第113話

「そういやの本当の部屋ってどこ」
「あっちの…。あぁ、そうだ同室のヤツに挨拶してくる」
「は?」
「キルアたちの部屋に泊まるから、好きに使ってくれって伝えておかないと」
って妙なとこ律儀だよなー」

キルアが釣ってくれた魚をおいしくいただき(本当にうまかった!)
いまは寝る準備中。ゴンはそこのシャワールームで汗を流してるところだ。
預かってもらってた荷物から着替えを取り出してた俺の言葉にキルアは呆れ顔。
いやでもさ、いつ同室の人間が戻ってくるかと気にしてたら可哀想じゃん。
………そんな神経細いのが受験者の中にいるとは思わないけど。

すぐ戻る、と声をかけてとりあえず本来の俺の部屋へ。
えーと確かここだ。ノックしてから扉を開けると、矢の手入れをしている少年を発見。
………あ、もしかしてポックル?俺の同室ポックルだったのか!

「…あんた」
「この部屋の予定だったんだが、別のところで寝るから気にしないでくれ」
「別の部屋?」
「あぁ。お誘いがあった」
「………あんたな」

子供のお泊り会に参加とかそりゃ緊張感ないと思うだろうけど!
でもそんな呆れた顔しなくたっていいじゃんか!キルアとゴンの誘いは断れないよ!

「昼間運んでた女か?」
「女?………あぁ、ポンズか?彼女は違う」
「なんだ違うのか」

そりゃ違うでしょ、女の子だよ!?
女の子からお誘いあるわけないじゃん俺に!………自分で言ってて悲しくなってきた。
あ、でもポンズの様子はもう一度見に行った方がいいかな。捻挫、良くなってるといいけど。
それじゃ、と部屋を出ようとすると「ほどほどにしとけよ」と訳のわからないことを言われた。
…夜更かしするなよ、ってことか?

ポックルと同室ならそれなりに楽しかったかもなー、ちょっと残念。
ゴンとキルアと一緒に寝るとなると、確かあいつらの寝相ひどかったはずだから…戦いだ。
どうやって夜を乗り切るか、と考えながらポンズの部屋へ。

ノックして扉を開けて。
………………………………………。

ぱたん。

………………。
………………………………。

よし、キルアたちも待ってるだろうし部屋に戻ろう。
いまのは見なかったことにして、さっさとシャワー浴びて寝ようそれがいいそれが。

「せっかく来たのに、どうして入ってこないんだい?」
「………お前がいたからだ」

がちゃりと扉を開けて顔を出したのはピエロそのもの。
楽しげに細められた瞳がこちらに向くだけで、ぞわりと悪寒を感じる。
なんでお前がここにいんだよヒソカー!!!??

あれ、この部屋にポンズ運んだはずだよね!?なのになんでヒソカがいんの!
しかも部屋の入口にはトンパらしき物体が蹲ってたし!!
あれ俺部屋間違えた!?と思うものの、そういえば…とうろ覚えな記憶がよみがえる。
…そういや軍艦島のとき、色んなメンバーが部屋をとっかえひっかえしてたような…?
………取り替えた挙句にヒソカと同室になったのかトンパ。…さすがに哀れな。

「ボクは君と同室になれるかと思って期待したのに違うから、がっかりしちゃった」
「あぁ、そう」
「それとも一緒に寝るかい?君なら歓迎するよ、ベッドは空いてるし」
「いやトンパの分だろあれ」
「だって彼は床で寝たいみたいだし」

それはお前の隣で寝るのが怖いだけだ。

「…トランプタワー作ってどうせベッドはひとつ使えないだろ。空いてる方はお前が」
「え、二人でひとつのベッド?ククク、積極的だねぇ」
「………………」

話を聞けええええぇぇぇぇぇぇぇ!!そして歪めるなあああぁぁぁぁぁ!!!
お前の発言はどうしてそう、いちいち、いちいち…!!
わかってる?俺もお前も男。そんでもって俺にそういう趣味はない。ヒソカにはあってもだ。
だいたい、普通に考えて大の男ふたりがひとつのベッドとか…無理無理。
さらに言うなら、ヒソカと一緒に寝るとかもっと無理!!
まだシャルとかのが安心して寝れるわ!クロロとかイルミは無理だけどな!

「そんなに良いオーラを向けるなよ、興奮しちゃうだろ?」
「………お前は真性の変態だな」
「ひどいなぁ」

怯えて恐慌してる人間に興奮するとか、変態のサディストだろうが。
とにかく俺は寝ないから、キルアとゴンが待ってるから!
ヒソカに何かされるんじゃないかと警戒しながら部屋を離れるけど、特にアクションはなく。
ひたすら笑いながら見送る奇術師が逆に気持ち悪い。

…あいつ、何かしても何もしなくても気持ち悪いんだな。
トンパ、強く生きろよ。…骨は見つけたら拾ってやるかもしれないから。






俺が部屋に戻ると、もうキルアもシャワーを浴び終えたところらしく。
じゃあ俺もとそのままシャワールームへ。うわ、まだ鳥肌たったままだよ。
ちょっと落ち着きたくて湯船にも浸からせてもらう。ふー、あったまる。

ハンター試験、ヒソカにだけは関わりたくなかったのに…なんだってこうなるんだ。
っていうか俺、そもそも試験に参加する気なかったのにここまで残っちゃったし。
リタイアの機会を窺ってたはずが、普通に試験クリアする気になっちゃってるよ。
…でもここまできたら合格したいと思わないでも…。
あ、でもそうすると最終試験どうしよう。ボドロの代わりに俺が殺されたりとか?ははは。

…………………笑えない。

風呂から上がって部屋に戻ると、ゴンとキルアが枕投げに興じていた。
ちびっ子は元気だな本当に。キルアが楽しそうにしてるから、俺はそれだけで嬉しいけど。

「ほら二人とも、そろそろ寝ろ」
「あ、もやる?」
「よっしゃ、対ゴンと俺な」

なんのいじめだ!?






遊んで満足したらしいゴンとキルアは、割とすぐ就寝。
そんですぐさま独創的な寝相を披露しはじめて俺を苦しめてくれた。
ど、どうやったらそんなアクロバットな寝方ができるんだお前ら…!!
ああもう、結局はこうなるのか!

結局俺は二人を片腕ずつ抱えて動かないよう拘束。
嫌な懐かしさだなぁ。そういえば小さいキルアと寝るとき、いっつもこうやって抱えてたっけ。
…でないと寝ぼけたキルアに何されるかわかんなかったもんな。

そうして異変が起きたのは夜中。
俺たちを運んできた飛行船が、不意にこの軍艦島から飛び立ってしまった。

残された受験生たちはただ唖然と、それを見送るしかなかったという。

俺?俺はさ、もうさ。
キルアとゴンを抱えて寝るのに疲れきっちゃって。
飛び出す二人をベッドから見送ることしかできなかったんだな!
いってらっさーい、とばかりに手を振る俺にキルアはちょっと怒ってたけど。
ようやくひとりでベッドで寝られる、と俺は遠慮なく夢の世界へ旅立っていった。

ほら、一応どうなるか知ってるしさ!






小心者なんだか豪快なんだかよくわからんひとだ。

[2012年 3月 31日]