第160話

てなわけで、ついに俺も家を持つことができるようになりました!!

………うん、まあ、だいぶ特殊な家なんだけどさ。

マゼンダさんが開けた扉のむこうにはフローリングの部屋が広がってて。
俺は地下にいるはずなのに、窓からは青空が見えるからびっくりした。訳わかんなかった。
間取りとしてはキッチンとリビングがあって、個室は二つ。
ひとつは寝室にするとして、もうひとつを客間にすべきか資料室にすべきかで迷うよな…。

マゼンダさんに渡された合鍵がないと、この家には出入りできないらしい。
そんで出口は三つある、って説明されて俺はさらに混乱した。

えーと、玄関から外に出ようとするだろ?
そうしたときに、どこに出たいかを考えるんだって。もちろん、三つの中から選ぶんだけど。
ひとつは、公園の中にある公衆トイレ。
ひとつは、駅の改札外にある公衆トイレ。
んで最後、マンションのドア。

………正直、三つのうち二つがなぜトイレなのかと俺は問いたかった。
出かけようとして玄関から出たらトイレとか嫌だろ!

逆にこの家に帰ってくるときは、三つ目のマンションのドアから入るらしい。
そのときにマゼンダさんから渡された鍵を使ってドアを開けることが条件で。
もし違う鍵とかで開けた場合は、そのマンションの部屋に入っちゃうだけなんだってさ。
どこでもドアとかに近い説明に現実味がないけど、実際地下から外の家についちゃったわけで。

「この鍵を渡したときから、この家はあなたのものよ」

そう言って笑ったマゼンダさんは、開いたままだったドアから元の地下へ帰っていった。
鍵が手元になければマゼンダさんでもここへ来ることはできないらしい。
………なんでこんな妙な不動産知ってんだろ。つか、どうやって作ったんだこの家。
どのあたりにある家なのかなー、ガスとか水道とか電気などもろもろの手続きは処理してくれるらしい。
もちろん、俺の口座から落とすことにはなるみたいだけど。

「…随分と謎なひとだった」

とりあえずは感謝だ。マゼンダさんには機会があったらお礼をしよう。じっちゃんにも。
ウイングさんからもらったお酒、二人が喜んでくれてるといいけど。

よし、んじゃここを俺の家として整えよう!





シャルん家にあるものはそのままにして、必要な家具を運び込む。
マンションのドアから運び入れるわけだけど、鍵を持ってる俺がいないと駄目だから大変だった。
大きなものはやっぱり運ぶの面倒で届けてもらったりしたからさー。

ベッドと、本棚と、テーブルやソファもOK。
食器とかは徐々に増やしていけばいいよな。
暮らしてくうちに必要なものはわかってくるだろう。
………これで遠慮なく資料とか置けるかと思うとテンション上がってきた。
シャルの家にも大量に置かせてもらってるけど、やっぱ多少遠慮しちゃってさ。
でも今度からは好きなだけ本と資料に埋もれられる……!!

「………やっぱり資料室は別に作るべきだな」

寝室と資料を一緒にすると間違いなく寝るスペースがなくなる。
結果、客間が俺の寝室状態になるに違いない。なら最初から分けておこう。

引っ越し作業もひと段落ついたから、なんか食べるかな。…やっぱここは蕎麦?

鍵を使って駅のトイレから外に出る。
うん、ここは遠出するときに便利かも。すぐに汽車とかバスに乗れるもんな。
次の駅が空港のあるところだし、だいぶありがたい。

周りの店とか確認しながら駅の外をぶらぶらしていると。
ちょっと脇道に入ったところで、運よく蕎麦屋を発見した。やった!
ハンター世界じゃちょっと珍しいからな、食べられるなんて嬉しいぞ。
ジャポンのひとが出してる店なのかな。暖簾をくぐって中に入る。
好きな席にどうぞ、と言われて隅っこの方に歩いていく。

「あっ、じゃねえか」
「?」

まさかこんな場所で名前を呼ばれるとは思わず。
カウンター席の方へ視線を向けると、ぴかりと輝く頭。

「………ハンゾー?」
「久しぶりだな。奇遇もいいところだぜ」
「本当に」
「ここで会ったのも何かの縁だ。隣で食べてけよ」

それもいいな、と頷いて俺もカウンターに座らせてもらう。
蕎麦を注文してから、よくここに顔を出すのかと確認すればハンゾーがおうと笑った。
どうやら隠れた名店であるらしく、ハンゾーの同郷の人間もよく顔を出すとか。

確かに出てきた蕎麦はもちろんのこと、つゆもすごく美味しくて。
自分で和食は作るけど、やっぱりちゃんとした店のものは違うよなぁ…と感動した。

「その後どうだ?あぁ、そういやキルアはどうした」
「いまゴンと一緒に天空闘技場に挑戦してる」
「へえ、じゃああの家からはおさらばできたってわけだ」
「一応」

そうだよな、ハンゾーは最終試験のキルアまでしか見てないんだもんな。
ゴンと一緒にいるって聞いて嬉しそうな顔をしてくれるハンゾーは、すごくいいヤツだ。
とはいえ、任務のためなら非情になれる忍者なわけだけど。
一緒にいて俺は楽だな。基本的に明るくて裏表がないし、けっこう抜けてるとこが安心する。

「んで?お前さんはこんなところで何してるんだよ。ゴンたちといないのか」
「天空闘技場が拠点ではあるよ。今日は引っ越しをしてて」
「引っ越し?」
「そろそろ家が欲しいと思ってさ。仮住まいはあるけど、それもなんだし」
「ほー」
「ハンゾーは?忍びの仕事をしてるのか?」
「そんなとこだ。あぁ、隠者の書は探してるところだけどな」
「俺も、探し物は続行中だ」
「?何か探してるんだったか」
「呪いの石版」

また妙なもんを、とハンゾーがすごく嫌そうな顔を見せた。わかる、わかるよ?
俺だってそんなもん自ら好き好んで近寄りたくないし触りたくなかったさ。
だけど土産と称して触らされてしまったんだから仕方ないじゃないか!

「こんな感じの石版なんだけど…。情報あったら教えてくれ。ハンゾーの探し物も、手がかりがあったら情報流すから」
「取引ってわけだな。いいぜ」

食後のお茶に口をつけたハンゾーは、そういやよと声を落とした。

「念のことについてだが」
「?うん」
「あ、その反応!やっぱお前すでに知ってやがったな!」
「……そりゃまあ」

あ、そっか、ハンゾーはハンター試験のときは念を習得してなかったんだよな。
でもこうやって話を振ってくるってことはいまは使えるのかな。
どんな能力なんだろう、原作じゃ出てきてなかったからちょっと興味ある。
…って、忍者がそう簡単に手の内を明かしてくれるはずはないか。

「どうりで強いわけだぜ…。やっぱヒソカやギタラクルも」
「習得してたな。むしろああいう世界で生きてるなら、普通じゃないのか?」
「けっ。どーせ俺は知りませんでしたよー」
「でももう覚えたんだろう?すごい速さじゃないか。ゴンとキルアなんてまだ基礎訓練中だ」
「お、あいつらも訓練始まってんのか。素質はありそうか?」
「当然。あの二人は化け物クラスだからな」

きっといつかはヒソカだって超えるんだろう。
………何年経とうが、ヒソカの厄介さは変わらない気もするけどさ。

「お前、完全にあいつらの保護者だな」
「え?」
「ガキを自慢する親みたいな面してたぜ」

頬杖をついたハンゾーがからかうように笑う。
そんな顔してたか。いやでも実際キルアもゴンも自慢の弟みたいなもんだからな。
あれだけの力が眠っていて、それがいまやっと開花しはじめてる。
キルアなんてとくに小さい頃から知ってるから、成長を見守るのは楽しい。

ぐんぐん成長して、二人が物語を切り開いていってくれる。
少年漫画ってそういうもんだろ?だから俺は駆け出す二人を見守らせてもらうよ。

「なあ、せっかくだし別の店で飲まないか?」
「……飲まない」
「なんでだよ!」
「酒は飲まない。絶対、無理」

俺がなんのためにゴミ山まで行ったと思ってんだよ!?いやハンゾー知らないだろうけど!!
これで醜態をさらそうもんならハンゾーに顔向けできないし、何より。

またキルアに怒られるじゃないか!





妙なお家をゲットし、ハンゾーさんと再会し

[2013年 4月 16日]