第138話

「ったく、いきなり駆け抜けてくんだから驚いたなんてもんじゃないぜ」
はやはり試しの門を開けることができるのだな」
「奥まで走っていったけど、もしかしてキルアの家まで行ってたの?」

試しの門の前で重石を外して準備運動するゴンたちと話すだけで癒される。
これこれ、これだよな、やっぱ主人公組は癒しというか和みというか。
ゾルディック家や旅団が殺伐としすぎてて気が抜けないから、ここにいるとほっとする。

「あぁ、一応キルアにも会えた」
「え、本当!?」
「ただ俺はゾルディック家の方針に逆らえないから、キルアをここから引っ張り出したいならゴンがなんとかするしかないと思う」
「…つか、お前ってここの化け物一家とんなに付き合い長いのか?」
「キルアの師匠と聞いてはいるが…」

師匠っていったって、まだ小さかったキルアのお世話係って感じだったけどな。
戦う技術では出会った頃からキルアの方がはるか上だったわけで、教えられることなんてなく。
むしろ俺の方が色々と戦いの面で参考にさせてもらった部分もあるぐらいだ。
一般常識は全然なかったから、そこらはある程度教えようと頑張ってみたけど。

「キルアと会ったのは…五、六年前ぐらいか」

うわ、もうそんなに経つのか。
あーでも濃い出来事ばっかりだったから、まだそれぐらい?って感じもあるけど。

「イルミに頼まれて、俺が預かってたって感じだ」
「あのキルアの兄貴、お前のことは随分と信頼してんだな」
「………まあ、いまのところは。いつ殺されてもおかしくないが」

キルア絡むとマジ怖いんだよイルミ。すぐ殺気と武器出すからな!
ヒソカがいるときは逆に頼りになる存在だけど、日常生活ではお会いしたくないひとだ。
ときどき天然すぎて可愛いんじゃね?って錯覚することもあるけど、あくまで錯覚。
ゾルディックらしいゾルディック家の人間だ。そもそもの思考構造が俺たちとは違いすぎる。

…そんな中でよくキルアはあんな真っ当に近い思考に育ったよなー。
ゼノさんのおかげなんだろうか。ゴトーとかカナリアとか?

「よっし!キルアが待ってるなら、早く行かなくっちゃ」
「ゴン、腕はもう大丈夫なのか」
「うん、ギブスもとれたよ」
「ったく、おめーの回復力はどうなってんだ。別の意味で医者泣かせだな」
「…野生動物並みの生命力ということかもしれんな」
「じゃあ今日は俺から挑戦するね!」

試しの門へ走っていくゴンと、俺もいっちょやるかと腕をまくるレオリオ。
クラピカの話では、三人でなら試しの門はすでに開けられるようになっているとか。
す、すげえな…。ゴンの回復力といい、こいつらの成長の速さといい。
やっぱり俺とはそもそもの性能が違うんだろうな、ああちょっとヘコむ……。
これで念まで習得されたら、俺はもう完全置いてけぼりかーくそう。

「実際、キルアの状態はどうなんだ?」
「…まあ、普通。イルミは仕事で出かけたから、迎えに行くには丁度いいはずだ」
「観光案内では、ゾルディック家の者は他にもいるとのことだったが。は全員と面識が?」
「いや。キルアの両親と祖父には会ったことはある。キルアの兄弟は…ひとりだけ会ってない」

アルカ、だっけ?俺が読んでたところだと謎のまんまだったもんな。
今頃は原作も連載が進んでんのかなー、アルカも登場してたり?
はたしてキルア似のタイプなのか、イルミやミルキ系なのか気になるところだ。
カルトやキルアは可愛いから、そういうタイプだと俺としては嬉しい。

…そういえばキルアからアルカの話って出たことないな。
名前の順番からして、多分キルアのすぐ下の弟妹ってことだろ?
まあ、キルアからそもそも家族の話をろくに聞かないんだけど。

「家族はどういった感じなんだ。イルミのような?」
「…そうだな…祖父のゼノさんは割と一般的な見方もできるひとだと思う。父親は優しいけど油断ならないタイプ…かな。イルミと母親は危ないから気をつけた方がいい」
「……それは暗殺されるという意味で?」
「いや、キルア溺愛という意味で」
「………………」
「あとはキルアのすぐ上の兄は、あんまり危険はないと思う。他人に興味がないから」

カルトもちょっと危険な雰囲気はあるけど、特別何かをしてくるってイメージはないなー。
でも一緒に過ごしてる様子見ると、キルアのこと大好き!って感じはするかも。
だからゴンたちと初めて会ったときに、すごい形相で睨んでたんじゃなかろうかと思うんだが。

「キルアは、個性的な家族に囲まれて育ったんだな」
「ああ」
「………
「ん?」
「…お前は、その。故郷がないということだったが、ご家族のことは…覚えているのか?」
「両親は物心つく前にいなくなってたけど、祖父母のことは覚えてるよ」

そう説明すると、クラピカがそうかと安心した顔で笑った。
なんだよなんだよ、危なっかしいからひとりでどうやって生きてきたんだってか?

クラピカこそ、家族どころか一族も失ってるのに何気を遣ってんだよー。
普段は冷静でレオリオとよく意見がぶつかってるけど、やっぱりクラピカも優しいんだよな。
全部を失ったクラピカに家族の話はどうかと思ったけど。
この笑顔見てると、むしろ話すべきなのかな?と俺は続けた。

「祖母はなんでも笑って受け止めてくれるひとだった。俺が十になる前に病死したけど」
「…では、それからは」
「うん、祖父が育ててくれた。破天荒というか理不尽なひとだったけど、俺がひとりで生きていくための色々なことを教えてくれたのはあのひとかな」
「ひとりで生きていくための…。強いひとだったんだな」
「強いというか無茶苦茶というか…。俺はあのひとに何度叩きのめされたかわからない」
「え」
「ん?」

めっちゃ驚いた顔されて俺も目をぱちくり。
あ、そうか。普通のおじいちゃんは孫を叩きのめしたりしないよな。
つーか普通は孫を猫かわいがりするのが祖父母だよな!はは、忘れてた………畜生。

「……死なずに生き残れてるのは祖父のおかげだが、当時は憎らしく思うこともあったな」
「い、いったい何をされたんだ」
「………思い出したくない」

家事ができるのも、サバイバル能力の高さもじーちゃんのおかげだけど!
子供相手に容赦のない日々だったことを思い返すと、ちょっと目が泳ぐのは仕方ない。

「感謝はしてる。それを伝えられなかったけど」

ま、じーちゃんにお礼なんて言っても素直に受け取ってはもらえない気がするけどな。
けっこう照れ屋なところあるから、「礼なら貴重な遺跡でも見つけてこい」とか言いそうだ。
………礼でもなんでもねえよなそれ。いや、じーちゃんにとっては一番喜ばしいことだろうが。
つか俺にとってもそれは大変喜ばしいことなんだけど。あー、考古学の勉強したかったなぁ。

「……あのまま」
「…?」
「あ、悪い。ちょっとだけ、意味のないことを考えてた」
「何を考えてた?」
「…あのまま生きてたら。この世界に引っ張り込まれなかったら、俺はどう生きてたんだろう」
「…それは」
「過ぎたことを言っても仕方ないんだけど」

元の世界に帰れたとして、何年も時間が経過しちゃってるわけだし。
俺は行方不明って扱いなのかな。それとも失踪?
何年か行方不明のままだと死亡扱いになることもあるんだったような…。
じーちゃん、どういう手続きしてんのかな。っていうか、ひとりで生きてけてんのか?

いや、俺がいなくてもあの生命体はぴんぴんして生きてるだろう。
愛情深いところが実はあるから、もちろん心配とかしてくれてるだろうけど。
……でも子供も孫も先にいなくなる、ってのはひどいよな。ごめん、じーちゃん。


「…ん?」
「私たちは、お前の家族の代わりにはなれない。だが、ここにいる」
「クラピカ…」
「私にがいてくれたように、お前には私がいる。ゴンやレオリオ、そしてきっと…キルアもだ」
「………うん、ありがとう」

真っ直ぐに見つめてくれる瞳に、俺はなんだか泣きたくなってきた。
クラピカは本当に優しい。失う怖さを知ってるから、余計に。
目が潤みそうになって、俺は恥ずかしさを隠すためにクラピカの頭を撫でて俯かせる。
さらさらと手に触れる金色の髪が心地よくて。反射して輝く髪が、日の光みたいで。

「………クラピカたちに会えて、心底よかったと思うよ」
「………そうか」

顔は見えないけど、クラピカの声がすごくすごく穏やかだったから。
俺の方が年上なのに、なんだか甘やかされてる気分になってしまった。






こういうネタになるとクラピカさんの出番になってしまいます。

[2012年 10月 24日]