第114話―クラピカ視点

闇夜に飛び立っていった飛行船。
私たち受験生はただそれを見送ることしかできなかった。
ホテルの支配人たちも姿を消しており、本当に受験生たちだけが取り残されている。
突然の事態に動揺する者も多い。

「どうなってるんだよ…試験までの間、ここで休暇のはずだろ?」
「わからない。何かあって離れたのか…しかしその場合は支配人たちを残していくはず」
「ああくそ、訳がわからねえ!」
「落ち着け、レオリオ。無駄に体力を消耗するぞ」
「お前が落ち着き過ぎなんだ!」

状況がまったく呑み込めないため、とりあえずこの場で待機するしかない。
もしかしたら一時的に離れただけで、すぐに戻ってくる可能性もある。
苛立つレオリオは放っておくことにしよう。夜風で頭を冷やしてもらうとして。

少し離れた場所で裸足のまま飛び出してきたらしいゴンとキルアに近づく。

「ゴン、キルア、はどうした?」
「寝てる」
「寝て…?」
「うん、なんか眠るの優先したいみたいだったよ」

この場にはヒソカや顔に針を刺した者もいない。
彼らやのような実力者たちからすれば、この程度では騒ぐことでもないのか。
焦る私たちがまるで滑稽のように思えて。
けれどできることもなく、夜空を見上げていた。







結局は朝になっても飛行船は戻ってこなかった。
つまりはこれも試験のひとつなのだろう、と受験生の間で結論が出る。
次の試験会場はゼビル島。そして開始は三日後と通達が出ている。
恐らくは三日後にゼビル島に到着することが、四次試験参加の条件なのだろう。

目的地までの地図は見つかった。
だがここ軍艦島から目的地に至るまでの明確な距離はわからない。
それでも方角さえわかっているなら、と飛び出していこうとする受験生が多くいた。
まだ少ない情報で海に飛び出していくのは危険だと忠告はしたが。
…ここまで試験を乗り越えてきた者たちは、それぞれに自信がある。実際実力もある。
だからこちらの言葉に聞く耳を持つことはなく、海へ出る作業へと取り掛かってしまった。
過信は身を滅ぼす、ということにならなければいいが。

まずは慎重に動くべきだ、と意見の一致した者たちで艦内を探索する。
私も調べてみるものの、目立ったものが出てくるわけではない。
何も見つからないという焦燥に駆られながら、ブリッジへと向かう。

「………あれは」

通路を横切っていった人影は、だったような気がした。
いつも通りの落ち着いた静かな足取りは、船の外へと向かっているらしい。
どこへ行くつもりなのだろうか。思わず私の足は彼を追っていた。

潮風に黒髪を揺らし、は甲板を出て水平線を眺めている。
じっと海を見つめる背中は微動だにせず、いったいその先に何を見ているのだろう。
海は静かなもので、空は快晴。こんなときでもなければ、レジャー日和だ。
なのには何かを感じ取っているかのように、ただ寄せる波を眺めている。

どのぐらいそうしていただろうか。
長かったかもしれないし、実はとても短い時間だったかもしれない。
ふと海から目を離したは身軽な動作で難破船が転がる方向へ飛び移っていった。

一瞬追いかけようかとも思ったが、私は調べものの途中。
そろそろハンゾーやレオリオたちも集合場所に戻ってくる頃だろう。
後ろ髪を引かれながらも、私はブリッジに向かうことにした。
いったい水平線に何を見ていたのか。それは後でに確認してみよう。

そうして皆で話し合った結果、ゼビル島へは残った者たちで協力して向かうことに。
一次的ではあるがリーダーを決め、それはハンゾーが務めることに。
私はサブリーダーとして動くことになり、もう一度きちんと艦内を調べ情報収集。
するとゴンとキルアが、この軍艦を使用していた者の航海日誌を発見してきた。
得られる情報が増えたことを喜んでいたが、異変が起こる。

それまで全く繋がらなかった通信に変化が出た。
さらに水平線に沈む夕日がおかしな現象を見せ、大気の異常を報せる。
ゴンは何かの音が聞こえるといい、先ほどよりも迫っていると告げた。
私は慌てて航海日誌を開く。過去の記録に、何か書かれてはいないか…!

「七月四日、電波障害発生。兆候が表れたことにより、撤退準備を始める」
「ん?」
「我が守備隊は明日早朝をもって当砲台を放棄、避難する」

日誌に書かれている文面を私は読み続ける。
書かれていることの恐ろしさに、だんだんと声は緊張を帯び朗読も早くなっていく。

「明日の日没前後、第一波襲来が予測される。その前に…」
「第一波?なんのことだよ」
「それは予想通り、十年に一度の周期で…」

日没前後、いまがそのときではないのか。
電波障害、大気の異常を報せる見たこともない夕日の姿。

まさか、日誌に書かれていた十年に一度の天体現象が起ころうとしているのか。

あっという間に風が強まり、海面の水位が上昇していく。
夕日が水平線に呑み込まれ夜が訪れる。
竜巻が起こり、渦潮と繋がっているのが遠目に見えた。
空はいつの間にか黒雲に覆われている。なんという急激な変化だ。

「………はこれを、感じ取っていたのか」

ゴンはずっと妙な音が聞こえていたらしい。
ハンゾーも嫌な予感をずっと覚えていた、忍の勘というもので。
磨かれた本能を持つ二人が、この異常気象を察知していたのなら。

ひとと違う空気をまとう彼も。
何かに気づいていても、おかしくないように思えた。






いやー…気づいてたのかなぁ。アニメで知ってはいたでしょうけども。

[2012年 4月 29日]