第148話―ヒソカ視点

ゴンとキルアが天空闘技場に向かった。
その情報をキャッチして、ボクは久しぶりにこの聖地に戻ってくることにした。
そういえばここで初めてと会ったんだったっけ。
あのときは戦うこともできず、彼が行方をくらましたから残念だったなぁ。

天空闘技場へはも同行してるらしいけど、選手登録はしていない。
残念。戦えるチャンスかと思ったのに。
それにずっと滞在してるわけでもなく、闘技場ではほとんど姿を見かけない。

定期的に情報を確認してると、ゴンもキルアも順調に勝ち上がってるらしい。
これはそう時間もかからず200階まで来るネ。
けど、ぱっと見た感じでは二人ともまだ念を知らない。も教えてないみたいだ。
天空闘技場で改めて知る機会を与えよう、ってことなのか。
それとも、身をもって学べってことだったらどうしようね?意外とスパルタだったり。
ま、痛い目見る前にボクが止めるつもりだけど。他の連中に壊されちゃ、もったいない。

そうこうしてると、珍しくの情報が引っ掛かった。
ここ天空闘技場の観客用の宿泊施設に部屋をとったらしい。
足がつくようなことをするなんて、ホントに珍しい。もしかして、誘ってるのかな。

暇だし、ちょっと挨拶でもしてみようか。
そう決めて部屋を出た。

が泊まってる部屋にお邪魔すると、聞こえてくるシャワーの音。
部屋には良い匂いが広がっていて、多分これは料理でもしてたんだろう。
ハンター試験のときに貝を焼いてくれたりしたけど、やたら手際がいい。
恐らく料理は得意なんだろう。二次試験じゃ、ろくに作ってなかったけど。

するとバスルームのドアが開いた。

「………甘やかすのはよくないんだが」

これはボクへのあてつけかい?
わざわざ気配を残して招いてくれるなんて、確かに珍しく甘い。
普段はクールだから、むしろこういう甘さは大歓迎なんだけど。

「たまにぐらい、甘やかしてくれたっていいだろう?」

ボクの言葉に眉を寄せたが、ゆっくりとこっちを見た。
澱んだ焦げ茶の瞳に射抜かれると、いつもゾクゾクしちゃうよ。

「………不法侵入だぞ変態」
「ククク、君こそ。そんな恰好で出迎えてくれるなんて、やっぱり誘ってるのかい?」

ボクがいるのなんて見越してただろうに、濡れた髪を肌に貼り付けて。
その上、上半身を晒して出てくるだなんてサービスがいいじゃないか。

何度見てもイイヨネ。
貧弱ってほどでもないけど、やっぱり細身の身体。
白い肌は滑らかで、風呂上りだから上気してるのが色っぽい。
手の甲にある傷がギャップを感じさせて、そこもまた刺激のひとつになる。

だけどはいつだってつれないから、背中を向けて髪を乾かすために鏡台に向った。
背中には拭きのがされた水の滴が流れていって、舐めとりたいと舌なめずりする。

「良い匂いがするネ」
「キルアたち用だ、勝手に食うなよ」
「うらやましいなぁ、キミの手料理が食べられるなんて。ねえ、ボクのためにも作ってくれよ」
「…ハンター試験で貝を焼いてやっただろうが」
「イルミも一緒だったじゃないか。ボクのためだけに、作ってほしいんだ」
「………イルミから毒でももらったら作ってやるよ」
「ひどいなぁ」

ま、ボクとしては彼自身をいただきたいところなんだけど。
手を伸ばしてみると、は意外にも抵抗してこなかった。
反射で身体が緊張したみたいだけど、それはボクたちのような種類の人間には仕方ない。
他人の接触には油断なく構えるというのは自然現象だ。

なのに、ボクが頬を撫でてもは振り払わない。
素知らぬ振りで髪を乾かし続けてる。
ただボクの手元だけは、鏡越しにじっと見ているのがわかった。
ああ、いいねその視線。それだけでキそうだ。
身体が熱くなってくるけど、の手からドライヤーを奪う。
ダメだよ、そんな乾かし方じゃ。せっかくの綺麗な黒髪が痛むじゃないか。

自分に関してはおざなりなんだから。
せっかくの良い素材をないがしろにするのはよくないな。
が髪を好きにさせてくれるのはけっこう嬉しい。懐かない猫が、撫でさせてくれたみたいだ。

機嫌がよくなって鼻歌を漏らしてると、の携帯が鳴った。

「もしもし」
、いまどこにいる?』
「部屋とった」
『は?なんだよ、一緒に泊まるんじゃねーの』
「料理したかったから。というわけで、夕飯の準備はできてるぞ」
『マジで!?』

どうやらキルアとゴンが帰ってくるらしい。
まだ乾かしてる最中なのに立ち上がるに、タイムリミットかと肩をすくめた。残念。

「キルアとゴンが来る。お前はさっさと出てけ」
「ウーン、まだあの二人に会うのは早いだろうし。今日は、おとなしく引き下がるとしよう」
「………200階にいるんだろ」
「いつでも遊びに来てくれてイイヨ」
「誰が行くか」
「じゃあボクがまた遊びに来るよ。子供のいない時間にね」

ちゃんとこの髪乾かすんだよ、と言いたいけど…きっと彼はやらないだろうなぁ。
変な寝ぐせになったりしないといいけど、と眺めてると手をはたかれた。
いちいち構うな、とばかりに睨んでくる様子はやっぱり猫みたいで可愛い。

「正直、キミが選手登録してないのは残念。やり合ってみたかったのに」
「俺はお前とは絶対にやりたくない」
「美味しいんだろうに」
「いいから、早く行け」

痺れを切らしたのか、ボクの背中を押して追い出そうとする。
ククク、なんだかこういうやり取りイイネ。普段はあまり関わろうとしてくれないから、楽しい。
もうちょっと遊ばせてほしかったな。そんなに急いで追い出すことないじゃないか。
このまま帰るのも惜しいし、と振り返れば怪訝そうな顔。

「せめて、味見ぐらいさせてくれよ」
「…味見?」

面倒臭い、って顔に出てるよ。
だけど一瞬視線を動かしたのは、周りにひとがいないか確認したんだろう。
そんなこと気にするタイプには見えないけど。ああ、そうか。
キルアとゴンが帰って来たところに鉢合わせたら教育によくないって?
ならさっさと頂いてかないとね、とボクはの顎をつかんでひと口。

「ご馳走様」

動かない表情が寂しくはあるけど、それは次のお楽しみにとっておくヨ。
いつか、ボクの目の前で違う表情を見せてくれたらいい。
苦悶でも、愉悦でも、本能を剥き出しにした姿でも、なんでも。

どんな姿だって、ボクを興奮させてくれるだろうから。

とりあえずいまのところは。
ゴンたち青い果実の成長を、楽しみにして待っておこうかな。





誘ってないし。別に誘ってないし!

[2012年 12月 21日]