第132話
「お?見慣れねぇ顔がいるな」
「今回の協力者だ」
なんでだ、どうして俺はいまこんなところまで引きずられてきてるんだ。
勝手に内密の話をばらしておいて、知られたからには協力してもらおうとか。
そんな無茶なことをのたまったヤツがいるからだ。そうだよクロロだよ、旅団の団長だよ!!
いやそりゃ俺だって質問したり話振ったりはしたけどさ!したけど!
集合場所らしいところまで連行された俺は無言。ただ無言。
念を使って逃げられないこともないだろうって?ふっふっふ、本を人質にとられたんだよ…!
仕事が終わったら返す、とか言われて。あれはもう断ったら殺されそうな笑顔だった。
慈善事業、ってことだから盗んだり殺したりはしないんだと思う。多分。
…あ、でもマフィアにお仕置きするんだっけ?その場合はグロイことになりそうだぞ。
ただ俺は運び屋だってことを強調したから、暴れることに参加はせずに済みそうだ。
本当に協力、って感じらしく。…それでも気が重いんだけど。
「あれ、スーツ着ないのウボォー」
「んな堅苦しいもん着てられっか」
「むしろはち切れそうだったものね」
「んで?シャルが連れてんのは誰だ」
ウボォーが不思議そうに俺を見下ろしてくる。ですよね、わからないよね。
げんなりと溜め息を吐く俺の手をとったまま、シャルが楽しそうに握った手をぶんぶん振る。
「これ?俺の彼女」
「んだとお!?機械が恋人じゃなかったのかお前!」
「………クロロ、ちょっと欠員が出るけどいいかな」
「ウボォーは今回の主戦力だ、やめておけ」
「ふふ、シャルもひとが悪いわね。でしょ、それ」
「やっぱわかる?さすがパク。上手く化けてると思うんだけど」
「えぇ、一瞬わからなかったわ」
………………そう、そうなんです。
現在俺は長い髪のかつらを頭につけ、まさかのドレスアップ。
ちなみにこれをコーディネートしたのはクロロとシャル。イケメン二人にセットされたんです。
くそう、男二人にドレスをとっかえひっかえされるあの屈辱!!
なんだよ、美形なのはそっちなんだから、クロロかシャルが女装すりゃいいじゃん!なんで俺!?
「ってシャルのダチか?女だったのかよ」
「違う。女、違う」
「なんかフェイタンみたいになってるよ」
「そういえばフェイタンはまだか?あとマチも来ると言っていた気がするが」
マチはともかくフェイタン来んの!?げえぇ、俺苦手なんだよ怖いから。
そういえばマチは酔っ払って迷惑かけた以来だな、会うの。うおお、どうしよう。
もう随分前のことだし、いまさら謝るっていうのも……いや迷惑かけたなら謝るべきか。
だがしかし。こんな恥ずかしい恰好のまま謝るっていうのも情けない…!!
俺が葛藤しているのを気にとめることもなく、旅団の方々は打ち合わせ。
なんでも今回はマフィア間で個人的に行われるオークションに乗り込むのだそうで。
狙っているファミリー以外には手出しはしない、という密約がかわされてもいるんだとか。
オークション会場を襲撃するんだけど、関係ない客を避難させるのが俺の仕事。
といっても会場から無関係の人間を追い出すのはシャルたちらしくて。
だから俺は会場から出てきたひとたちを建物の外まで誘導させるだけでOK。
…よかったよ、戦闘に直接関わらないで大丈夫そうで。
そうこうしてると、スーツに身を包んだマチとフェイタンもやって来た。
おお、そうしてるとフェイタンも普通に……って睨まれてる睨まれてる!やっぱ怖い!
「そいつ、誰か」
「だよ。雑用を手伝ってくれることになったんだ」
「…は、だって?」
髪を下ろしてちょっと印象の変わったマチが目を瞬く。
うわあああ、見ないでくれええぇぇぇ、本物の美女に見られるとか恥ずかしすぎるー!!
でも前回の失礼もあるからとにかく謝っておかないと…!うう、こんな恰好でとかひどい。
「……久しぶり、マチ」
「あ、あぁ。その声、本当になわけ」
「こんな情けない姿で再会は、ものすごく不本意なんだけど…」
「あら、よく似合ってるわよ。ね?マチ」
「まあ、十分見られるレベルじゃない?このドレス、誰の趣味」
「……クロロとシャル」
「あぁ、なるほどね」
納得したように頷くマチはいつも通りで。どうやら以前のことは怒っていないらしい。
よ、よかった。旅団の中でも常識のある方の彼女に嫌われたらショックすぎる。
シャルと、マチと、あとパクとフランクリンあたりには嫌われたくない。俺の命のためにも。
まじまじと俺を見ていたマチが、ちょっと屈んでと手招く。
素直に屈むと、手早く髪(というよりかつら)をまとめてくれたようだった。
「このドレスなら、こんぐらいはいじっておかないとだろ」
「へー、マチって器用。念糸ってこういうのにも役に立つんだ」
「いま使ったのはただの紐」
「さらに色っぽくなったわよ」
「…嬉しくない」
「しかし、そうしてると長身の女性だな。シャルと並んでると似合いだぞ」
「クロロでも合うんじゃない?すごいヤバイ男女って感じだけど」
「確かになぁ、あからさまに裏の人間ってカップルになりそうだぜ」
「マフィアに乗り込むんだ、それはそれでいいだろう?」
何が、いいんですか。何で、お似合いにならなくちゃいけないんですか。
どんよりと鬱々気分で会話を聞き流していた俺の腰を、シャルが無造作に抱き寄せた。
「……何」
「んー、やっぱ抱き心地は悪いよね。固い」
「そりゃ、男と女じゃ違うだろう」
「それにしても、ドレスもヒールもあんまり苦労なく履けてるのね」
「……仕事で訓練させられたんだよ」
イルミのあの特訓はスパルタもいいところだった、と溜め息ひとつ。
ダンスの練習までさせられたからな!女役の振り付けなんて覚えてもいいことねえよ!!
…しかしまた女装する羽目になるとは。うう、こんなの黒歴史以外のなにものでもないのに。
女装なんて二度と御免だと思ってたのに、なんでまたする羽目になってんのー!?
っていうか誘導の仕事なら別に普通の恰好でもいいじゃん!!
そう抗議したんだけど、旅団の関係者だと知られていいのか?と言われて。
確かに顔を知られるのは困る。困るんだけど、でもそれとこれとは…!
「さ、そろそろ時間だ。さっさと終わらせよう」
「団長、今回、私の好きにしていいて話だたね」
「あぁ。今回は見せしめの意味もあるからな。せいぜい時間をかけて教え込んでやれ」
「ちゃんと相手を選んでやってくれよフェイタン。あとウボォーも」
「あ?それはお前らの仕事だろ」
「選別する前に暴れんじゃないよ、ってことだろ」
「そうね。あと色々と情報も取り出したいから、殺すのは待ってちょうだい」
………物騒だ、めちゃめちゃ物騒だ。これのどこが慈善事業なのみなさんねえ!!
用意されていた車に乗り込み、オークションが行われるという会場へ。
他のファミリーから支給されていたらしい招待状を手に、豪勢な屋敷に乗り込む。
…ってことは、今回の仕事は流星街だけでなく他のマフィアからの依頼でもあるわけだ。
双方に叩き潰されるって、どんな無茶なことやらかしたのこのファミリー。
堂々と会場に乗り込んでいくクロロたちを見送り、俺は玄関ロビーに待機。
あー、足がスース―する。女装したままひとりで放置とかひどい。…中には入りたくないけど。
あとはシャルたちが追い出した関係のないひとたちを、外に避難させれば俺の仕事は終わり。
動くのはオークションが始まってかららしいから、もうちょっと時間がかかるかな。
それまでどうしてよう、と長椅子に腰を下ろして客人たちを見ていたら。
「…………え」
思わず声を漏らしてしまった。は、え、なんでここにいんの。
俺の声が聞こえたんだろう、不思議そうに大きな瞳がこっちを見る。
じーっと俺を見ていた人物はしばらくして、ぱあっと顔を輝かせた。うそん、俺を判別できるのか。
「ー!!!!」
「声がでかい」
ダッシュで駆け寄ってきた少女がそのまま俺の腕に飛び込んできた。
ぐふっ、ちょ、いまのは鳩尾にきたんですけどネオンさん。あと名前呼ばないで!!
慌ててネオンの唇にしーっと指を立てる。
きょとんと瞳を瞬いた少女は、ピンクの髪を揺らしながら首を捻った。
「どうして女の子の恰好してるの?」
「……こういう場所に堂々と来れる人間じゃないからだよ」
「ふーん。すっごく可愛いね、似合う似合う!」
「…ありがとう」
すんごく嬉しくないけどね!っていうかネオンもドレスアップしててめっちゃ可愛いぞ!
そう、俺が発見してしまったのはネオン=ノストラード。ノストラードファミリーボスの一人娘だ。
俺が念に目覚めた切欠の子であり、なんでだか俺をコレクションにしようとしている。
普通にしてれば可愛い女の子なのに、趣味がなー……なんつーか。
人体収集癖があるというか、不気味な生き物とかも好きみたいだし。だいぶ気持ち悪い。
って、まさか。
「…ネオンはこのオークションに参加するのか?」
「そうだよー。けっこう面白そうなのが出るみたいで、楽しみにしてたんだ」
「ネオン様、突然どうされたのですか。急に走られては」
「あ、ダルちゃん」
スーツを着た男たち数人がやって来て、ネオンが抱き着いてる俺をじっと睨む。
あの、えっと、初対面じゃないんですけどダルツォルネさん。
以前お届けものをしたときに会ってますが、やはり覚えてはおられませんかね。
…っていうか、この恰好じゃわからんよな、うん。ネオンがおかしいんだよ。
ってこら、男の膝に座るんじゃありません。そういうのは親か恋人相手だけにしなさい!めっ!
「ネオン様、この女は…」
「ダルちゃんも会ったことあるでしょー?だよ」
「………は?」
「………………どうも」
「………まさか、運び屋の」
ハイ、その運び屋デス。
「こんなところで、何をしている」
「仕事…というかなんというか。申し訳ないが、ここは危険だ。ネオンを連れて帰れ」
「えー!!」
「どういうことだ」
「恐らくこれから襲撃がある」
「そんな話は何も」
「確か、ネオンは自分のことは占えないんだろう?危険が察知できなくても無理はない」
あれ、でもマフィアで協力者もいるのにノストラードファミリーには情報いってないのかな。
そういえばノストラードも割と新しい勢力なんだっけ?
もしかしてこれに乗じて金づるのネオンも消えちゃえばラッキー、とかそういう算段があったりして。
それは困るし、原作の流れも変わっちゃうから止めないと。普通に心配だし。
どうなるのかはわからないけど、女の子が見ていいものじゃない。
「ノストラード氏が何より守りたいものはネオンだろう」
「………。………ネオン様、今日は戻りましょう」
「えぇー!!やだやだ!欲しいものがいっぱいあるのにー!」
「ネオン、頼む。本当に危ないんだ」
「…ぶー。じゃあが一緒に来てくれたらいいよ」
「……まだ俺は役目が残ってるから無理だ」
「じゃあやだ!」
いやあの、駄々をこねるなよもう。
どうやって説得しようかと考えあぐねていたそのとき。
いくつもの発砲音と。
悲鳴や雄叫びがホールの方から聞こえてきた。
久々のネオンさんでした。彼女は骨格とか瞳とかもろもろで判断していると思われます。
[2012年 8月 24日]