第167話
ゴンVSギドの試合も、キルアVSリールベルトの試合も。
圧勝すぎて、観ていてスカッとするぐらいだった。うんうん少年漫画って感じだよな。
修行した成果がこうしてはっきり出てくるのは見ている側からするとすごく気持ち良い。
200階に上がって初めてゴンが対戦した相手、ギド。
初戦はギドのコマに大怪我をさせられたゴンだったけど、もう以前とは違う。
コマの攻撃を受けてもかすり傷ひとつ負わないほどにオーラを成長させたゴン。
凄まじい成長っぷりにギドの動揺は遠目でもよくわかった。
ズシを人質にとられたことをゴンはすごく怒ってたみたいで。
純粋に戦うことを楽しむ姿はなりを潜め、今回は徹底的に叩き潰す!といった勢いだった。
んで、あっけなくギドが戦闘不能に陥って次はキルアの試合。
リールベルトっていうのは車椅子に乗った選手なんだけど。両手に鞭を手にして戦う。
車椅子はオーラを噴出することで自在に操れるらしく、鞭にもちょっとした仕掛けがあった。
鞭からは電流が流れ、それに触れた者を餌食にするわけなんだけど。……残念なことに、相手が。
キルアに電流なんて効くはずはない。子供の頃からもっとひどい拷問の訓練を受けてるんだから。
というわけで、こちらも圧勝。
一応、次は相手を入れ替えてまたゴンたちは試合するみたいだけど。
ギドはもう試合出れないだろうし、リールベルトもゴンにはやはり楽勝だろう。
念の基礎を覚えただけなのにこんなに飛躍的に強さが変わるものか、と俺は舌を巻いた。
(こりゃまぁ、表立って教えるわけにはいかないよな)
悪用されたら本当に大変な能力である。
観戦を終えて席を立った俺はそのまま200階フロアへ向かうための専用エレベーターへ。
ここまで来ると人気ってものがなくなる。よって、嫌な人間にも遭遇してしまうもので。
「やぁ。いい試合だったネ」
「………」
なんでお前ここにいる、と思ったけどこいつも200階選手だった畜生。
「なかなか優秀な指導者がついたみたいじゃないか。てっきりキミが教えるのかと思ってたよ」
「……そういうのは専門家に任せるべきだろ。間違ったことを覚えられても困る」
「あの二人はそういうのは関係がないレベルの才能だろう?」
「だからこそ、基礎は大事だろ」
何事も本当に基礎は大事だ。
どんなに才能があって大きく成長する素養を持っていても、根っこがしっかりしてなければ倒れる。
大きくなる可能性があればあるほど、大本をきちんと育てておかなければいけない。
土台作りを面倒臭がって怠る者には死あるのみ、とじーちゃんが口を酸っぱくして言ってたっけ。
発掘作業もな、事前の準備とか安全確認すげえ大事だから。下手するとぽっくり死ねちゃうから。
あと料理も基本って大事。調味料の<さしすせそ>とかさ。
炒めるときに火の通りにくいものからとか。芋は皮剥いたら水にさらすとか、芽はとるとか。
料理下手なヤツほど「アレンジ!」とか言って滅茶苦茶なことするからな。
アレンジってのは基本をわかってる人間がそこから工夫するもんなんだよ!と思う。
「何思い出して不機嫌になってるんだい?」
「……旅団の連中に巻き込まれて酷い目に遭ったことを思い出した」
「ふうん?ボクはそれ知らないなぁ」
「お前は旅団にほとんど顔出さないだろうが」
あいつらに料理は任せてなるものか、と誓ったものである。
連中が料理できるとは思ってなかったけど、なんかもうそれ以前の問題だったあれ。
砂糖を入れてるのか?って思うような分量で塩を鍋に入れてるのを見たらもう……さ。
湯銭じゃなくて普通に直火にチョコかけてるのとか………鍋もう二度と使えないんじゃね?って。
台所で爆発事故って起きるんだなー、と初めての体験もさせてもらった。
……さすがにじーちゃんでもあんなことはなかったぞ。
あ、思い出したら。
「……殺意わいてきた」
「いいねぇ、せっかくだからボクとヤろうよ」
「断る。お前を捌いたところで俺には何のメリットもない」
変態奇術師など食材にしても腹を壊すだけだ。変態が移ったら困るし。
エレベーターを降りて受付の前を通過して。
どこまでついてくる気だお前、と睨んでみる。にやりと三日月の笑みが返ってきた。
やべえこの笑い方見ただけで俺呪われそう。
「お前の部屋は反対側だろ」
「ゴンたちを激励しようかと思って」
「情操教育に悪いから寄るな消えろ」
今回の試合チケットの半券をヒソカの顔面に叩きつける。
紙切れだから大した威力もないのはわかってるから、周でちょっと強化しといた。
察知したヒソカにガードされちゃったけどそんなの予想済みだから気にしない。
「楽しみは最後にとっておくんだろうが。いまは引っ込んどけ」
「ククク、OK」
こっちの肌がぞわわと粟立つほどの気持ち悪いオーラを放ってヒソカは去っていった。
いいから、手とか振らなくていいから、不気味な笑顔もいらないから!!!
「お、いたいた。!ちゃんと試合観たんだろーな!」
「……あぁ、二人ともお疲れ」
「俺たちの試合、どうだった?」
元気に駆け寄ってきた本日の主役たちはまだ元気が有り余ってる様子。
ヒソカの存在には気づかなかったようで胸を撫で下ろしつつ、いい試合だったと返した。
二人とも楽勝だったもんなー。俺なんて念での初めての試合は泣きたかった記憶しかない。
念能力者相手にどうしろってんだ、と思ったし。
キルア人質にとられたときは死ぬかと思った。……主にイルミへの恐怖で。
「あれだけ戦えれば十分じゃないか?基礎はほとんど大丈夫だな」
「よっしゃ」
「ギドは多分もう出れないとして…ゴンはリールベルトと試合か。キルアが使った手は通用しないけど、考えてあるか?」
「それキルアにも言われた。大丈夫、ちゃんと考えてあるよ」
にっと自信満々の笑みを見せるゴンにそうかと頷いて、二人の頭にぽんと手を置く。
二人はもともと戦う術をいくつも持ってて、念によってさらに身体も攻撃の威力も強化された。
………決定的な戦う武器を持たない俺とはえらい違いだよな。
正面から戦うぐらいなら逃げる方を優先!ってのが俺の考え方だからいいんだけどさ。
でも、いざゴンやキルアが危険な目に遭ってるときに俺だけ逃げられるかっていうと……。
逃げたくないなぁ、と思うのが兄心というか親心というか。
でも弱いのに無理に意地張ったところで足手まといにしかならないし。
「?どうしたんだよ、溜め息なんて吐いてさ」
「……いや。もっと強くなりたいなと思っただけだ」
「え、十分強いじゃない」
「そうだよ、そういうの高望みって言うんだぜ」
「…そう言ってもらえるのは嬉しいけどな。守りたいものを守るぐらいの力は欲しいだろ」
自分が大人ぶりたいとかそういうことを言いたいんじゃない。
でも、キルアもゴンも本来はまだ守られるべきはずの年齢で。
二人はそんなの必要ないぐらいに強いししっかりした意思も持ってるけど。
これからどんどん成長していくであろう可能性を見守ることって、人生の先輩の役目だと思うんだ。
情けない俺でもさ、少しぐらいは役に立てることもある。
ちょっとだけ先に生まれて、ほんのちょびっと長く生きてるだけだけど。
それでも多くを体験して知っていることに変わりはない。
「こんな風に俺が想う資格は、ないんだろうけど」
守られる必要のない二人だけど、勝手に保護者ぶらせてくれると嬉しい。
二人の頭に置いたままだった俺の手が、キルアとゴンそれぞれにわしっと握られた。
「資格とか関係ないよ。はちゃんとその強さを持ってる」
「…いちいち難しいこと考えてんじゃねぇよ。お前のやりたいようにやればいいだろ」
明るい笑顔で励ましてくれるゴンと。
ちょっとそっぽを向いて微妙に顔を赤くしてるキルア。
二人の優しさが嬉しくて、俺は自然と笑って二人に握られた手を引っ張った。
そのまま俺の胸に飛び込んでくるちびっ子たちをぎゅっと抱きしめる。
「わ!?」
「な、ちょ!」
「嬉しいこと言ってくれるな二人とも。よし、今日は好きなもの作ってやろう」
「が作ってくれるものはなんでも美味しいよ」
「あ、じゃあ俺甘いもん食いたい!」
こうやって俺に笑顔をくれる二人のために。
もう少しだけでいいから、戦う力と心の強さが欲しい。
ひたすら修行に明け暮れるクラピカやゴンたちを見てると。
俺も努力すればちょっとぐらいは成長できるんじゃないかって。
そんな風に思えたから。
恐怖で麻痺しすぎてるのか、対ヒソカでは強気な言動が多いですよね
怯えてるんだけど。ものすんごい恐怖してるんだけど。ハリネズミ現象
[2013年 6月 23日]