第156話

クラピカと再会した一日はのんびり雑談して。
翌日には追加でスケッチブックと鉛筆を運ぶよう依頼され、近くの街で購入したり。
あとはクラピカがひとりで鎖と対峙するしかない、ってことで。

またしばらくしたら様子見に行こうかなー、とクラピカの師匠に相談してみた。
鎖を具現化できるようになった頃に来いと頷いてもらえた。
具現化したものを使っての訓練は実戦が一番だしな、と言われたけど。
………あれ、それってクラピカと手合せしないといけないってこと?
やべ、俺ちょっとはやまったかもしんない。いやしかし、クラピカの修行のためなら…ううーん。

旅団の皆と戦うための能力なんだよな、と思うと複雑だけど。
ここできちんと習得してもらわないとクラピカの方が危険になるし。
………ヨークシン、本当にどうしよう。旅団の皆が襲撃なんかしなきゃいいのに。

悩みながら天空闘技場に帰ってきた俺は、とりあえずゴンたちの部屋へ向かおうとして。
ちょうどチケットを手にしたキルアと遭遇した。

!帰ってたのかよ」
「ただいま。…どうした?チケットなんて持って」
「ヒソカの試合が今日あるから観ようと思ったんだけどさー。試合観戦も念の修行になる、ってんでゴンは止められたんだよ。あ、観る?」
「…いや、ヒソカの試合なら遠慮したい」
「けっこう高かったんだぜ?ちぇー」
「実際、勉強にはなるだろうから行ってくるといい。念での戦いを見るいい機会だ」
「おう」

じゃなー、と手を振ってキルアは試合会場へ。
………そうか、もしかして今日はヒソカとカストロの試合があるのか。
あの試合は色々と見てて俺は辛いから遠慮するしかない。
ヒソカの奇人っぷりが発揮される試合だもんなー。んで、あいつの強さもよくわかる。

キルアが観戦から帰る頃には夕飯ができてる状態にしとくかな。
食材を買いに行くか、と俺は天空闘技場のお膝元にある商店街を目指した。

何作るかなー、あいつらめっちゃ食うし。
今日はちょっと疲れてるから、カレーとかでもいいかな。
ゴンは部屋にいるんだろうし下ごしらえは手伝ってもらおう。あ、米も炊かないとじゃん。
そろそろなくなりそうだっけ…?俺がいない間使ってないなら、まだ大丈夫だろうけど。

「あんた、随分似合わない場所にいるけど。料理でもするの?」
「これでも一応」

人並みにはできると思うんですけど、と横を見ればちょっとキツイ印象の美女。
高い位置で結われた髪と、長い睫毛を持つ釣り目。
独特なファッションも見慣れたものであり、彼女の手の甲には針山がある。

「…マチ?」
「シャルからよく聞かされるし、前にちょっと食べさせてもらったことはあるけど。あんたがこういう八百屋とかに立ってると、すごく変」
「……そう言われてもな」
「今晩の買い出し?」
「そう。カレーにでもするかと思って」
「ああ、長持ちしていいらしいね」

そうそう、次の日とかにも使い回せていいんだよなー。日本にいた頃はお世話になった。
でもゴンとキルアにかかると完食されちゃうから、あんま意味ない。

つーか、マチさんはなんでこんなとこに?
玉ねぎを握る俺の手をしげしげ見ておられますが、買い物が目的じゃないよね?
確かマチって料理しないはずだし。シャルがその話題はやめて、とか言ってたし。
そもそも天空闘技場に用なんて…………あ、思い出した!

「……ヒソカに会いに来たのか?」
「その言い方やめてくれる?って、あいつがここにいることあんたも知ってるわけ」
「残念なことに」
「…ふーん。その顔は、どうせ絡まれたんだろ」
「……残念なことに」

思い出したくない記憶なので説明は省かせてもらいますけどね。
俺が渋い表情を浮かべたら、マチは楽しげに笑った。お、貴重なマチの笑顔。

「ご愁傷様」
「マチだって、これから絡まれに行くんだろ」
「私は仕事。そのためなら嫌な客にだって会うさ」
「そうか」

野菜を選び終えた俺は会計を済ませて、そのままマチと商店街を歩く。
カレーのルーを買って、肉も大量に購入して、キルア用にお菓子もちょっと買い込む。
明らかに一人用じゃない買い物の量にマチが呆れた表情を浮かべた。

「…あんた、誰に作ってやるんだい?それともこれ一人で食べるわけ」
「いや、食べ盛りの子供二人の面倒をいま見てて」
「子供?」
「天空闘技場で修行中なんだ」
「……へえ、あんたそんなこともしてんの。修行に付き合うなんて面倒だろうに」
「けっこう楽しいよ」
「世話焼くの好きらしいね。私にはわからないよ」
「そうか?マチだってけっこう世話焼いてくれるじゃないか」

あの変人が集まる旅団の中じゃ、保護者的な位置にいる方だと思うけど。
俺が酔っぱらったときだって、迷惑かけたのに許してくれたし。

「見てられないだけ」

そっけなく言ったマチはずんずん進んでいく。
まあ…そうだよね、きっと見てて苛々するとかなんだろうなー。
それでも見捨てずに付き合ってくれるマチはやっぱり素敵な女性だと思う。
せめて迷惑かけないように俺も気をつけないとな。

………っていうか、これからヒソカに会うんだよなマチ。
だ、大丈夫なんかな。マチなら大丈夫だろうけど、返り討ちとかにするだろうけど。

大量の荷物を抱えたままの俺は後を追うこともできず、部屋へと戻った。
おかえり!と笑顔で迎えてくれたゴンは、したごしらえも手伝ってくれて。
観戦を終えて帰ってきたキルアも入れて三人でカレーをおいしくいただく。
今晩はお風呂に入ってゆっくり寝よう、と洗い物を片付けていたところに。


いま天空闘技場にいるの?


なんていう、シャルからのメールが届いていた。





ヒソカの試合を生で見たら卒倒すると思います

[2013年 2月 21日]