が私も安心だ」
キルアの提案になんでかクラピカが頷く。
え、俺そんなに心配されるほど頼りない?そりゃキルアたちに比べれば弱いけど!
キルアとゴンが傍にいないと危なっかしい、なんて認識されてたらさすがに傷つくぞ。
………いや二人がいてくれれば実際心強いんだけどさ。
でも年齢的にはこう、俺の方が保護者というか庇護者であるべきでだな。
ひとり葛藤している間に、キルアに手を引っ張られずるずると。
心配事が減ったクラピカはやることがあるから、と別行動。
って、俺まで宿泊代出してないんですけど!無断で宿泊はまずいだろ!
とりあえず宿泊代になりそうな財宝は簡単に見つかった。
部屋も一応もらったんだけど、キルアと約束させられたから結局は三人で寝るんだろう。
「!ゴンが釣りやらせてくれるってさ、一緒にやろうぜ!」
「釣りか…」
すごく嬉しそうな顔で駆け寄ってきたキルアと、むこうで釣竿を下げているゴン。
すっかり二人は仲良しだよなー、見てて微笑ましい。
誘ってもらえたのは嬉しいんだけど、俺はちょっと遠慮しておこうかな。
「後でそっちに合流するよ」
「なんだよ、どっか行くのか?」
「もう少し財宝調べてくる。俺の探してるものの手がかりもあるかもしれない」
「探してるもの…?」
「呪いの石版」
「は、何のためにそんなもん」
「俺の故郷の手がかりかもしれないんだ」
帰る方法がそれで見つかるのかわからないけど。
いま俺にできることってそれぐらいしかないんだよなー。そう考えてはや数年…。
この辺りにある難破船、すごい年代物もあるっぽいからアンティークも多い。
伝説級の財宝とかもあったし、呪われた品物があってもおかしくないよな。
そういうのに不用意に触れば危険だけど、俺には呪いを無効化してくれる首飾りもある。
うん、ダメ元で行ってみよう。
荷物はとりあえずキルアとゴンに見てもらって。
俺は再び難破船のあたりをうろうろ。うわー、腐ってる木材も多いな。
裸足になって足の裏に感じる触感で判断して、俺は大丈夫そうな部分を踏んで進む。
じーちゃんに渡されたあの石版って、オリエント方面の発掘物だったよな。
だからそれに関連した財宝が積んでありそうな船…。
とりあえず目星をつけた船に入り込んで、船倉を物色させてもらうことを繰り返す。
保管されたミイラとかまであったりしたのは驚いたけど。
碑文とかも発見したはしたんだが、俺がじーちゃんに見せられたのとは違う。
ううーん、凝をしてみても特別オーラが定着してるわけでもなさそうだしなー…ハズレか。
いくつかそうやって回ってると、いつの間にやら夕暮れ。
水平線に大きな夕日が飲まれていくところで、俺は思わず見惚れた。
「………どの世界でも、夕日っていうのは感傷的になるな」
赤く染まり燃える空。
………そう、燃えている。…………燃えてる…………船が。
あれ、えっ、船燃えてますけどおおお!!?
びっくりして振り返ると、燃える船の傍に人影がふたつ。
………あれクラピカとレオリオか?あ、そうか。
やることがあるから、ってクラピカは言ってたけど。
「…クルタの船か」
「………」
近づいて声をかけると、よくわかったなとクラピカが小さく苦笑した。
燃え盛る船を見ても普通はわからないだろうけど、俺はアニメを見て知ってる。
いま炎に包まれているあの船は、クルタ族のもの。
旅団から逃れようとして難破した船ではないか、と言ってた気がする。
同胞を弔う炎が徐々に役目を終えて小さくなっていく。
鎮魂の歌、というようにホテルとなっている軍艦の汽笛が鳴り響いた。
そしてクラピカが手にしていたクルタ族のお守りを遠くへ投じる。
「…幻影旅団は必ずこの手で捕えてみせる。奪われた同胞の瞳も全て取り戻す」
「………あぁ」
「だからいまは、安らかに眠ってくれ」
「悲願を果たすためにも、お前はハンターになるしかない。必ずな」
そう背中を押すレオリオは本当に良い男だ。
クラピカの生きる理由は、幻影旅団を捕え同胞の瞳を取り戻すこと。
全てを奪われた幼い少年がいまこうして立派に育っているのは、その誓いがあったから。
それはわかってるけど、でも俺としては複雑で。
幻影旅団が正しいとは思わない。むしろ善悪で言えば悪だと思う。
他者の命をあまりにも簡単に奪い、それを気に留めることはない奴らだ。
でも俺は、旅団の面々を個人として知り時間を共有してしまっている。
だからできることなら、彼らにも傷ついてほしくないと思ってしまう。もちろん、クラピカもだ。
結局人間は勝手な生き物で、自分にとって大事なひとが無事であればそれでいい。
俺だって同じだ。クラピカたちはもちろん、シャルたちにも無事でいてほしい。
例えそれが、俺のわがままなんだとしても。
「もう暗くなる。戻らなければ何も見えなくなるぞ」
「………もう少し、ここにいるよ。月も星も出てるから、十分明るい」
「だが」
「あっちでゴンたちが釣りをしてるはずだ。もう飽きて別のところに行ってるかもだが」
「釣り?」
「あの二人だとまた探検でも始めてるかもしれない。見つけたら戻るよう言っておいてくれ」
立ち入り禁止って場所まで入ろうとするからな、特にキルア。
まだ少し躊躇うクラピカだったけど、レオリオに促されてホテルへと戻っていく。
俺は岩場に腰かけてコバルトに染まる空をじっと眺めた。
この世界でできることなんて、俺にはほとんどなくて。
むしろ生き残るのがやっと。だから原作を捻じ曲げるなんて、きっとできない。
…できないし、しちゃいけないとも思う。
もし違う物語を紡いでしまったら、全てが歪んでいく気がする。
その結果、ゴンたちにどんな影響が出るかもわからない。先の見えない賭けだ。
ぐるぐる先のことで悩むより、いま俺がすべきなのは元の世界に帰る方法を見つけること。
立てた膝を抱えて、顎をのせて姿を見せた星たちを見上げる。
「………故郷か。懐かしいかどうかも、もうわからないな」
それぐらい、この世界に馴染んでしまった俺がいる。
………物騒な人達には慣れないけどね?ゾルディック家とか旅団とか超怖いけどね?
でもやっぱり。
愛着は、感じてしまっている。
あれ、ちょっと真面目になってしまった。
[2012年 3月 18日]