第128話―レオリオ視点

くそ、なんなんだあいつ。
ゴンがやられてたときもそうだが、キルアの動揺を前にしても変わらねえ。
あんだけあいつらのことを可愛がってたのに、いざとなればこれかよ!

キルアの兄貴だったらしいギタラクル。
そいつともは知り合いで、しかもあの変装までも知ってたようだ。
互いに試験を受けたのは偶然って話だが。それにしたってよ。
追い詰められていくように見えるキルアを前に、なんで表情ひとつ変えない。
あまつさえ。

「……おい、お前何やって」

溜め息をついたかと思ったら、壁に寄りかかりやがった。
キルアのことが心配じゃねえのかよ。
俺の声を聞きながら、は興味のない様子で目を閉じた。

「……イルミに勝つ力は、ない」
「てめぇ、だからって放っておくのかよ」

そりゃあのキルアの兄貴だ。化け物みたいな強さなんだろう。
だからって、キルアが勝てないってあっさり認めるのはどうなんだ。
信じてやれよ、応援してやれよ。どう見たって、あの兄貴は異常だろ!?
キルアだっておかしなガキだとは思ってるが、比べものにならないぐらい異質だ。
逃げたいのに逃げられない。恐怖に固まるキルアに、何も思わねえのかよ!

俺の言いたいことはわかるのか、一度閉じた瞼が開いた。
普段よりもずっと強い、射殺すような眼光につい言葉を呑んじまう。

「実力差がわかってるのに、何ができるって?」
「なっ」
「…キルア本人がどうこうしない限りは、意味もない」

淡々と、突き放すような言い方だ。
…確かに自分の力で勝ち取らないと意味のないものはある。
だが、いまがそのときだっていうのか?理不尽に折られそうになってるのに?
こういうときこそ、俺たちが助けてやるべきじゃないのか。

「…あいつを救うのは、俺じゃない」

静かに呟いたは、動くつもりはないと言外に含めてくる。
あーあーそうですか、その程度のもんかよ。やっぱ俺たちとは住む世界が違うってか!

ただ腹が立つだけじゃない。
言葉にできない、寂しさっつーか悲しさみたいなもんを感じて。
そんなもんをこいつに対して感じる自分が悔しくて。
俺はキルアへと無理やり視線を戻した。






けどキルアは、兄貴に逆らうことはなく。
試合はギタラクルの勝利に終わった。

ゴンを殺そうとしたのは嘘で、ただキルアを試しただけだとのたまう兄貴。
友達を持つ資格も、友達を持つ必要もお前はないんだと。
キルアの耳に毒を注ぐ姿に、俺は血管がちぎれるかと思った。
んなこと、てめえが決めることじゃねえだろうが…!!

ふらふらと人形のように戻ってきたキルアは、俺やクラピカが声をかけても反応しない。
焦点が合ってねえ。これはもう、おかしい。
揺さぶっても大声を出しても駄目で、クラピカも心配そうに声をかけるがダメで。

ただ、が。

あいつがキルアの頭をぽんと撫でたら、びくりと細い肩が震えた。
やっぱり意識は朦朧としてるみたいだが、キルアはよろよろとの腕の中へ歩き出す。
自分の胸に顔を埋めたキルアの背中を、ぽんぽんと撫でる手は相変わらず優しい。
……そうだよ、それが腹立たしいんだよ。

なんで、そんなに優しい仕草をするくせに。
さっきはキルアのことを助けてやらなかったんだ。

泣く子供をあやすようなは、表情はない。
けど伏せられた焦げ茶の瞳は、完全に冷えているわけでもねぇ。
なんなんだよ、お前。本当に、なんなんだ。

「191番と403番の試合を開始します。両者、前へ」

苛立ちをぶつけることもできず、俺の番が来ちまった。
に抱きしめられてるキルアから視線を剥がして、俺は一歩を踏み出す。

くっそ、とっとと終わらせて。言いたいことは後で、山ほど吐き出してやるぜ。





レオリオはすごく温かくて、素直なひとだと思います。

[2012年 8月 1日]