ようやくキルアと話せたよ!
[2012年 1月 6日]
サトツさんに喧嘩売ったりとかはしてたけど、割とおとなしくしてたヒソカ。
それも限界にきたのか、湿原を走り出してしばらくするとじわじわ殺気を帯び始めた。
いまにも爆発しそうな殺気。それをこんなに距離があっても感じる。
無理!俺この状態のヒソカの傍で走るとか絶対無理!
確かクラピカとレオリオが近くを走ってたはずだけど、大丈夫かな。
………大丈夫だとは思うけどさ。
「クラピカー!レオリオー!キルアが前に来た方がいいってさー!」
「ド阿呆!いけるならとっくにいっとるわい!」
「そこをなんとかー!頑張ってー!」
「無理だっちゅーの!!」
主人公組の呑気な会話が聞こえてきて、和む。
どうしたもんか。いやいやいや、俺はヒソカとは接触しないと決めたんだ。
クラピカ、レオリオ、すまん。自力で生き抜いてくれ!(薄情だよわかってるよ!)
ゴンが必ず助けに行ってくれるはずだからっ。
深い霧のせいで、前を走るひとの姿すら見えなくなってくる。
こりゃひとの影と間違えて別のところへ誤導されることだってありそうだ。
視力にはあんまり自信ないから、俺は円で周囲の様子を探る。
「円」は念の応用技のひとつ。
オーラを自分の周囲に広げ、その範囲内の物の形や動きを肌で感じる。
これを使っていれば、目を閉じていても自分の周りの状況が明確にわかるのだ。
というより、目で見るより鮮明に敏感に感じ取ることができる。
効果範囲は個人差があるが、俺はせいぜい半径三十メートルが限界。
しかもこれ、纏と練の応用技なだけあって、けっこう疲れる。
というわけで、サトツさんを感じられる距離ぐらいまでに抑える。
あ、サトツさんがいま微妙に振り返った。円を使うと、この距離でもそれがわかる。
そうだよな、受験生に念能力者がいたらな。でも今回は能力者多いぞ。
ヒソカとイルミと、一応俺。
「レオリオ!」
鋭く叫んだゴンが、俺の横を走り抜けていった。
あれ、いつの間にか後続の受験生いなくなってたのか。
そんでもってレオリオの声が聞こえたのか。…俺まったく聞こえなかったんだけど。
ゴンって嗅覚だけじゃなくて聴覚もすごいのかぁ、さすが野生児。
いまあの変態にクラピカたちが襲われてるかと思うと胸が痛いけど。
俺は…俺の身が、かわいい。絶対に、殺されるし。
というわけで、申し訳なさでいっぱいになりながら俺はスピードを少し上げた。
そうすれば見えてくる、銀色の髪。
あ、また背が伸びた。本当に子供の成長って早い。
再会するたびに大きくなったなーと思うのは、親戚のおじちゃんみたいかな。
ゴンがいなくなって、少し残念そうなその背中。
そうだよな、同い年ぐらいの友達ほしいよな。
そんなことを思ったら、自然と俺の手は伸びてて。
「心配するな、あの子たちならすぐ合流してくる」
「…………え」
当たり前のようにキルアの頭を撫でていた。
ぽかーん、と見上げてくる猫目。うんうん、この目は変わらないな。
あー、でもやっぱりちょっと鋭くなってきたかな。暗殺者の仕事するようになったせいか。
「………?」
「あぁ」
「………は、え?………」
「キルア?」
「な、なんでお前ここにいんの!?」
ものすごく動揺してるらしいキルアは、俺につかみかかってきそうな勢いだ。
まあそうだよなー、俺みたいなレベルでハンター試験とか自殺行為だもんなー。
「仕事で必要になったんだ」
「仕事?…って、兄貴絡みじゃないだろうな」
「イルミは関係ない。別のとこで契約してる仕事だ」
「ならいいけど」
ハンター試験に参加してるキルアは現在家出中のはず。
だからイルミ関連で俺がここにいた場合、すっごく嫌なんだろう。
イルミとは関係ないとわかると、久しぶりじゃんとちょっと小生意気な笑顔を見せた。
ああ、抱き着いてくれてたあの頃が懐かしい。
いまじゃそう接触してこないもんなぁ、寂しいよ。
「っていうか、ゴンと知り合い?」
「いや?まだ話したこともない」
「なのになんで大丈夫ってわかるんだよ」
「あのメンバーは受かるよ、多分」
なんといっても主人公だからな!
主人公が不合格とか斬新にもほどがありすぎるだろ。
「同年代の知り合いができてよかったじゃないか」
「ばっ…!別にそんなんじゃねーよ!ゴンは妙でおかしいから、見てて飽きないってだけ」
「素直じゃないな」
「だーもう!」
恥ずかしそうに顔を赤くするキルアに、にやにや。
やっぱ大人っぽくなったっていっても、まだまだシャイで可愛いよなー。
友達ができるのを喜んだって、何も恥ずかしくないと思うぞ。
俺だって友達はほしい!なんたってこの世界じゃシャルぐらいしかいないからな!
「なあ、」
「ん?」
「この試験、どう思う?」
息も切らさないまま、キルアは走り続けてる。
すごいよなゾルディック家って。まだキルアは念を習得してない状態なのに。
もともとのポテンシャルが違いすぎる。
順当にいってれば、キルアだって今回の試験で合格できるはずだ。
最終試験のあれやこれやは、とりあえず考えないでおいて…と。
えーと、試験どう思うって、どういう意味の質問なんだろうか。
キルアにとっては簡単かもしれないけど、俺にはデンジャラスなわけで。
むしろサトツさん穏やかな試験内容にしてくれてありがとう!って感じだ。
あ、うん、ヌメーレ湿原の過酷さは置いておくとしてね?
「嫌いじゃないけど」
「マジでー?俺なんか拍子抜け。ただ走るだけじゃさ」
「まだ一次試験だ。この後どうなるかわからないだろ」
「それもそっか。けどなぁ、退屈しそー」
霧がゆっくりと晴れてきて、森林が見えてきた。
そして建物らしきものも。
どうやら、二次試験会場へと無事に到着できたようだった。
ようやくキルアと話せたよ!
[2012年 1月 6日]