第172話

、何してるの?」

俺の手元を覗き込み不思議そうに首を傾げるカルト。
あれ、着物なんて着てるから知ってるかと思ったんだけど。

「折り鶴」
「…おりづる?」
「紙で折った鶴だよ。鳥。…ほら」
「……すごい」

子供の頃必死に練習したものは大人になっても忘れないよなぁ。
これを折れるだけで、外国人とのコミュニケーションはばっちりじゃ!って。
外国に行ってみたい、って言い出した俺にじーちゃんが初めて教えてくれたものだった。
………普通英語の勉強とかから入るよな。

言葉なんて実際に行けば覚える。むしろ通じなくても気合でどうとでもなる。
そんな無茶苦茶な持論を持つじーちゃんだった。…実際、それでなんとかしてきたらしい。
いや、ちゃんと外国語話せるけどな?何か国語喋れんだあのひと。

きらきらと目を輝かせるカルトに、じーちゃんの言葉は真実らしいとわかる。
そっか、見たことないひとからしたら折り紙ってきっとすごいよな。
俺もばーちゃんが折ってくれた鶴はもちろん鞠とかさ、子供ながらに感動したこと覚えてる。
あと折った紙をハサミで切ると綺麗な柄ができるってヤツも。魔法みたいだったな。

「カルトもやってみるか?」
「うん!」

折り紙なんてものないから、ゼノさんにもらった紙を正方形にして使う。

念の修行をしている現在。午前中は念の基礎訓練で、午後は俺とカルトの鬼ごっこ。
基礎訓練をしている間は俺の出番はないため、ゼノさんの庵でのんびり過ごしてたりする。
好きに使っていい、って言われて最初は緊張してたんだけど。
顔を出したゼノさんがお茶でも飲むか、と言い出したから俺が淹れることになった。
そのときに茶器を探してて発見したのが使われてない紙。

あと一緒に習字道具も発掘した。
ちょっと古くなってたけど半紙もあって、久しぶりに精神統一も兼ねて書かせてもらってる。
いやあ、やっぱり和の心はいいよな。習字ってホント落ち着く。

「ほう、見事なものじゃの」
「…そういえばゼノさんは書がお好きですか」
「ん?」
「服に下げているので」

一日一殺、とかだいぶ不穏な文字が書いてあるけど。
これゼノさんが書いたのかなー、それとも誰かに書いてもらったのかな。
どちらにしろ力強い筆遣いだ。

「どちらかというと、見る方が好きかのう」
「そうですか」
、この後はどうするの?」
「あぁ、じゃあやってみるから見てろ」
「…うむぅ、器用なものじゃ。うちの家族にはちと難しいかもしれん」
「え?」
「あ、破けちゃった」
「…………あー………」

なるほど、確かにゾルディック家の力だと加減が難しいかもしれない。
普通の子供が折るときだって、むきになりすぎて折り紙を破いてしまう子はいた。

それなら、と俺はちょっと思いついたことがあって不満げなカルトの頭を撫でる。

「カルト。今日の鬼ごっこはなしにしよう」
「えー」
「その代わり、折り紙を教える」
「いいの?」

遊びを許可されたと思ったのか、長い睫毛がぱちりと動いた。
鬼ごっこだって遊びの分類だけどな。俺には命がけだけど!!

「鶴を一羽折れたら、今日の訓練は終わり。早く終わったらお前の遊びに付き合うよ」
「やった!」

………折れたらの話だけどな?





お茶の香りが庵の中を流れていく。あー…落ち着く。
こういう和室って雰囲気いいよな。俺の新居、和室ひとつ作ろうかな。
…でも本が積み上がって畳とか埋もれそうだよな、それはもったいないし。うーむ。

「しかし、お前さんも策士だのう」
「?」

ゴトーさんが持ってきてくれた和菓子をつまんでゼノさんが笑う。
俺はなんのことやらわからず首を捻って、差し出されたお菓子を受け取った。
………すげえ、美味い。めっちゃ美味いっていうか高級な味がすぐわかる。
ハンター世界でも和菓子はあるけど、メジャーなわけでもない。
俺も和食系の店は色々チェック済みなんだけど、どれもお洒落でお値段もかなり。
…そんな中でもこれは。相当、高いやつなん、じゃ…。

「カルトのあれは、一晩で折れるようになるわけでもなかろうに」
「…折り紙を破きさえしなければ折れると思いますよ」
「それが一番難しいようじゃの」

びり、という音がまた聞こえてきた。
縁側で不機嫌オーラどころか殺気をだだ漏れにしているのはカルトだ。
カルトの隣には折り紙のクズが積み上げられ、風に吹かれ散っていく。

「………
「頑張れ」

恨めし気な顔で振り返ったカルトに応援ひとつ。
ますます眉間の皺が深くなって、あぁこういう表情はキルアとそっくりだと思う。
家族じゃなくても一緒に生活してると仕草とか表情って似てくる。
そうして同じ空間にいるんだってことを実感して、やっぱり身内なんだよなと微笑ましくなった。

もうやめた!って言い出さないだけ進歩かな。
鬼ごっこでミケに怪我させたことを覚えてるんだろう。あれ以来、ちょっと我慢強くなった。

「…仕方ないな。カルト、ひとつ良いことを教えてあげよう」
「?」
「折り紙がすぐに破けるなら、破けないようにすればいいんだ」
「………?」
「怪我をするなら、怪我をしにくい強い身体になればいい。その訓練をお前はしてるだろう?」
「うん」
「折り紙も同じだよ」
「……でも紙は訓練できないし、念も使えないよ」
「そうだな。お前の助けがないと無理だろうな」
「僕の助け…」

ちょっとアドバイスしすぎたかな。
多分これゴンだったらまだ理解できず頭がパンクしてるところだろうけど。
カルトは…というかゾルディック家の人達は基本的に頭の回転が速い。
おかげでカルトも何かひらめいたらしく、じっと折り紙を見下ろしてひとつ頷いた。

新しい折り紙をとり、そこにオーラをこめようとしている。
実際に安定してオーラで包めるようになるのは時間かかるだろうけど。
でもカルトなら今日中に習得しちゃうんだろうな、<周>。

「…なんて末恐ろしい」
「こうして遊びに修行を織り交ぜるお前さんの方が恐ろしいわ」
「たまたまです。…それに、理解力のある生徒なので、俺の教え方とかはあまり」
「あのカルトが大人しく言う事を聞く、というのが大事なんじゃよ」

ええそうでしょうね、ゾルディック家の皆さん危険ですからね色々と!!
教え方が気に入らない、とかで殺されそうだもんな!偏見かもしれないけど!!





折り紙は可愛い遊びなのに、ゾルディック家にかかると修行の一環に

[2013年 9月 23日]