第97話

ジリリリリ、と目覚まし時計の音が地下に響いた。
現れたのはヒゲをたくわえスーツを身にとまとった紳士。
漫画そのままの人物のさらなる登場に、俺はちょっとだけわくわくしてくる。
ハンター試験は怖いんだけどさ、でも漫画で起こった出来事を体験できるのはすごいよな!

「ただいまをもって受付時間を終了いたします」

穏やかな声、けれど普通とは違う空気。
それを敏感に感じ取った受験生たちは、それぞれに姿勢を正した。

「ではこれより、ハンター試験を開始いたします。こちらへどうぞ」

歩き出した試験官は、淡々と本試験を受ける覚悟があるかどうかを問う。
ハンター試験は厳しく、簡単に怪我をするし死ぬこともある。
それでも構わないという場合のみついてくるように、と。
ここまでやってきた受験生たちが、いまさら帰るはずもなく。全員がついていく。

俺がいるのは受験生の列の真ん中のあたり。
気配をできるだけ抑えつつ(完全には消さないぞ不審すぎるから)
ヒソカとかキルアには気づかれないように進んでいく。

っていうか、ここにゴンとかクラピカとかレオリオもいるわけだよな?
おおおお、どうしたらいいんだ会いたい話したい。
クラピカとは久しぶりの再会だもんなー、俺のこと覚えてくれてるといいけど。
ゴンとレオリオはすごく癒されそうだ。
だけど………ゴンたちのグループと接触すると、自動的にキルアと合流することに。
そうなるとイルミに睨まれるような気も。

イルミは結局どうしたいんだ。家出したキルアを連れ戻したいんだろうけど。
俺が接触しても問題ないのかなー、だったら普通にキルアと話したい。

「申し遅れましたが私、一次試験担当のサトツと申します。これより皆様を二次試験会場へとご案内いたします」

二次試験会場ということは、一次試験は?
それにサトツは静かに答えた。二次試験会場まで私についてくること、それが一次試験だと。
つまりは持久走になる。体力だけでなく精神力も試されるわけだ。
到着予定地がわからないということは、体力配分が難しくなってくる。
終わりが見えないまま走るのはひどくストレスもたまる。

この世界に来たばっかりだったら、俺はあっという間に脱落してたなこれ。
ゴミ山で生活して、天空闘技場で鍛えられ、運び屋の仕事をし、幻影旅団と関わって。

いまや、体力だけなら一般人ではなくなったぞ、えへん!

………胸張って言っても虚しくなるばかりなんだが。
念を開花させてからは、体力もさらに桁違いに上がった。すごいよな、オーラって。
俺の周囲には非常識な人間ばっかり集まってるから、嫌でも俺も強くなるしかないし。
にしても、この耐久マラソンは暇だぞ。地下だから携帯も使えないし…うーん。

「うっそお!!?」
「あー!ゴンまで!!ひっでー、もう絶交な!!」

賑やかなやり取りが聞こえてくる。
あーこんなやり取りあったよな漫画に。くー、近くで見たい。
でも主人公組と関わると色々と…ヒソカにも気づかれるかもだし。

ああああぁぁぁぁ、俺どうしたらいいんだよおおお。







長い長い地下道を抜けて、長ーい階段を上って。
ようやく外へ出たかと思えば、そこはヌメーレ湿原と呼ばれる恐ろしい場所。
詐欺師のねぐら、と呼ばれている一帯だ。
ここには特殊な動物たちが生息しており、人間を欺き食べるという習性をもつ。

その説明を聞いてる間、俺はまたも隅っこで休憩。
気がつけば隣にはギタラクルであるイルミが立っていた。…怖いからやめてくれ。

「…あのさ」
「何」
「俺、あいつに関わらない方がいい?それとも好きにしていいのか?」
の好きにしたら。別に俺たちの家族でもないんだから、縛る権利ないし」

権利。イルミが権利とかいった!
ゾルディック家は色々とルールがあるっぽいもんなぁ。
でもこの様子だとキルアに声かけても平気みたいだ。なーんだ。
自分は話せないのに、とか嫉妬のあまり俺は殺されるんじゃないかと思ったけど。

キルアに話しかけるのはいいとして、問題は………ヒソカだよな。
俺にまだ気づいてないのか、いまは別のところに興味が向いてるだけなのか。
今回の受験者は粒ぞろいだから、青い果実がいっぱいで夢中なのかも。

よし、そのまま俺に気づかないで試験が終われ。

そんなことを考えているうちに、ヌメーレ湿原へと再び受験者たちが走り出した。
足元がぬかるんでけっこう走りづらい。その上、ここは本当に厄介な生き物ばかりいる。
霧もけっこう出てくるから、気をつけないと。

俺はこの霧に乗じて、ひとにあまり顔を見られることなく前へと進んでいく。
なんかほら、ぴりぴり殺気が痛くてたまらないわけですよ。

はい、皆さんもご存知の通り。

ヒソカの殺気であります。


ちょ、怖い怖い怖い勘弁してえええぇぇぇl!!






何でギタラクルさんとしか交流してないんですか。

[2011年 12月 31日]