第134話

戻ってきたパクとフェイタンはクロロの負傷にやっぱり驚いてたけど。
でも意識はしっかりしてるし、冗談まで言う団長に心配はしてないみたいだった。
「痛めつける、足りなかたか?」とか物騒なこと言ってたけど。幻聴に違いない。

とりあえず根城にしているらしい場所のひとつに戻って、クロロを寝かせる。
マチが大丈夫って言ってるから大丈夫なんだろう。俺はよくわからないけど。
俺用ってことで荷物を置かせてもらってる部屋に入って、まずかつらを取る。
あ、化粧も落とさないとだよな。クレンジング誰か…パクから借りるか?
その前にドレスもさっさと脱いで……。

、あんた食事どうす…」

ドアを開けたマチがなんでかその状態で硬直した。
………えーと、食事を食べるかどうか確認に来てくれたんだよな?
盗んだものじゃなきゃ遠慮なく食べるけど、旅団でそれはなー。
期待しない方がいいんだろうな、と諦めて「自分でなんとかするから」と遠慮した。
俺の返事を聞いたマチがようやく動き出して、ぎこちなく頷きドアを閉める。

……いったいどうしたんだろうか。
あ、俺のあんまりに貧相な身体に唖然としたとかそういうオチ!?
前々から言ってるけど日本人は筋肉つきにくいんだよー。マチだって似たような人種だろうに。
でもやっぱそれなりに筋肉はついてる方がいいんだろうなぁ。ウボォーほどはいらないにしても。

ドレスはどうすっかな、クロロかシャルに返すべき?
ま、いいや、放置しておこ。あいつらが適当に処理するだろ。
部屋を出て洗面所に向かうと、ちょうどいいところにパクが歩いてきた。

「パク、クレンジング持ってないか」
「あるわよ。もう落とすの?もったいない」
「普段着で化粧なんかしてたら浮くだろ。気持ち悪いし」
「見てる方は楽しいのに」
「…あんまりからかわないでくれ」

ごめんなさい、と笑ったパクは部屋に戻って使い捨てのクレンジングをくれた。
そんでもってタオルまで用意してくれるところ、細やかでときめく。
お礼を言って洗面所に行き、化粧を落としてすっきり。あー、ようやく自然の状態になった。
化粧してると肌が呼吸できない感じがして苦しいんだよなー、女の子って大変。

、食べないってほんと?」

ひょっこりと顔を出したのはシャル。
お腹は空いてるけど、でも盗んできたもの食べる気にはなれないわけで。

「あぁ。自分でなんか作るよ」
「あ、なら俺もそれ食べようかな」
「………おい」
「だって適当に見繕ってきたものよりの飯の方が」
「疲れてるから、大したものは作れないぞ」

もういっそ卵かけご飯とかでもいいレベルだ。
マフィアがうようよいる場所に行く羽目になり、女装までさせられて。
ネオンに会うわクロロが負傷したおかげで念を使うことになるわ。
………うん、疲れて当然だよな。適当に食べて、寝たい。

「いいよ、全然OK」
「………はぁ」

シャルも食べるんじゃそれなりにちゃんとしたの作らないとじゃんかー。
皆が集まる部屋に入ると、それぞれテーブルに並んだ食事に手を伸ばしてる。
…おお、和洋折衷といいましょうか。ホント色んなのが並んでるぞ。
そこを抜けて台所へ。食材は…よかった、一応何かしらあるっぽい。
本当に面倒臭いから、野菜炒めとかでいいかなー。あ、いいもんめっけ。

「シャル、焼きそばでいいか」
「あ、いいね」
「肉ないけど」
「まあ、仕方ないんじゃない?って、そういえばウボォーがなんか食べてたような…。おーい、ウボォーその肉ひとつちょうだーい」

すでに焼いてある肉をウボォーから奪ってきて、これ入れようとシャルが笑った。
……まあ、いいか。だんだん考えるの面倒臭くなってきたから俺は頷くのみ。
適当に野菜を刻んで、焼きそばを作る。あ、匂いかいだらお腹が鳴ってきたぞ。

結局、出来上がった焼きそばを誰も彼もが味見してくれたおかげで。
俺はひと口くらいしか食べられなかったわけだけども。

疲れきってたからこれだけでもいいやー、と諦めて。
いまだ賑やかな旅団を放置して俺は部屋へと引き上げることにした。
人質にとられてた本は返してもらったし、これで明日には出発できそうかな。
ゾルディック家でゴンたちがどうなってるか気になるし。キルアにも会いたい。
ごろりとベッドに寝そべれば、どっと襲ってくる疲労感。

「…、いいかい」
「………マチ?」

ノックの音が聞こえて、俺が名前を呼ぶとドアが開く。
寝転がったままの状態でごめんー、でももう起き上がる気力が。

「礼を、言っとこうと思ってさ」
「……礼?」
「団長。あんたがいなきゃ、死んでたかもしれない」
「クロロは悪運が強いから、生き延びた気もするけど」
「危なかったのは確かだろ。…これ、やるよ」

すたすたと枕元に近づいてきたマチが何かをつまんで俺の口元に。
反射でそれを食べると、口内に広がるのは餡子の甘さ。
………って、めっちゃうまいぞこれ。あれ、この上品な餡子の味には覚えが。
ちらりと見上げると、マチがなんでかそっぽを向いた。

「残りもんで悪いけど、一応それなりのもんだから」
「………これ、もしかして俺が教えた」
「あの店の味は悪くないからね。近くまで行くと寄ることもある、ってだけ」
「そうか。………ありがとう、マチ。疲れが飛ぶ」

甘いものってホントなんでこんなに癒し効果があるんだろうなー。
しみじみ幸せを感じながらお礼を言うと、マチは背を向けて部屋を出て行こうとする。
あ、そうだ、言わなきゃいけないことがあったんだ。

「マチ」
「……?」

眠気と疲労で頭が回らなくなってきたけど、これだけは言わなきゃ。
億劫ながらもなんとか腕を持ち上げて、マチの手をとる。
ようやく振り返ってくれた彼女に、俺はちょっとだけ躊躇った。
なんかもう時効みたいなもんだから、言わなくてもいいのかもしれないけど。
でも、迷惑かけたんならちゃんとするべきだよな。

「前の、酒が入ったときは……迷惑かけて悪かった」
「………!!」
「次の日、会えなかったからずっと気になってて」
「べ、つに。こっちは何も気にしてない」
「うん、よかったよ。今日マチに会って、普通に話してくれたから……安心した」

酒飲んで記憶飛んでるから、具体的にどんな迷惑かけたか覚えてないんだけどね!
とりあえず「爆発しろ」ってフィンクスに言われるほどだったということぐらいしか。
…そういえばシャルにもなんか呆れられてた気がする。本当俺、何したんだろ。

「………あんた、女なら誰にでもああいうことしてるわけ?」
「ああいう……?」
「……っ……だ、抱き着いたりとかそういうことだよ…!」

えええええぇぇぇえええええ、俺そんなことしたのおおおおぉぉぉ!!?
なんだろ、酔っ払って気持ち悪くなった挙句にしがみついたとかそういうこと!?
うわ、それ迷惑。めっちゃ迷惑だ。もしかしてフィンクスにもそれやったのかな俺。
…フィンクスに吐いたりとかしてたら本当申し訳ないぞ。
って、いまはマチだ。マチに対して働いた無礼をだな。

「誰にでもするわけない。……しちゃいけないことだろう」
「……」
「なのに、ごめん。マチの優しさに甘えてるな」

そんなことやらかした俺に、ちゃんと話しかけてくれてお礼までくれるとか。
マチって冷たく見えて、すごく優しいよな。面倒見がいい。

「………ああいうのはお断りだけど。普通にお茶するぐらいなら付き合ってやるよ」
「…マチ」
「あんた、馬鹿みたいに溜め込みそうだし。辛気臭いとこっちが迷惑だからね」

じゃ、と今度こそマチは部屋を出ていく。
か、かっこいい…。なんてイケメンな台詞なんだ、俺より全然かっこいい…!
謝った側の俺が慰められてどうするんだ。結局なんの謝罪にもなってなかったぞ。

よし、今度マチとお茶するときは俺が奢ろう。
それでチャラになるとは思わないけど、せめてもの償いと感謝をこめて。





ようやくマチに謝れました。

[2012年 9月 20日]