第161話
「あ、。おかえり!」
天空闘技場に戻ってくると、完全に完治したゴンが迎えてくれた。
それでも約束の二か月間は念の修行ができないとのことで、毎日点だけを行っているらしい。
だけど十分にゴンを取り巻くオーラが力強くなってるのはわかった。
基礎トレってやっぱ大事だよなー。ちゃんとした先生に教えてもらう大切さを俺も学んだよ。
「そろそろ修行再開できそうで楽しみ」
「よく我慢したな」
「俺は自業自得だもん。キルアを付き合わせちゃったのが申し訳ないっていうか」
「好きで付き合ってるんだから気にするな」
やっぱり友達同士、一緒に成長していきたいよなー。その気持ちはわかるぞ。
二人とも才能は同じぐらいあるから、同時に学んでも問題ないだろう。
ここで才能にめっちゃ開きがあると、むしろ一緒に学ぶのは険悪になる種でしかなかったりする。
どちらか一方が急激に成長するって、どっちにとっても辛いことだからな。
ゴンもキルアもそんなことはないし、もしそうだったとしてもそれをバネにできるタイプだ。
いいよなー、そういう切磋琢磨できる友達がいるって。
俺もそういう爽やかさで念の修行をしたかった。命の綱渡りで習得とか勘弁してほしかった。
「それで、キルアは?」
「ケーキ屋さんに行ってるよ。最近お昼はいつもそこなんだ」
「………あいつミルキを目指してんじゃないだろうな」
「ちゃんと運動してるから大丈夫だよ。…野菜とらないのは心配だけど」
「ゴンは野菜ちゃんと食べるもんな」
「美味しいよ?」
身体にとって美味しいけど、子供にとっては苦味が強いんだろうな。
子供のうちの大半は何かしらの野菜が嫌いなのではなかろうか。
もちろん、家での食事事情によって違ってくるとは思うんだけど。
俺はじーちゃんとばーちゃんに育てられたから、小学生の頃から漬物とか大好きだったし。
「仕方ない。今晩は野菜たっぷりの飯を作るか」
「やった!」
「じゃあ買い出しだな。ゴン、付き合え」
「うん」
キルアが将来ミルキみたいになるのは願い下げである。いや、ミルキ嫌いじゃないけど。
糖分摂取が異常な量であるため、太らないにしても身体にはよくないと思うのだ。
若くして糖尿病とか笑えないにも程がある。若くてもなるから、あれ!油断してちゃいかん。
ゴンは買い出しだけじゃなくて下ごしらえも手伝ってくれて。
野菜たっぷりのスープや煮物、肉も用意はしたけどそれより圧倒的に野菜の多いメニューに。
テーブルに座ったキルアが顔を引き攣らせていたのは気のせいでもなんでもない。
残すことは許さん、と宣言したら渋々食べてたけど。
でもな、ちゃんとキルア用に甘い味付けにしてあったりするんだぞー。
野菜特有の匂いもできるだけ消すようにしてるし。
「ご馳走様でした!」
「うー…もうしばらくピーマンは見たくねー…」
「ピーマンの肉詰めはばくばく食べてたじゃないか」
「それはそれ、これはこれ」
ぐったりとテーブルに突っ伏すキルアは頬を膨らませる。
好き嫌いが色々あって困ったもんだ。でもよく頑張ったな、と髪を撫でて褒める。
子供扱いするな、と怒るけど。それは好き嫌いをなくしてから言ってほしい。
「念の修行、再開したらどんなことするんだろう」
「お前最近そればっかな」
「だって楽しみで。キルアもそうでしょ?」
「…まーな。さっさと強くなってに追いつくからな!」
「うん、頑張れ」
あっという間に追い越される自信があるぜ。
えーとウイングさんに指定された日付になったら、ゴンとキルアが修行を開始。
二人ともまだ纏を覚えたところだったよな確か。まずは何の訓練からするんだろ。
…あれ?そういえば試合の猶予期間ってあとどんだけ残ってんだっけ。
原作通りだとこの後の展開って………あー、もう細かいとこまで覚えてないや。
確かズシが人質にとられて八百長試合をもちかけられる…んだったよな。
あれってどのタイミングだったかな。ゴンとキルアなら問題なく解決するだろうけど。
「?どうしたの」
記憶を辿ろうと黙り込んだ俺を不思議に思ったのか、ゴンが覗き込んできた。
二人とも強いし、ウイングさんがいてくれるし、俺が心配する要素はどこにもないんだけど。
「二人とも、気をつけろよ」
「?」
「何に?」
「この階の連中はひとつでも多く勝ち星をとろうとしてる。そのためなら汚い手も使ってくる」
「あぁ…まあそんな感じの奴等だったよな」
「けど俺たちなら大丈夫だよ」
「そこは心配してない。だけど、周りに被害が及ぶ可能性もある」
自分よりも周りの誰かが傷つく、っていうのは一番精神的にダメージがくる。
普通ならそこで動揺して冷静な判断力を失ってしまう。…旅団とかイルミとかヒソカは別。
ゴンは他者のために怒る真っ直ぐな気性の持ち主だ。
キルアも暗殺者として育てられた割に、そういう優しさを持ってる。
…まあキルアは、必要なら感情を切り捨てるってできるんだろうとは思うけど。
「キルア。昔、ここで俺がゆすられたの覚えてるか」
「え?」
「ゆする……?…………あ、あー!!鬼ごっこ!」
「そうそう」
「鬼ごっこ?」
話が読めずきょとんと目を瞬くゴンに、俺が天空闘技場で選手登録してた頃の話をする。
あのときキルアを人質に試合で負けろって俺も脅されたことがあったんだよなー。
でも相手はあのキルアなわけで。俺が試合してる間、キルアには逃げてもらった。
今以上に子供だったとはいえ、ゾルディックの後継者だ。完璧にキルアは逃げてみせた。
んで、その間に俺は試合を終わらせたってことがあったわけ。
どの時代にもああいう手合いはいるんだよなー。
念を習得しても、そのまま強くなれるわけでもないから仕方ないか。
正しい扱い方を知らないで、我流で覚えてる連中がほとんどだ。
「周囲に目は配っておけよ」
「うん」
「それでもどうにもならなかったら……。お前たちなら、大丈夫か」
「当然。んな気も起きないぐらい、こてんぱんにしてやるっての」
頼むからキルアを本気でキレさせるようなことはしないでくれよ。
普段は可愛い弟分だけど、やっぱりゾルディックの人間というのは変わらない。
逆鱗に触れたときのキルアは下手するとイルミ以上に不気味なオーラを放つことがある。
…だからこそ、後継者に選ばれちゃったんだろうけど。
「さてと、風呂入って寝るか」
「三人で一緒に入ろうよ。ここのお風呂すっごい広いし」
「広いかぁ?」
「温泉があるキルアにはわからないかもしれないけど、すっごく広いよ」
「…まあな、ひとりで使うには広すぎるよな」
三人で使っても余裕があるぐらいだ。
誰も反対しなかったため、当たり前のように風呂に向かう。
洗い物はとりあえず流しに浸けておいて、明日やろう、うん。
サダソたちがアップを始めたようです
[2013年 5月 14日]