第139話―ゴン視点
「ったく、いきなり駆け抜けてくんだから驚いたなんてもんじゃないぜ」
「はやはり試しの門を開けることができるのだな」
「奥まで走っていったけど、もしかしてキルアの家まで行ってたの?」
キルアの家があるっていう山の方から戻ってきたは、俺の質問に小さく頷いた。
俺たちが三人がかりでもびくともしなかった試しの門を開けてっちゃうんだもん、すごい。
「あぁ、一応キルアにも会えた」
「え、本当!?」
「ただ俺はゾルディック家の方針に逆らえないから、キルアをここから引っ張り出したいならゴンがなんとかするしかないと思う」
サトツさんから聞いた話だと、は最終試験のときは何も口を挟まなかったんだって。
キルアに友達はいらないって言われたときも、俺を殺すってイルミが言ったときも。
自分にできることはない、って黙ってたらしい。
だけどがキルアを大事に思ってるのは俺だってわかる。いまここに、いるんだから。
「…つか、お前ってここの化け物一家とんなに付き合い長いのか?」
「キルアの師匠と聞いてはいるが…」
当たり前のように試しの門を越えて、ゼブロさんも知り合いだったみたい。
本邸にも普通に行ってたらしいから、キルアの家族とも顔見知りなのかな?
そうだよね、ギタラクルがイルミだってこともわかってたって話だから。
キルアがあんな風に心を開いてるってことは、それだけの付き合いがあるってこと。
も思い返すみたいにちょっとだけ目を細めた。
「キルアと会ったのは…五、六年前ぐらいか」
ってことは……キルアは俺と同い年だからー……うわ、本当に子供の頃からなんだ。
「イルミに頼まれて、俺が預かってたって感じだ」
「あのキルアの兄貴、お前のことは随分と信頼してんだな」
「………まあ、いまのところは。いつ殺されてもおかしくないが」
キルアに友達はいらないって言って、俺を殺そうとしたひと。
でもイルミはと友達なんじゃないかな、って思う。
だってそうでもなきゃ、キルアを預けたりしないよね?仕事も一緒にするらしいし。
俺だったら、それはすごく信頼できるひとに頼むから。イルミも同じだと思うんだ。
いまの口ぶりからすると、にとってイルミが状況によっては殺しにくるのが普通みたい。
それがゾルディック家にとっての常識、ってやつなんだろうけど。俺は納得いかない。
自身だって、そういう考え方はしないひとのはず。
だからこうしてキルアを迎えに来た俺たちと一緒にいてくれるんだろうし。
なんとかできるならしなきゃね、と俺は腕を回した。
「よっし!キルアが待ってるなら、早く行かなくっちゃ」
「ゴン、腕はもう大丈夫なのか」
「うん、ギブスもとれたよ」
「ったく、おめーの回復力はどうなってんだ。別の意味で医者泣かせだな」
「…野生動物並みの生命力ということかもしれんな」
「じゃあ今日は俺から挑戦するね!」
三人でなら開けられるようになったけど、やっぱり俺だけの力でも開けられるようになりたい。
それがキルアが生きる世界に足を踏み込む最低条件、なんて言われたらさ。
仲良くなるのに資格がいるなんて俺には理解できないけど。
どうせなら、真正面から全部クリアして胸を張ってキルアに会いたい。
俺の友達を連れてくよ、って堂々と言えるようになりたいんだ。
とりあえず今日一日の修行も終わって、ゼブロさんの家に戻る。
いらっしゃい、と迎えてくれたゼブロさんはの姿を見てちょっとだけ驚いてた。
「麓に下りてたんですね」
「もともと、ゴンたちと合流する予定だったから。昨日のはイルミに無茶なこと頼まれて」
「無茶なこと?」
「ケーキを買って来いって。唐突にも程がある」
「キルアの兄貴がケーキだあ!?」
レオリオが素っ頓狂な声を上げるけど、ゼブロさんは納得した様子で。
あそこのケーキはおいしいからねえと頷いてる。
そうしたらは少しだけ申し訳なさそうに睫毛を伏せちゃった。
「今回は皆用にお土産を買う余裕がなくて」
「ああいや、いいんですよ。むしろいつも頂いてばっかりで」
「そんなにおいしいケーキなの?」
「そりゃ絶品ですよ。あのイルミ様やキルア様が好まれるぐらいですからね」
「へー」
特別甘いものが好きなわけじゃないけど、ちょっと気になる。
そんな俺の気持ちがバレたのか、が顔を覗きこんできた。
「…今度、食べに行くか?」
「いいの?行きたい!」
「うん。じゃあキルアも一緒に」
「やった!楽しみだなぁ」
当たり前のようにキルアのことも入れてくれるから。
やっぱりはキルアのことが大事で、あったかい心を持ってるひとなんだって思う。
イルミやヒソカと同じ、なんて感じるひともいるみたいだけど。
俺にとっては、ミトさんにも似た安心感がある。
だから、大好きなんだよね。
さすが本能で生きている子は違うぜ。
[2012年 10月 26日]