第130話

「クププー!!!」
「………チビ、前が見えない」

目のあたりにべたっと貼りつく懐かしい小さな温もり。
…ひと肌と違って鱗の感触だから、あったかい感じはあんまりしないんだけど。
こう…すべすべとツルツルの中間というか。独特な感触で、夏はきっと気持ち良いと思う。
なんとか顔からチビを剥がすと、今度は俺の二の腕あたりにがしっとつかまって動かない。

今回は割と早く帰ってきた方だと思うんだけど、寂しい思いさせたかなー。
よしよしとチビの頭を人差し指で撫でてやってから、待っていてくれたケスーに頷く。
苦笑した彼は同行(アカンパニー)のカードを取り出してツェズゲラのもとへ俺たちを運んだ。

「あぁ、これで契約成立だな」

出迎えたツェズゲラは淡々と頷いて、ハンター証を確認。
ですよねー、これで契約が成立しちゃうんですよねー、ヤバイなんてこった。

「お前はバッテラ氏の契約者となる。まあ、立場としては俺たちと同じだ」
「…ただの連絡係なんだろう?」
「あぁ。だが望むならゲームを好きにプレイしてくれて構わん。クリアした場合には、バッテラ氏の報酬も無論払われるだろう」

いやいや無理だから!俺なんぞにこのゲームをクリアできるわけないから!
それにここへはゴンとキルアがいずれ来るわけだし。俺の出る幕はない。
だから曖昧に頷いておいて、今後の予定についてバッテラ氏からの伝言をツェズゲラに伝える。
プレイヤーの選考会が近々行われるらしく、それを行う日の少し前に現実世界に戻ってほしい旨。
あとは、ヨークシンで行われるオークションでグリードアイランドが出品されることについて。
もちろんバッテラ氏は全てを競り落とすつもりでいるから、そのときの打ち合わせも必要。

ヨークシンのオークションはまだ半年以上先だけど、やるべきことは多いみたいだ。
そうのんびりもしていられんな、と呟いてツェズゲラは了解したと頷く。

「お前はこれからどうする?」
「…少し休んだら、また外に出る。待たせてる奴等がいるんだ」
「そうか」
「帰るときにはまたチビを任せてもいいか?」
「問題ない。ケスーも随分と気に入っているようだからな」

ああそれと、とツェズゲラが何かを思い出したように指を鳴らした。

「ひとつ、協力してほしいことがある」
「…協力?」
「いま狙っているカードなのだが、参加者が揃わないと攻略条件が整わない。お前が入ってくれれば丁度その数になる」
「………」
「攻略自体は一日で終わるはずだ。報酬はもちろん別に出そう」

ええええぇぇぇぇぇ、いやでもチビがいつもお世話になってるしなぁ…。
グリードアイランドのカード入手条件って、割と命が関わるレベルで危険だから嫌なんだけど。
ツェズゲラたち三人がいてくれるなら大丈夫かなぁ、と溜め息を吐く。うう、怖い。
チビがよじよじ二の腕を上って肩に乗ってくる。俺を励ますように顎にすり寄ってきた。
………うん、頑張るよ。っていうかこの圧力を前に断る度胸なんてないよ俺!

「…気は進まないが、わかった」
「安心しろ、すぐに済む」

俺が瞬殺、とかいうようなことになりませんよーに!

その準備を始めるとかでツェズゲラは一旦部屋から出ていく。
やれやれ、と俺は椅子の背もたれに体重を預けた。はー…ここ来ると緊張感がなぁ。
ハンター試験中も大変だったけど、あれは原作を知ってたからまだなんとか。
キルアどうしてんのかな。そういえばお仕置きだかで拷問受けてた気が。


「…ん?」
「おかーり!」
「………うん?」
「おかーり!」

小さな翼をぱたぱたと動かして俺の目の前に飛んだチビが、両前足をちょんと俺の鼻に置いた。
嬉しそうなのがわかる瞳のきらきらに和みながら、何と言ったのかと悩む。
おかーり…おかわり?いやまだなんも食べてないしな。…あ、もしかして。

「…ただいま」
「クプ!おかーり!」

わあああ、やっぱりおかえりって言ってくれてたんだー!!
会うたびに言葉を覚えていってくれてるチビがもう可愛くてしょうがない。
片手に収まってしまうような小さな身体を両手でそっと包んで、俺はもう感極まってしまった。
可愛いよー癒しだよー、もうほんと大好きだ。どうしよう、ゲーム内の存在なのに。

ふるふる打ち震える俺に、チビが首を傾げた。
あんまり構ってやれなくてごめんよ、ここにいられる間は一緒にいような。
顎の下を猫のように撫でてやると気持ち良さそうに目が細められる。

、こちらはもう出られる」
「…わかった」

ちょっといまの癒しタイムで元気出てきたぞ。
カードでもなんでもゲットしてやるぜ!と意気込んで腰を上げる。
俺に影響されたのか、チビも鼻息荒く勇ましい顔つきで俺の頭上にぽんと乗った。






というわけで、今回ツェズゲラたちが狙っているのは入手難度Sの「盗賊の剣」。
これを手に入れるためには、一定時間内に特定のものをゲットしなければならないらしい。
盗賊の住処と思われる山の中に入っていきながら、細かい説明を受ける。

「というわけだ。最後、目的のものを入手したら先ほど通った町までそれを運んでほしい」
「…入手したと同時に、追いかけられるってことか」
「あぁ。入手するまでのハードルはそれほど高くない。しかしその後が問題だ。できるだけこちらも足止めするが、結局はお前の速度が鍵になる」

今回のカードをゲットするには、入手したアイテムを町の町長さんの家まで届けないといけない。
盗賊のアジトからそれを取り返してくるんだけど、もちろん追いかけられるんだそうだ。
しかも相手は盗賊。尋常じゃない速さらしい。そして集団で襲ってくる。

このイベントが発生するには固定の人数を集めないといけない、という条件もあって。
なるほどこれは入手難度が上がるわけだ、と俺は溜め息ひとつ。

「運び屋としての腕、頼りにしているぞ」
「……とりあえず、出来ることはするよ」
「クププー!」
「ははは、手乗りドラゴンはやる気のようだな」

まあね、逃げ足には自信がありますからね、逃げ切ってみせますよ。
あそこだ、とレーダーを手にしていたケス―が岩に隠れるようにしてある穴を指さす。
盗賊のアジトに侵入って、クート盗賊団を思い出すなぁ。
アンやシャンキーに会えたのはよかったけど、あんまり良い思い出ではない。

手首と足首をぐりぐりと回して準備運動。
チビは巻き込まれないようにポケットに入ってもらうことにして。

行くぞ、と歩き出すツェズゲラたちに俺もついていく。

これが終わったら、キルアのところに行くぞと気持ちを奮い立たせて。






「盗賊の剣」は実際に指定ポケットのカードですが、入手条件は捏造です。
あ、ちなみに無事ゲットできました(そこ書かないのか)

[2012年 8月 10日]