第133話―シャルナーク視点
俺たちがターゲットにしてたファミリーは、あっけなく捕獲できて。
全員を殺す必要はないけど、全員を生かしておく必要もない。
だから要人だけ残してあとは適当に掃除。
流星街の人材を好き勝手使ってたことに関して、色々確認しないとだけど。
ま、その作業はパクに任せよう。んで、お仕置き担当はフェイタンね。
マフィアとはいっても、結局ほとんどが一般人と変わらない。
だから油断してた……ってのもあるのかどうか。本当に不意打ちだった。
「クロロ!!」
マチの鋭い声が聞こえたと同時に、クロロの身体が傾いて。
ウボォーの大きな拳が誰かをすぐさま潰すのが見えたけど、俺はそっちは気にしない。
クロロが倒れた、ってことの方が重大事だ。
「クロロ、しっかりしな!!」
「マチ、いまの何」
「多分、念のこめられた銃弾。一発勝負っぽい能力だったけど、おかげで纏を貫通してる」
「うわー、あの程度の能力者に負傷させられるとか。クロロ恥ずかしー」
「………はは、やはり呪い効果かな」
笑うクロロは喉がひゅうひゅう鳴ってる。あ、これヤバイなってすぐにわかった。
色々と文句や説教を垂れ流しながらも、マチがてきぱきと処置していく。
まだ残ってるマフィアたちはウボォーが相手してるから、そっちは任せよう。
「シャル!!銃声が!!」
ホールのドアを開けて飛び込んできたのは、ドレス姿の。
面倒だからか、ヒールは脱ぎ捨てたらしく裸足だ。
普通とは違う銃撃に気づいたのか、血相変えて顔を出す。
一番に俺の名前が出てくるあたり、俺のこと心配してくれたのかな。うわ何それ新鮮。
眉を顰めたは一瞬で状況を理解したみたいで。
妙に落ち着いた声で、低く唸った。
「……ヤバイな」
クロロの顔色がどんどん白くなってく。
に頷くしかできなくて、聞こえてくるクロロとマチの会話が呑気なのが逆に不穏。
「ほらクロロ、しっかりしな。痛みに意識集中して。寝るんじゃないよ」
「…痛みから逃避したいと思うのは自然なことじゃないのかマチ」
「死にたいならそれでいいけどね。こっちが困るんだよ」
「イヤリングの予言通りになったな」
「………それどころじゃないだろう」
むしろどこか嬉しそうに笑うクロロに、は呆れた顔。
張り詰めた空気は変わらないまま、軽口を叩くクロロは俺達を気遣ってる。
まったく、こういうときまで団長精神発揮すんのもどうかと思うよ。
喋ってないと意識失いそう、ってのもあるんだろうけど。
「ホントだよ、けっこうヤバイとこ当たってんのにさー。マチ、どう?」
「傷が深い。一度広げて弾を出さないと鉛が残るね」
「…それはちょっと遠慮したい」
「死にたいの」
「だって麻酔なしだろ?」
「んなこと言ってる場合じゃないだろ」
子供みたいに駄々をこねるクロロの傍に、が膝をついた。
俺もマチもそれにはびっくり。
「?あんた、何を」
「…近くまで弾を戻せるかもしれない」
「は」
淡々と呟いたかと思うと、両手に凝をしたはそれをクロロの傷口に押し当てる。
そこに凝縮されていたオーラがクロロの中に流れていくのが見えて。
いつも嵌めてる<秤の腕輪>の石が、透明から青に変わっていくのがわかった。
…確かあれ、何か設定することで色が変化するんだったような。
が手を離して、マチが傷口を確認する。
あんまり動揺を顔に出さないマチが、ぱちぱちと目を瞬いた。
「………あ、これなら開かなくても弾を取り出せそうね」
「…そうか、頼む」
「え、何いまの。何したの」
「時間を巻き戻しただけだ。といっても、これが限界」
だけ、って。時間の操作なんてかなり特殊な能力だと思うんだけど。
ちゃんと聞いたことはないし、むこうも簡単に教えてくれることはなかった念能力。
だけど見せてくれたってことは、俺たちのことそれなりに信頼はしてくれてるのかな。
…時間を使うってなると、操作系……に近いけど特質系か?
クロロやパクに近い雰囲気持ってるから、それは納得かな。
操作系寄りだから俺とも気が合うのかもしれない。
「この石の色が染まるまでしか、時間を動かせないんだ」
「時間が動かせるだけでもすごい…あ、ならさ」
「?」
「なんか別のもので時間を早めてリセット、とかできないの?」
「無理」
<秤の腕輪>はどうやら能力の限界値をわかるようにするためらしい。
青く染まったから限界、ってことみたいだけど。
じゃあ他のもの使って透明に戻せばまた時間操作できるんじゃ?って思ったんだけど。
…そんなに便利なもんじゃないよな念って。
シズクやコルトピみたいに、ひとつの能力に特化すれば奇跡じみた力になるけど。
その場合、捨てなきゃいけないものが多すぎて、みたいにひとりで生きるにはキツイ。
「いっ…!!!」
「よし、弾取れた。じゃあ縫合するから、ほら黙って寝てな」
「………だいぶ痛かったぞマチ」
「んなしょっぱい傷負う方が悪いんだよ。ちょっとシャル、押さえてて」
「はいはい」
ちょっと声が弱々しいけど、意識もはっきりしてるみたいだし大丈夫そう。
マチが手際よく縫合していくのを、クロロの身体を支えながら眺める。
…と、じっとその光景を見下ろしてたがぽつりと声を落とした。
「マチ」
「何」
「クロロの傷口、覆う布が必要だろ。これ破こうか」
「これ…?」
「ドレス。長すぎて邪魔だし」
無造作にドレスをつかんで少し持ち上げる顔は、どうやら本気。
………まあ、男だからね?別に足ぐらい見えようが気にしないんだろうけどさ。
その恰好でこともなげに言うのはどうなの。ほら、マチも絶句してるよ。クロロは爆笑してるけど。
…ほんと、そういうとこ大雑把だよねって。
ウボォーさんの消失。
[2012年 9月 10日]