夢であれ

マチとシャルはすぐにこの街を出るらしく、翌朝それぞれに部屋を出た。
結局だらだら喋ってたら夜が明けちゃってたなー。
ちょっと朝日が眩しい、と目を細めながら天空闘技場に戻る。
すっかり俺もお世話になってるキルアの部屋に帰ると、扉を開けたそこにはキルアがいた。
腕を組んで、仁王立ちで。しかもすごーく怒った顔をしている。

「お・か・え・り」
「………ただいま」

なんでこんなに怒ってるんだろう。
じーっと俺を見上げてくるキルアに、どうした？と聞いてみた。
………やべ、眉間の皺が増えたぞ。

「お前、いま何時かわかってる？」
「………朝の八時」
「俺らが寝た後、風呂入ったら寝るって言ってなかったか？」
「ああうん、そのつもりだったんだけど。知り合いが近くまで来てるって連絡があって、なら顔出すかってことになったんだ」
「へえ、ふうん。そんで朝帰り」

もしかして心配かけたかな。
俺がこうやって夜いなくなって朝帰ってくる、なんて仕事とかではよくあることだし。
何日も行方をくらましたわけじゃないからいいだろう、って思ったんだけど。
ちゃんとメールとかしておくべきだったかな。けど、起こしたら可哀想だったし。

じとり、と睨んでくるキルアにどうしたもんかと頬をかく。

「悪かった」
「…別に？俺がお前の行動に口出す権利はないんだけどさ」
「心配かけたか？」
「………女といたの？」
「え。………まあ、いたけど」
「あ、そ」

急に素っ気なくなったキルアは、くるりと背中を向けた。
そんで部屋の奥へとすたすた入っていく。多分、顔を洗いに行ったんだろう。
寝起きのままだったのか、髪は寝癖があったし。……うーん、悪いことしたな。

そうは思うものの、徹夜明けの俺はだいぶ眠気が襲ってきてて。
ぼーっとしながら洗面所への扉を開ける。顔を洗ってたキルアがぎょっとして振り返った。
洗面所はそのままバスルームに繋がってるから、俺はさっさと服を脱ぐ。
これまたキルアがおい！？と動揺する声がするけど、風呂入るからと手を振った。
朝シャンとかあんますることないなー。寝る前に風呂に入る、ってのが習慣だったし。
こうやって朝に汗を流すのも気持ち良いかも。

汗を流した俺は寝室に戻って、濡れた髪をそのままにベッドに転がった。
すっかり身支度を整えたキルアが、トーストをかじりながら不審そうに近づいてくる。

「…おい？」
「このまま、ちょっと寝る」
「は？ウイングさんとこで修行するんじゃねーの」
「……昨日は寝てないから、眠い」
「んな！？」

あー、朝日を感じながら眠るってなんか贅沢な感じがする。
そのままうとうと意識を沈めていく。なんか枕元でキルアが落ち着かない気配をさせてたけど。
おやすみ、と声をかけるのが精一杯だった。







すっきり目が覚めたときには、キルアは部屋にいなかった。多分、ゴンの部屋だろう。
念の修行を禁じられてるゴンに付き合って、二人は燃の修行のみを続けてる。
二人の集中を邪魔してもいけないかな、と俺は冷蔵庫に残ってるものでとりあえず料理。
多く作りすぎたかなーと大皿をテーブルにのせたところで、携帯が鳴った。
仕事かな？と思えばウイングさんからで。

「もしもし？」
『こんにちは』
「こんにちは。…どうかしましたか？」
『ああいえ、ちょっと君に届け物があって。いま天空闘技場に戻ってますか？』
「はい、キルアの部屋にいます」
『それはよかった。じゃあいまから伺うので、よろしくお願いします』

届け物ってなんだろう？と思いながらウイングさんを待つ。
そうして相変わらずの穏やかな顔の師範代は、予想外のものを手渡してきた。

「頂き物なんですが、私は飲まないので。どうぞこれを」
「…ワイン？」
「かなり良いもののようです。よかったら」
「……だいぶ高価なものなんじゃ」
「かもしれません。料理に使うとか、好きにしてもらって構いませんから」

ただでもらっていいんだろうか、と申し訳なくなる。
だけどウイングさんは、いつもおいしい食事をいただいてるお礼です、なんて笑うから。
…いや食事だって念の修行の報酬みたいなものなのに。
っていうかこれ、どうしよう。だって酒は。

「あー！！何持ってんだよ！」

ウイングさんを見送ったところで、廊下に出て来たキルアが俺を指さした。
そんでもってずんずんと近づいてくる。

「酒は禁止って言ってんだろ！」
「…もらっただけだよ。俺が飲むわけじゃ」
「それどうすんだよ」
「………誰かにあげる？」
「よし、ならさっさと渡してこい。俺の部屋に置くのはダメだからな！」

そこまで強く言わなくても…と思うぐらいのキルア。
まあ、どうも俺の酒癖の悪さに過去ひどい目に遭ったらしいからな。
マチとかフィンクスに迷惑かけたこともあるし、俺も飲む気はないんだけど。

誰にあげたらいいかなぁ、と考えて。
そうだ、と頷いた。

久しぶりに、じっちゃんの顔でも見に行こう。ハンター証ゲットの報告もかねて。