第100話

無事にゴンたちも合流してきたし、よかったよかった。
すぐに話しかけに行くキルアはやっぱりゴンが気になってるんだよなー。
この調子で二人が仲良くなってくれるなら嬉しい。

邪魔しちゃ悪いかなー、とちびっ子たちが会話してるのを見守ってると。
ひとりぼっちの俺に気をつかったのか、キルアがゴンを連れてこっちに来た。

の言う通り、マジで追いついてきたぜ。しかもその方法がありえねーっての!」
「ええー、普通だよ。レオリオの香りって本当に強いんだから」
「だからって、この距離を追ってこれるか?無理、無理」
「ゴンは鼻がいいんだな」

座ったままなのも悪いかと思って腰を上げる。
俺を見上げるゴンの目は真っ直ぐで、さすが主人公って感じだ。

「えっと、…で合ってる?」
「あぁ。はじめまして」
「はじめまして!俺はゴン。キルアとは知り合いなの?」
「昔から世話になってる。俺にとっては弟みたいなものかな」
「んな!?な、なにハズイこと言ってんだよ!」

ばしばしと腕を叩かれる。え、俺が兄みたいな存在だと恥ずかしいってこと!?
でも本気で嫌がってるようにも見えないし…うん、大丈夫だよなきっと。
あれだ、やっぱり大きくなってシャイになってきたんだ。
顔が赤いし、照れてるだけだと思っておこう。
…本気で嫌がられてたら俺、立ち直れないし。

「こいつは俺の師匠みたいなもんだよ」
「キルアの師匠?じゃあ、強いんだ」
「いや、大したことはないと思う」

そりゃ念が使えるってだけで一般人よりはずっと強くなるけどさ。
キルアたちみたいに元々のポテンシャルが高いわけではない。
師匠って言ってもらえるほどの強さは、俺にはない。

………って、あ、そうか。
別に強さに関してじゃなくて。一般教養での師匠か!
うんうん、ゾルディックなんかで育ったキルアに色々と日常的なこと教えたもんな。
そういう意味では師匠と言えなくもないのかも。

「………、か?」

涼やかな声が聞こえた、と俺は思考の波から浮上する。
視線を動かした先にいたのはクラピカで。あー、美少女から美少年になったなぁ。
俺のこと覚えててくれたのか、とちょっと感動。

「…久しぶりだな、クラピカ」
「本物か。夢や幻ではないんだな?」
「もちろん。…覚えてもらえてて嬉しいよ」
「……忘れるわけがないだろう」
「なんだよ、二人って知り合いなのか?」

やや不機嫌な声でキルアが俺の腕をくいっと引く。
話の途中だったのにクラピカと話し始めちゃったから、拗ねたのかも。ごめんよー。

「昔、ちょっとの間一緒に観光したことがあるんだ」
「あんな奥地に好き好んで足を運ぶ人間を、忘れられるはずがないだろう」
「付き合ってくれて感謝してるよ」

そうそう、遺跡まで案内とかしてくれたんだよな。懐かしい。
あの頃はクラピカは故郷を失ったばかりで、すごく不安定だった。
いまはしっかりして見えるし、暗い表情も見えない。
うん、きっとこれまでの数年すごく頑張ったんだ。

「私も、には感謝している」
「…俺?」
「いまの私があるのは、お前のおかげだ」

いや、そんな風に言ってもらえるほど俺なんかしたっけ…?
宿でたまたまクラピカに会って、木刀の稽古に付き合って、遺跡の場所教えてもらって。
………むしろ俺の方が世話になってたよな、うん。
まあ、蜘蛛に関しては色々と大変だったけど。

大げさだな、って苦笑してると。
なんか妙にこっちを見ながら近づいてくるレオリオと目が合った。
うっ、俺見て渋い顔してる。な、なんかしたっけ?

「おいクラピカ、そいつは」
といって、私の恩人だ。確か…運び屋、だったか?」
「あぁ」
「あと、キルアの師匠なんだって!」
「はあ?このガキの?」
「……なあ、こいつ殺していい?」
「いいわけないだろう」

まだまだレオリオやクラピカに対してはそれほど友情が芽生えていないキルア。
簡単に「殺す」という単語が出てくるのは困りものだ。
しかもそれを本気でというか、無造作に行動に起こしてしまうという…怖い子です。
でも暗殺稼業に対して色々と思うところはあるみたいだし。
優しい子なんだよな、とキルアの頭にぽんと手を置く。

「つまりキルアくんは、保護者同伴で試験を受けに来たと。へーほー」
「ここで会ったのはたまたま。…おいゴン、このおっさんマジでムカツク」
「ま、まあまあ」
「だからおっさんじゃねーって!!」
「…不毛なやり取りだな」

ぎゃあぎゃあと賑やかになるキルアとレオリオを、ゴンがなだめる。
それをクラピカは呆れた表情で眺めつつ、そっと距離をとって俺の近くに来た。
どうやら騒がしい集団と一緒にされたくないらしい。

と、ここで会えるとは思わなかった」
「俺もだ。すごい偶然だな」
「…ではこの偶然に感謝しなければならないな」
「良い仲間と、会えたみたいでよかったじゃないか」
「……それはゴンたちのことを言ってるのか?」

複雑そうな顔のクラピカに、俺は小さく頷く。
いまはまだわからない、とゆるく首を振るクラピカだけど。
この先、あの四人がとても強い絆で結ばれていくことを俺は知ってる。
ここから全部、始まるんだ。それを間近で見届けられるのは、不思議な気分で。

ハンター試験を受けることの恐怖とか、緊張とかはどうでもよくなっていた。
………俺の緊張感を台無しにするように、ずっと鳴り響いてる音もあるし。

そう、目の前にある建物からは低い唸り声のようなものがずっと聞こえてきてる。
中に猛獣や怪物がいるんじゃないか、と受験生は緊張したまま。
けど俺は建物の中にいるものを知ってるから、むしろ脱力するしかないわけで。

次の試験を思うと、なんだかちょっぴりお腹が空いてきたりするのであった。






クラピカとも再会。

[2012年 1月 8日]