第162話

さて、またもやって来ました山奥。
キルアとゴンとしばらくのんびり日常を過ごした俺は、クラピカの様子を見に足を運んでいた。
一度来たことのある場所だから迷うこともなく進んでいく。
そろそろ鎖の具現化も習得できたかなー、どうだろう。
漫画で具現化の訓練方法を見たときは病むだろこれって思ってたけど。

鳥の鳴き声や葉が揺れる音が響く中、硬質な音が聞こえた。
どこから聞こえたのかまではわからず、俺は咄嗟に円を広げる。多分、クラピカだろうと思って。

んで、背後に迫る鎖の鞭を感じ取ってしまったわけですよ。

「…っ!」

瞬きを止めて、俺はその攻撃を反転しながらかわした。
木々の間から伸びた鎖はすぐにふっと消える。間違いない、あれは具現化された鎖だ。
操作してるだけの鎖ならあんな風に掻き消えたりはしない。方法がないわけじゃないけど。
具現化系は造りだしたものを見えなくすることもできる。俗にいう<隠>だ。
絶を応用した技で、オーラを限りなく見えにくくする方法。

ただこれ、凝を使えば見破れちゃうんだけどな。
でもこんだけ視界が悪い場所だと凝をしても対応が遅れそうだ。

てなわけで、俺は鎖が消えた方向に飛び込む。
罠って可能性もあるけど、そこでまた円を広げてみた。
クラピカはまだ鎖の具現を習得して日が浅い。だから具現化にも限界がある、と思う。
そんなに長さのある鎖を作り出すことはまだできないんじゃないかなーと思うんだ。
だから遠すぎない距離にいると判断したんだけど………あ、木の影にいるっぽい。

「そこか」
「………さすがだな」

俺が近づくのを察知してすぐさまクラピカが木の影から飛び出した。
接近を阻むようにクラピカの手から放たれた鎖が俺の目の前の地面を叩く。
おうふ、地面が抉れたぞ。それぐらいの強度はあるのか、すごいな。

基本的に近距離の方が俺の能力は使いやすいんだけど。
クラピカはむしろ間合いに入れることを遠ざけるだろうし。となると。

「森林伐採は趣味じゃないんだけど」
「!?」

右手にオーラを集中させて、大木の幹を殴りつける。
よし、クラピカの方に倒れてくれそうだ。
倒れてくる木は太いなんてもんじゃないから、鎖ひとつで方向を変えるのは厳しい。
飛び退るクラピカの着地点を狙って、大木をもう一本!

わずかにバランスを崩した、それだけで十分。
瞬きを止めて、そして両足に凝でオーラをまとい地面を蹴る。
そうすればあっという間にクラピカの端整な顔が間近に迫って。
俺は両手でクラピカの以外と逞しい腕をつかんだ。あーあ、怪我とかいっぱいあるじゃん。
髪も随分と伸びて、さらに女の子みたいだ。……目付きだいぶ鋭いけど。

「つかまえた」
「………つかまってしまった」

随分と熱烈すぎる挨拶じゃんか、と俺は無事に取り押さえられて安堵の笑顔。
それに対してクラピカは苦笑した。

うん、笑えてるなら大丈夫。元気そうだ。






「それにしても、いきなり背後からってのはないだろう」
なら問題ないと師匠が」
「おい」

ひとを背後から襲うことが問題ないわけないだろ!?
情操教育どうなってんの師匠!と抗議してやりたくて、俺は背後を睨みつけた。
どこだ、どこにいやがる。

「んな殺気飛ばさんでくれよ」

まさしく俺が見てた方向から両手を上げつつ出て来た。
無事だったからいいですけどね、鎖の攻撃をまともに受けてたら大変なことになるぞ。
しかも念で造られたものなんだから、普通の鎖で攻撃されるのとは訳が違う。
基本的に纏をして過ごしてるとはいえ、あからさまな攻撃を受け止めるには弱いケースが多い。
念の攻撃にはきちんと念でガードしないと。

「それにしてもクラピカ、この短期間でよく鎖をそこまで具現化できたな」
「…いや、これでは単純に念を帯びた鎖だ。旅団と戦うには心もとない」
「具現化系は色々といじれるから、クラピカみたいに頭の良いヤツにはうってつけだと思うけど」

二人が休憩所にしている森の中のちょっと開けた場所に移動する。
倒した大木は師匠さんが後で再利用してくれるそうだ。し、自然破壊してすみません。

「操作系と違って、実際に鎖がなくてもすぐに取り出せるし」
「あぁ、それは私も思った。常に鎖を見える場所に持っていれば、操作系と誤解させられる。そうなれば私の手に鎖がないときには相手は油断するだろう」
「視覚による思い込みってあるからな。熟練の念能力者でも、凝を忘れることもある」
「凝……目にオーラを集中させればよりオーラが見えるものだったか」
「そう。念による攻撃って隠すこともできるから、凝を使って警戒するのは基本だな」

俺なんてビビりだから、なんかおかしな気配するとまず凝か円を使っちゃう。
すぐさま逃げられるように備えておかないとな!この世界簡単に死んじゃうから!

考え込んでたクラピカが、「念を隠すとは?」と質問してきた。

「<隠>っていうんだが…まだ教わってないか」
「そろそろ教えてやってもいいかと思ってたところだ。クラピカ、隠ってのはオーラを限りなく見にくくする技術でな。つまり念で造られた鎖なんかは、それ丸ごと見えなくすることができる」
「…なるほど。単純に鎖を消すのではなく、その能力を発動した状態で隠すことができるのか」
「そう。だけど凝で隠は見破れるから、使い処は注意しないとだな」
「わかった」

クラピカの状況把握能力なら、本当に上手く使いこなしちゃうだろうけど。

オーラをだいぶ使って疲れたのか、腰を下ろしたクラピカが深く息をついた。
師匠さんは火を起こして何か飲み物を提供しようとしてくれてるらしい。
あ、お土産とか持ってくればよかった。何も持参せず申し訳ない。

、あの能力をどう思った」
「………伸びしろはいくらでもあるんじゃないか?能力者次第だろう」
「そう、まだ考慮の余地がいくらでもある。いまのままでは単純に武器のひとつにすぎない」

いや、まあ、念って武器のひとつ的な考え方してるひとが多いけど。
クラピカはこの力に何を求めてるのかな。旅団を捕まえることが目的だとして、だ。

「…クラピカは、念で何をしたい?」
「何を?」
「実際にできるかは別として、何ができればいいと考えてた?」
「……ひとりで戦える力が欲しい。そのためには攻守共に高く、また回復も補える強化系が理想」
「あぁ…強化系は戦闘に一番向いてるしな」

俺とは対極にある系統だから、欲しくても絶対手に入らない強さだけどな!
ゴンの回復量とか見てるとホント化け物だな、って思う。ウボォーの鋼の身体とかもな。
あそこまでの強靭な身体はいらないけど、もやしな俺としてはもうちょっとこう…。
逞しい身体って憧れるよな。多分、だいたいの日本人男子の憧れじゃなかろうか。

「だが強化系を完全に習得するのは不可能」
「…うん。具現化した武器にそういう特殊な能力を付加することはできるだろうけど」
「………え?」
「条件を作って、それが揃ったときに発動する。そういう制約を用意して使う念もある」
「…も持っているのか?」
「あるよ。例えばこれ」

クラピカの手の甲に触れて、その腕の傷を治す。
みるみるうちに消えていく小さな傷たちに反応して、俺の腕輪の石が赤く染まる。

「これは…そうか、これも念能力か」
「そう。対象に触れてオーラで覆うことによって、発動する。でもそれだけだと効果は薄いから、発動したときのペナルティも用意してる」
「ペナルティ?」
「例えば、連続では使えないとか治した怪我の分だけ本人がダメージを負うとか?」
「………のペナルティはどんなものなんだ」
「俺自身が怪我するようなものじゃないから、心配しなくていいよ」

腕輪で測れる限界を超えて使った場合は、俺自身の命の時間を削るって誓約があったりするけど。
そんなこと話そうもんならクラピカに説教されるだろうから内緒。

制約と誓約については、師匠さんが詳しく説明してくれた。
俺この話は漫画で読んでなかったら、すぐには理解できなかったと思う。
念って単純に見えてすごく複雑で奥が深いよなー、結局はフィーリングが大事とかいうけどさ。
話を聞いてまた考え込むクラピカは、すぐにこの話も理解できちゃうんだろう。

………その頭の性能を俺にも分けてほしい。





すぐに再会してしまいました

[2013年 5月 16日]