第123話

ゴンの毒は、もう全身に回ってて俺の念能力じゃどうにもならない。
よく俺が治療に使ってる念能力は≪刻まれた時間(タイムレコード)≫って名前。
俺の時間を操作する力で、時間を進めたり巻き戻せたりする。
もう治りそうな傷なら、時間を進めて回復を早めたり。
逆に怪我をした直後なら、時間を巻き戻して負傷する前の状態にできる。

といっても、これは際限なくできるわけじゃない。
この能力の効果を引き上げるために、制約と誓約がある。

制約は、この能力が及ぼす範囲。
無機物に対しての方が効果が大きくて、植物にはまあまあの効果。
動物と、そして一番効果が出にくいのが人間に対してだ。
トリックタワーで枯れた大木を風化させられたのは、すでに生きていない植物だったから。
人間に対してだと、かすり傷ぐらいならすぐ治せるけど、大きな傷になると厳しい。

そして誓約。
これは決められた制限を超えて能力を行使した場合、俺の時間が削られる。
…まあつまり、俺の命が削られてくってこと。

制限を超えるかどうかを判断するのが、ゾルディック家にもらったこの「秤の腕輪」だ。
石が透明な状態がデフォルト。これを0として考える。
時間を進めると、石はだんだんと赤くなっていく。これが真っ赤に染まった状態が50。
逆に時間を巻き戻すと、石は青く染まる。限界まで青く染まった状態がマイナス50。

いま俺の腕輪の石は限界の青まで染まってる。ポンズを治療したときの状態だ。
マイナス50の状態からだと、マイナスから0へ、そしてプラス50まで時間を早送りできる。
つまり早送りだけなら100メモリ分できるんだけど。完全回復までには至らない。
そんなに早めたら、毒がより広がってゴンの身体がしんどいはず。
巻き戻せればよかったんだけど、真っ青な石の状態じゃ無理だ。
これ以上巻き戻したら俺の命をかけないといけなくなる。それに他にもまだ制約はあったり。

ゴンを安全な場所まで運んで、汲んできた水を飲ませる。
できるだけ飲ませて、毒を薄める。あとヒソカに殴られた部分も濡らしたタオルで冷やす。
あーあ、毒を受けた上にこんだけ腫れちゃって。可哀想に。

「……っ………」

ゴンが、呻く。
毒が回って苦しいのかと思ったけど、それとは様子が違う気がして。
ぼんやりと原作が頭に残ってる俺は、ゴンのこのときの気持ちをなんとなく覚えていた。

確か、ゴンは悔しがってた気がする。
ヒソカにプレートを恵まれたこと、勝利の直後に敗北してしまったこと。
強がっても意味のないほどに砕かれた虚勢。
少年漫画の主人公がぶつかる壁とはいえ、まだゴンは本当に子供。
充分に、ゴンは強い。でも。

「……ゴン、お前は強くなれるよ」

心配になるぐらいに、強くなっていくことを知ってる。
…そうや蟻編の途中までしか読んでないけど、ゴンの精神状態ヤバかったよな。
心と意思が強い分、それが折れたりするとどうなるかわからない。
正邪の境がなく、どんなものにも染まる可能性のある怖い存在だから余計に。

でもきっと、最後にはゴンはあの真っ直ぐな目で皆の心を晴らしてくれる。
そう信じてる。だってほら、やっぱり主人公なんだから。

だから、ここで俺ができることはもうない。
あとはゴンが自分の中で戦って、答えを出さないといけないんだろう。
しばらく動けないだろうゴンの傍に、飛行船でもらっておいたハムを置いておく。
ヤシの実みたいなのを器にして、そこに水も溜めて。

もう一度ゴンの頭を撫でて、俺はその場を離れた。






さて、これで点数は揃ったし。また潜伏するか。
…おー…もう明け方だ。ちょっと仮眠するか、と手近な木に登る。
期限まであと四日。その間、プレートを守らないといけない。
どうしたもんかなー、また木の上で生活かなー。

とりあえず「円」を使って周囲に他の受験生がいないか確認。
うおお、なんか人の気配が…!!って、あ、これは受験生を見守る試験官か。
ならとりあえずいいや。他に人の気配はないし、ちょっと眠ろう。

としばらく仮眠をとって目を開けた頃には、もうすっかり太陽は空の真ん中に。

……仮眠ってレベルを超えた気がするけどいいことにしよう。
もう一度周囲を確認してみると、試験官の他に気配がもうひとつ増えてた。
なんだ襲撃か、と緊張したけど…「円」で感じ取れるその人影はちんまい。
髪がつんつん、とかそういうのまで円だとわかる。って、これは。

「キルア」
「おあ!?」

ちょうど俺がいる木の下を通りかかったキルアに、飛び降りながら声をかける。
こっちの気配に気づいてなかったらしいキルアが、驚いて飛びのいた。

…?おどかすなよ!気配殺して近づくなってーの!」
「悪い。忘れてた」

びっくりしたのが恥ずかしかったのか、キルアは怒ったような顔で叱ってくる。
確かに驚いたとこ見られるのって恥ずかしいよなー、わかるわかる。
ぷりぷり怒ってるキルアはいつものことだから微笑ましく思うとして。
プレートは集まったか確認すると、もちろんと自信満々の笑顔。おお、さすがだ。

は?」
「集まった。期限までどうしようか考えてたところ」
「だよなー、あと四日もあるし。あ、なんか食いもんない?」
「…干し芋でいいなら」
「またそれかよー」

不満そうにしながらも手を差し出してくるキルアに、干し芋を提供。
うろうろしてれば木の実とかも見つけられると思うけど、そうなると受験生と遭遇しそうだしな。
できるだけ目立たない場所で、ひっそりと過ごしたいもんだ。

「ゴンどうしてっかなー。あのヒソカからプレート取るって難易度高くね?」
「…倒すことを前提にしなければ、方法はあるだろ」
「それでも、あのヒソカだぜ?」
「まあな。…近づきたい相手では、ないな」
「だよな」

実はもうヒソカのプレートをゴンはゲットしてるわけだけど。
いまはきっとひとりで自分との闘いを繰り広げているだろうから、そっとしておこう。

とりあえずキルアと野宿できそうな場所を探して歩く。
どうやってプレートをゲットしたか、道すがらキルアが話してくれた。
キルアを狙ってきた受験生の連れが、たまたまキルアのターゲットだったらしい。
あぁ、なんとなく覚えてる。けっこう面白かったよな、あそこのやり取り。

「…そうか、アモリ三兄弟は不合格ってことか」
「?知り合い?」
「トリックタワーで同じ道になった」
「ふーん。どうだった?」
「…何が?」
「トリックタワー。あいつらと抜けて」

賢者の道、とかいうトラップまみれのルートでそりゃもう大変だった。
アモリたちはハンター試験常連だから、ああいうのもそれなりに耐性あったんじゃないかと思う。
しかも兄弟の輪の中に俺みたいな部外者が入っちゃって、申し訳なかったよな。
…なんかもう、悲鳴しか上げてなかった気がするよ俺。

「思い出すのも嫌だな。役立たずだった」
「はは、も容赦ねーの」

そりゃ俺は自分が一般人に毛が生えた程度の存在だって自覚があるからな!
念能力をゲットしてようが、能力者の実力なんてピンきりだ。
俺は別に強くなりたいわけじゃないから、それでいいんだけどさ。
生き残れるだけの力があれば、それで十分。あとは巻き込まれず平穏に生きられれば!

………原作キャラの知り合いがどんどん増えてる現状でそれは無理かもしれないけど。
あああぁぁぁ、なんで平穏ってこんなに遠いんだ。





主人公のもうひとつの能力も公開。
能力というか、どういうルールがあるかの説明です。

[2012年 6月 12日]