第118話

てなわけで、情報を持ち寄ってみたところ。
船を動かすためにやらなければならないことがいくつかわかった。

島にめり込んだ艦首部をどう抜くか。
そのためには軍艦の大砲を使用して、めり込んだ部分を狙うしかない。
となると、今度は動力を砲にまで伝達する必要もある。
さらには砲弾を用意しなければならない。
メインエンジンも眠ったままであり、起動させるという問題もある。
船を動かすためのスクリューには海藻が巻き付いていて、それを撤去する作業もあった。

それぞれが得意分野を生かして役割を担当していく。
ゴンとキルアは海に入ってスクリューの掃除かぁ。あの二人の肺活量すごいよな。
クラピカは船の操縦と主砲の発射プロセスの確認。ハンゾーは大砲の状態をチェック。
レオリオは砲弾を探しに行ってて、さて俺はどうしたもんか。



クラピカが声をかけてきた。
俺が手持無沙汰にしてるのを察してくれたのか、頼みたいことがあると一言。
おう、俺にできる仕事ならやるやる。ひとりサボってんの居心地悪いし。

「44番、ヒソカのことだが」
「あれは放っておけ」

ごめん無理、ヒソカ関連だったら俺ナニモデキナイ。

「そうもいかない。これはチーム戦だ、イレギュラーを起こす者がいては脱出できるものもできなくなる可能性がある」
「………」
「別に彼らに接触してほしいわけじゃない。ヒソカ達が私たちの邪魔をしないよう、見張っていてほしいんだ。不審な動きがあったら報告してほしい。…いいだろうか」
「………報告だけでいいなら」
「十分だ」

ヒソカ「達」ってことは、イルミのことも見張れってことだよねきっと…あああぁぁ。
あの二人は放っておいて大丈夫だよー。そりゃ何するかわからないって感じるだろうけどさ。
…見張りの仕事を任されるって…俺もしかして役立たず扱いなんだろうか。
細かい作業苦手と思われてるんだったら切ない、と思いながらとぼとぼ歩き出した。

あいつら外にいるんだろうなー、なんかずっと蚊帳の外なんだけど俺。
船から出てみると、すでに風が妙な気配を帯びはじめてた。
…雨がきそうな風とも違う。もっと、不気味な感じだ。

「なんか急にバタバタしだしたね」
「皆頑張ってるらしいねぇ」
「………」

水平線を眺めてたら、両隣から声。
おっ……まえら…!気配を殺して近づくのホントやめて…!!
ハンゾーといい、ヒソカといい、ギタラクル(イルミ)といい、もうやだー!!
俺の心臓止まるっ。寿命がどんどん縮んでいく気がする…っ…。

は混ざらないの?」
「…お前達を見張るよう言われた」
「じゃあ暇なんだ。トランプタワーを作るの手伝ってよ」
「この風の中?すぐ崩れるだろ」
「またあの嵐来るんでしょ。いつ?」
「…あと十時間ぐらいらしいけど。あくまで予想だ、もっと早い可能性もある」
「ふーん」

っていうかお前ら協力しろよな、受験生だろうが。
……いや、俺も作業に加わってないけど。でもクラピカの指示だし!

「暇だし、ダーツとかやる?」
「的がないじゃない」
「ヒソカのトランプを的にして」
「ひどいなぁ。イイケド」
「………俺、ダーツのルール知らないが」
「そ。じゃあ教えるよ」
「ボクも教えてあげるよ、手取り足取り」
「断る」

背後に立つな変態がああああぁぁぁぁぁぁ!!
そしてイルミ!お前も顔から抜いた針を「はい」とか渡してくるなよ!?
恐くてそんなもん投げられるかってーの!
……おい、だからヒソカ、なんで俺の後ろに立つんだ。あ、投げ方教えてくれようと…?
腕をつかむのはよしとしても腰に触るのはヤメロ。うおお、鳥肌立ってきた…!!

「………俺の背後に立つな」

ぞわぞわする、もう勘弁!と俺はヒソカから距離をとる。
意外にもそれほど強く拘束してなかったのか、ヒソカの手はあっさりと離れた。
そんなに良い顔するなよ、とにたにた笑ってるのがはてしなく気持ち悪い。

「ほら、あそこにトランプ置いたから。まずは好きなの狙ってみなよ」

そしてお前はマイペースすぎるだろイルミ。
だから俺ダーツの経験ないんだって。………針ってけっこう重いのな、これ。
イルミの武器にもなるものを投げるって、滅茶苦茶緊張する。
海とかに落ちたら怒られるんだろうなー…むしろ殺されたり。ああ、やだやだ。

俺が投げるまで解放してくれなさそうだ、と覚悟を決める。
とりあえず適当にトランプを狙って…………うりゃ!って、めっちゃ違う方向に飛んだー!!

「嫌だなぁ、ボクとそんなに遊びたいのかい?」

まさかのヒソカの顔面めがけて飛んでった。
人差し指と中指で軽々と針をキャッチしたヒソカは、やたらとご機嫌で怖い。

「………俺はトランプを狙っただけだ」
「あぁ、ヒソカってジョーカーそっくりだしね」
「いいよ、的になってあげようか」
「いらん」
「ヒソカ気持ち悪い」
「二人して冷たいなぁ」

マゾなのかサドなのか本当はっきりしてくれ。…っていうかノーマルになれよ!!
………俺はこのまま、変人たちに囲まれて軍艦島編を終えることになるのだろうか…はあ。







そうこうしてるうちに日が沈んで、また渦潮と竜巻がやって来た。
しかも前のときとは比べものにならない大きさで、あれはヤバイとわかる。
軍艦が力を取り戻し、砲門が動いて岸壁を打ち砕く。それによって、船首が解放された。
………だけど、船が傾いていく。このままだとバランスがとれず転覆するかもしれない。
クラピカが操縦してるはずだけど………あ、衝撃で壁にぶつかって気絶するんだっけ?

「ん?おやおや」

隣で声を漏らしたヒソカが、急に動き出した。
ヤツの視線の先には波に呑まれている甲板。その手すりに人影が……って、ゴン!
しかも海に身体が浸かってるらしく、なんとか手すりにつかまって堪えている。
だがこの波だ、限界があるだろう。だからヒソカは救出に向かったんだ。

まだ青い果実を失うわけにはいかない、ってことなんだろうけど。
でもゴンを助けてくれるという意味では信用できる。よし、あっちはいいとして。

艦橋にいるはずのクラピカが無事かどうか心配で、俺は船の中に入った。
そのまま駆け上がって艦橋に入ると、壁に寄りかかるようにして気絶してるクラピカ。
驚いたことに、主を失っているはずの舵はイルミが握っていた。
そう、イルミだ。なんでか知らんが、顔の針を全部抜いて本来の表情になってる。

「こんなでかい船、動かせるのか」
「うん、できるんじゃない?」

おいおい、操縦してる人間が疑問形で返すなよ。
でも傾いてた船体が徐々にバランスを戻していくのがわかる。
あ、飛行船も動かせるんだしこういうの得意なのかな。とりあえず助かった。

気を失ってるらしいクラピカの傍に膝をついて、傷を確認。
血は出てるけど大きなものじゃない。よかった、これなら問題にはならない。
一応布を当てて包帯を巻いておく。
その間にも何度も船全体を揺らすような衝撃が響いた。砲撃のせいだ。
砲門はこっちに向かってくる竜巻に向けられてて、砲弾が次々と放たれる。
衝撃で船体がバランスを変えても、イルミはそれを上手く調節していく。

なんだかんだ、大事なところはちゃんと締める。
そんなイルミとヒソカは、おいしいとこどりだよなとしみじみ思った。





軍艦島編は大人組のターンだったらしいです。

[2012年 5月 29日]