第154話

くんは本当に熱心に基礎訓練を積みますね。感心です」

今日も今日とてウイングさんのところで修行。
こういう地道な作業が好きな俺としては、戦闘するよりもずっとこうしてたい気分だ。
基礎っていうのは何事においても大事だもんな、ないがしろにしちゃいけない。
実際、自分のオーラが安定していくのもわかるからやってて楽しいのもある。

「教えるひとが上手いから、やりがいがあるんだと思う」
「私は物覚えの悪い生徒だったんですが…。おかげでひとに教える手伝いは向いていたのかもしれませんね。適材適所、ということでしょうか」
「ゴンとキルアは、良い師匠に会えたな」
「あの二人なら、教え手のレベルなど関係なく才能を開花させたでしょうけどね」

まあ確かに、あの二人の才能は化け物だからな。
ゴンなんて体中の怪我がみるみる回復していってるのがわかるし。

俺の念を使って回復を早めることもできるかもしんないけど、今回はそれはなし。
言いつけを守らなかったために負った傷だ、その痛みはきちんと受けるべきだろう。
それに俺が念をかけたことで、ゴンの指にある誓いの糸が切れても困るしな。
あ、誓いの糸っていうのはウイングさんがつけたものなんだけど。
二か月念の修行をしない、っていう言いつけを守るための紐だ。
念に反応して切れる仕組みだったはずだから、やっぱり俺は何もしない方がいいだろ。

俺が何もしなくても、まだ二週間ぐらいで小さい怪我は治ってる。
骨折したところはさすがにまだだけど、日常生活に支障はあんまりないぐらいだ。

さん、携帯鳴ってるっす」
「ああ、ありがとう」

ズシがテーブルの上から携帯をとってくれて受け取る。
お、メールだ。しかも仕事の依頼。
えーと、荷物を運ぶだけでいいのか。……ああ、なるほど山奥だなこれ。
普通の業者じゃちょっと運べない。

「仕事ですか?」
「はい。ちょっと留守にするんで、キルアたちのことお願いします」
「わかりました」

一応調べてみたけど危険な区域ってわけでもなさそうだ。
了承のメールを送って、と。依頼主と細かいやり取りを何度か続ける。
そうこうしてる間に天空闘技場に辿り着き、俺はそのまま飛行船の搭乗口へと向かった。

契約成立を確認してから今度はキルアに電話をする。
数回と待たずにコールが切れた。

『もしもし?』
「キルア、仕事が入ったから出る」
『は!?今からかよ』
「ああ。荷物を届けるだけだが、ちょっと奥地にある。どのぐらいで帰ってこれるかは不明だ」
『………ええー、夕飯どうすんだよ』
「ルームサービスでもとれ」
『ちぇー』
「じゃあ、ゴンにもよろしくな」
『へいへい』

キルアの対応も慣れたもんだ。
天空闘技場でこういうやり取りしてると、昔に戻ったみたいで懐かしい。

っとと、懐かしがってばかりもいられないな。仕事、頑張らないと。






指定された荷物は大人ひとりが入れそうなぐらい大きな木箱。しかもふたつ。
かなりの重さがあって、これは普通は一個でも持ち上げられないんじゃないか?
ゾルディック家の試しの門も開けられる俺には問題ないけどな!
…………うん、改めて考えなくても俺も化け物の部類に足突っ込んで………。

嫌なことを考えるのはよそう。

両肩に木箱ふたつを担いで、依頼主の待つ山奥へと向かう。
自然豊かな場所は本当に何もなく、こんな場所になんで荷物を届けてほしいんだか。
木こりさんとか?猟師さんとか?電化製品なのかなこれ。…いや、電気通ってないか。

木立を抜けていくと、人の気配に気づいた。
俺を待つようにして立ってる。あのひとが依頼主かな?

「おっと、早いな」

無精髭を生やした黒髪の男で、柔道着みたいなのを着てる。
………木こりでも猟師でもなく、もしやこんな山奥で特訓する格闘家か?

名前を確認して、俺も荷物を確認してもらう。
依頼主は隠すつもりはないみたいで、俺の前でも遠慮なく箱の蓋を開けた。
って、オーラで箱を包んだらばらばらと解体された、って感じだけど。…念能力者なのか。
そんでもってその中身が。

「………鎖?」
「俺の出来の悪い弟子がこれをお望みでな」

めっちゃ色んな種類の鎖がじゃらじゃらと出てきて俺はびっくりだ。
ヤバイ趣味のひと…!?って引きかけたけど、弟子って言葉に俺は瞬く。
大きさや長さはもちろんのこと、鎖って本当に色んな種類があるんだなとびっくりだ。
って、そこじゃなくて。鎖と、念、んで弟子って……。

「………………?」

かすれた声が聞こえ、ゆっくり振り返ると。
ぼろぼろになった服と、ぼさぼさに伸びた金髪を持つ美少年がそこには立っていた。

「クラピカ…」
「なぜ、お前がここに…」
「なんだ?お前ら知り合いか?」

不思議そうな格闘家…でなく、クラピカの師匠さんを置いて。
俺とクラピカは予想外の再会に、硬直してしまった。





クラピー修行中

[2013年 2月 19日]