第119話

「う………」
「目が覚めたか?」
「……?」

朝日が差す頃、ようやくクラピカが目覚めた。
砲撃のおかげなのか、竜巻はすっかり消えて、黒雲は影も形もない。
海を穏やかに航行する軍艦島に、俺たちは無事に生き延びたんだということがわかった。
副リーダーとして頑張ったクラピカに、お疲れと笑う。
まだぼんやりした様子のクラピカだったけど、眩しそうに目を細めて笑い返してくれた。

そして生き延びた俺たちを迎える飛行船が見えて。
どうやら次の試験を受ける資格があると認めてもらえたらしい、と。
朝日を浴びて清々しい気持ちで皆笑い合った。






ほぼ徹夜のような状態のため、受験生たちは飛行船に乗ると仮眠に入るひとが多かった。
俺はそれほど疲労してない。…いや、精神的な疲労はけっこうあったんだけど。
でも体力的にはあんまり動いてないから、のんびりラウンジに足を運んでた。
次の試験の準備をしておこうと思って。

ゼビル島で行われる四次試験。狩る者と狩られる者。
この試験は、受験生たちの間でナンバープレートを奪い合うという内容だ。
強力して試験を乗り越えた後で、今度はお互いが敵になる。なんともえぐい。

ゼビル島で過ごす間は、自力で食糧とかも手に入れないといけない。
遺跡探索とかゴミ山で過ごした経験とかで、サバイバルはそれなりにできるけど。
でもどうせならまともなもの食べたいじゃん?というわけで。
俺は保存が効きそうな食べ物を注文して、持ち運びしやすいようにしてポケットへ。
………っていうか、生き残れんのかな次。俺が狙うことになるのって誰だろう。
しかも俺を狙う受験生もいるってわけで。うう、胃が痛くなりそうだ。

「こんなとこで何してんだよ」
「キルア。お前も食べておけ」
「むぐ」

ひょっこり顔を出したキルアの口にハムを突っ込む。
目を白黒させたちびっ子は、素直にもぐもぐとそれを咀嚼した。

「…なんでメシ?」
「食べられるときに食べておいた方がいい」
「そりゃそうかもしんないけどさ。俺はの作ったもん食いたい」
「……試験が終わったらな」
「あ、そうだ!試験終わったらん家行っていい?」
「…俺の家?」

なんだってまた、と首を傾げるとキルアが身を乗り出す。

「行ったことねーんだもん」
「……まあ、誰も呼んだことないしな」

俺の家、って言える場所はシャルの家なわけで。
あいつは気にしないだろうけど、でも勝手に客を呼ぶのはちょっとなー。
もうひとつ家と呼べるのは、ゲームの世界の中にあるけど。そここそ、まだ無理だろ。
…っていうかグリードアイランドの家は他人に教えちゃいけないんだった。

俺だけの家、ってのいつかゲットしたいよな。いつまでもシャルに迷惑かけらんないし。
ハンターになれれば、身分証明書もできるからそれも夢じゃない。
なんてことを考えてたら、痺れを切らしたキルアが顔をずいっと近づけてきた。

「合格祝いに、ん家に遊びに行きたい」
「………すぐには無理かもしれないけど、わかった」
「えー、なんで駄目なんだよ」
「…やっぱり許可取らないとだろう」
「は?許可?」
「俺だけの家じゃないんだ。もうひとつはちょっと、言えない場所にあるし」

何それ、って猫目をぱちぱち瞬くキルア。
どう説明しようかと思っていたら、今度はやたら不機嫌そうな顔になった。

「…同棲してるってこと?」
「いや、ちょっと違う。むこうは気が向けば寄るぐらいだ」
「……ふーん」
「もともと俺が根なし草の生活だったからな。ちゃんとした俺だけの家を買ったら、キルアを招待するよ。もちろん、食事つきで」
「約束だからな」
「あぁ、約束だ」

俺の家が持てたら本当良いよなぁ。
キルアとかシャルとか、お世話になった人達呼んでちょっとした食事とかして。

…そのためにも、四次試験を頑張って生き残ろう。

生き残る、ってのは正直そんなに難しくないと思うんだ。俺の念を使えば。
問題は、どうやってターゲットのプレートを奪うか、ってこと。
俺から仕掛けるのって、苦手なんだよな。基本的に専守防衛だから俺。
ゴンみたいに釣竿とか使えればなぁ……。念使って奪うことは可能だろうけど…うーん。

、これ何」
「……干し芋だ。うまいぞ」
「これがぁ?」
「噛めば噛むほど味が出る」
「へー、ガムと反対か。………って、意外にかてぇ」
「けっこうもつから、気に入ってる」

もぐもぐずっと口を動かしてるキルアは可愛い。
ケーキが大好きな俺だけど、こういうのも好きだ。甘いもの全般好き。
今度ハンゾーにおいしい和菓子屋を教えてもらおうかな。

「キルアここにいた!」
「お、お前も食うか?」
「あれ、なんかおいしそうなのが色々あるね」

キルアの隣に座ったゴンがメニューを手に足をぶらぶらさせる。
頼みたいなら頼むといい、と促して俺は干し芋を袋に入れる作業を再開。
いまだに干し芋を噛んだままのキルアだけど、嫌いな味ではないらしい。
食べたことない感じだと言いながら、興味深げに味を確認してる。

結局は普通に食事を始めるちびっ子たちは元気いっぱいだ。
徹夜明けだと俺はあんまりがっつりは食えないんだよなー。
というわけで、俺は紅茶を注文。うん、落ち着く。

「ようやく四次試験だね!ゼビル島で何やるのかな」
「さーな。なんかハンターらしい試験がきてほしいぜ」
はどう思う?」
「………四次試験ともなれば、それなりに難易度の高いものになるんじゃないか」

内容知ってるけど言えないんだ、ごめんよゴン。
俺に未来予知の力があるとか思われたら困るし。原作通り進まない可能性もあるし。

願わくば、俺がなんとか死なずにすみますように!





というわけで、次回から四次試験開始です。

[2012年 5月 29日]