第168話

さて、ゴンとリールベルトの試合もあっさりと終わって。
いよいよヒソカとの試合へと進むことができるようになり、ゴンはより闘志を燃やしてた。
ハンター試験のゼビル島で、ヒソカにプレートを恵まれたことをゴンは悔しがってて。
いまのままじゃ自分の力でハンターになれたと認められないから、と。
本当の意味でハンターになるためにヒソカに一発拳を叩き込んでやりたいなんて。

………俺なら死んでも思えない決意を抱いているわけで。

いやーすごいよな!さすが少年漫画の主人公!なんであんな変態に立ち向かえるの!?
怖いだろ、気持ち悪いし。俺が立ち向かっても死亡フラグしか見えない。
そりゃな?ヒソカと何度かあわや戦闘、ってなったことはあるけど。…戦闘もどきもしたけど。
あれはヒソカも手を抜いてたっていうか怯えてるこっちの反応を楽しんでただけだし。
猫が小鳥とか虫で遊ぶような感覚だったんだと思うんだよ。

でもゴンがやろうとしてるのはそんな生温いものじゃなくて。
本気で戦って、なおかつあのヒソカに一発お見舞いしてやろうと思ってる。
………素直に尊敬する。さすが怖いもの知らずのジンの息子だ。

「いよいよ今日から<発>の修行に入ります」

にこやかに四大行の仕上げについてウイングさんが説明する。
ちびっ子三人が熱心に聞いているのを、俺はソファに座って後からぼんやり眺めていた。

これでいよいよゴンたちの念の系統がわかるようになる。
系統別の修行もあるんだけど、それはいまの三人が知る必要はないんだろうな。
基礎も基礎の部分はどの系統だろうと同じらしいから。
系統別の訓練は俺はウイングさんにちょっとずつ教えてもらってるけど。
いやあ、あれ大変だよ。GI編でゴンたちがやってた強化系の訓練さ、俺すげえ苦手。
俺は特質系だから、正反対の位置にある強化系とは相性が悪い。だから当然なんだけど。

…戦闘する上で、強化系が一番有利なのになー。
ま、正面から戦闘するなんて誰が相手でも御免だから、いいんだけどさ。
防御、回復、逃走。この三つに特化した能力を俺は極めたい。

もやってみてよ」
「……んー?」

ぼへーと考え事してたらゴンに肩を揺さぶられた。
どうやら自分の系統を調べるための水見式をやっていたようで。

「俺、強化系だった!」
「俺は変化系だってさ」
「自分は操作系らしいっす」
は?何系?水見式どんな反応になるのか見たい!」
「わかった」

腰を上げてグラスに入った水の前に立つ。
あ、でも変化がわかりやすい方がいいだろうから。
ちょっとごめん、と外に出て枯葉を見つけてくる。
不思議そうなゴンたちに笑って、じゃあいくぞとグラスに両手をかざした。

「え!?」
「葉っぱが…!」
「どんどん綺麗になって…わあ、新緑の色だ」
「え、どういうことだよ。葉が変化すんなら……操作系?」
「いえ。操作系は葉が動くのが特徴です。これは動いたわけではありませんね」
「えー、でも葉っぱに関しての変化がある系統って他には」

唸る子供たちを前に、ウイングさんが楽しげに眼鏡の奥で両目を細める。
そしてぴっと人差し指を立てた。

「どんな反応が出るのか、謎のままの系統があったはずですね?」
「うーん?」
「あ!特質系!」
「あ!」
「キルアくん正解です」
「マジか!って特質系なのかよ!?レアなんだろ?」
「まぁ…特殊なんだろうな」

俺の知り合いには特質系ごろごろいるけど。
旅団の連中が特殊すぎるだけなんだろうから、あんま気にしてもしょうがない。
クラピカも場合によっては特質系だしなー。

「あ、の腕輪の色がまた変わってる」
「…能力使ったからな」
「能力って?葉っぱが綺麗になったから、元気になるとか?」
「近いといえば近いかな。念のことにもっと詳しくなったら、当てられるかもしれないぞ」
「なんだよ、まだ教えてくんねーの」
「自分で推理して知っていくのも楽しいだろ?」

それに勉強、勉強。特質系の能力を把握するのなんてすごく難しいし。
っていうか、俺だって自分の能力をきちんと把握できてるわけじゃないしな!
ウイングさんとの修行のおかげで、細部まで調整できてきた気はするけど。
念って奥が深いから、完璧な完成というのはないのかも。…修行ってそういうもんだよな。

「さ、それではヒソカ戦に向けての君たちの修行ですが」

ウイングさんの言葉にゴンたちが背筋を伸ばした。
ヒソカとゴンの間には天と地ほどの実力差がある。それを少しでも埋めていかないと。

たった一発すら、ヒソカに届くことはない。







てなわけで、ゴンたちは<発>の修行に励むことになった。
俺もウイングさんのところで修行というか自主トレをしつつ。
日課になってるケーキ屋さんに顔を出しているところである。今日は何食べようかなー。

「いらっしゃいませ」
「こんにちは」

笑顔で迎えてくれたイリカは、カウンターの前で接客中みたいだった。
俺はいつも通り挨拶して定位置になってる席に行こうとしたんだけど…。

「……?」

イリカと話していたお客さんが振り返って、驚きの表情を作った。
んでもって俺もびっくり。名前を呼んだんだから当然だけど、俺の知り合いだったんだ。
まさかここで会うことになるとは思わなかったけど。

「ポンズ?」
「久しぶりね。まさかこの店で会うなんて」
「この店のケーキは絶品だから」
さん、お知り合いだったんですね」
「あぁ。今年のハンター試験で一緒になったんだ」
「私は途中で落ちたけど。あなたは受かったんでしょ?」
「よく知ってるな」
「というかあなたの実力なら受かるでしょうよ。それに、ポックルから聞いたわ」

おお、これまた懐かしい名前が出て来たぞ。
…といっても試験受けてそんなに経ってるわけでもないんだけど。
ハンター世界にいると時間の感覚がおかしくなってくる。
あっという間に時間が流れていくかと思えば、一日すらすんごく長く感じることもあって。

「ポックルと会ったのか?」
「仕事でちょこちょこ一緒になるわよ。最近は修行を始めるから、って休んでるみたいだけど」
「あぁ…修行ね」

ポックルも念の修行を始めてるのかな。
確かあいつの念能力って………………あ、嫌なことまで思い出した。
そうだよ、ポックルの能力が判明したときって蟻編じゃんか。それってつまり。

いま考えるのはよそう、と俺は話題を変えることにした。

「ポンズもケーキを買いに?」
「いいえ?ここには必需品を仕入れに来てるのよ」
「必需品?」
「お待たせ。…あぁ、くんも来てくれてたんだ」
「店長。こんにちは」

こんにちは、と挨拶を返してくれた店長は何やら箱を抱えている。
それを受け取って会計を済ませたポンズはありがとうございますと丁寧に頭を下げた。

「……ポンズ、これは?」
「仕事道具だから秘密」
「そうか。…あ、足はもう平気?」
「どれだけ前の話してるのよ。ちゃんと完治してるわ」

軍艦島で足を痛めてたポンズだけど、後遺症が残ることもなかったらしい。
よかったよかった。足も大事な身体の一部だからな。
何より女の子に傷とか痛みが残るのは可哀想だ。男なら勲章だけどさ。
………できるなら怪我とは無縁の生活送りたいと思うが。

「重いもの運ぶときとか、よかったら俺使って。運び屋やってるから」
「へえ、そうなの」
「これ連絡先」
「どこにでも運んでくれるの?」
「…山奥とか交通機関もないような奥地にも、呼びつけられるよ」
「あら、それは素敵ね。私も奥地で調査してることが多いから」

ふふ、と笑うポンズは可愛いけどちょっと悪寒めいたものが。
……女の子って容赦ないときは本当にないからな!いいんだけどさ!

じゃあね、と箱を抱えてポンズは店を出て行った。
結局あの中身なんだったのかなー。仕事道具で秘密、ってことだったけど。
そういうことなら店長は教えてくれないだろうし、詮索しすぎるのも失礼だろう。
俺は頭を切り替えて今日のメニューを店長とイリカに聞くことにした。






あ、ポンズとポックル好きなんです(聞いてない)

[2013年 7月 17日]