第174話

無事にカルトとの修行の期間を終え、俺は清々しくゾルディック家を後にした。
いやあ、生きてたよ!ちゃんと生き延びたよ、よかったよかった!!

天空闘技場に戻ると、ゴンとキルアの修行も随分と進んだみたいで。
発で起こせる水見式の変化が前よりもずっと大きくなってた。
やっぱ主人公組の成長は反則的だよなぁ。
これじゃヒソカも楽しみにするだろうさ、と納得してしまう。

二人は納得できるぐらいに発を習得したら、ウイングさんに見せるって言ってた。
多分あと一週間か二週間もすれば完璧にマスターできるだろ。

それを待つ間俺はというと。





「………おい変態、いい加減にしろ」

ドアをノックすることもインターホンを鳴らすこともなく。
鍵がかかっていなかったドアは俺を阻むことなく口を開いたため、思わず一歩踏み込んだ。
おっとと危ね。怒りにまかせて開けたから部屋に転がり込むところだった。

「やぁ、どうしたんだい。キミから来るなんて珍しいね」

昼間っからガウンを羽織って座ってる変態はノーメイクではない。
シャワーを浴びた後で身支度を整えてるところ、って感じか。
先にメイクして顔つくるとか、お前は女子か。
化粧してない方がまだイケメンなんだからやめろよ。

「ひとの安眠を妨害しておいてお前…」
「ウン?何かしたっけ」
「お前の、オーラが、ざわつきすぎて、気色が悪い」
「あぁ…ゴメンネ?試合が近づいてきてるかと思うとゾクゾクしちゃって」
「………勢い余ってゴンを殺すなよ」
「そうだね、いまもぎとってしまうには、まだ勿体ない」

ククク、と笑う奇術師は本当に気持ち悪い。

そう、こいつのオーラがあんまりに禍々しくて。
同じフロアに部屋はあるもんだから、近くを通りかかると俺はびくついてしょうがない。
ヒソカの部屋の前は通りたくないし、通らないように気をつけてるんだけど。
俺たちの部屋の前の廊下をヒソカが通るときもあるから、そんなときはホントさ…。

せっかく寝てても、ぞわっと悪寒で飛び起きることがしょっちゅう。
ゴンとキルアは爆睡してて、器の大きさが違うらしい。
自分に向けられた殺気じゃなければ気にならないのかもな。
……ヒソカがこんだけオーラ膨れ上げてんのはゴンのせいなんだけど。
俺もゴンたちみたいに据わった肝が欲しい…切実に。

「とにかく、そのオーラなんとかしろ」
「どうしようかなぁ。殺気立ってるキミを見るのは楽しいし」
「………そうか。もうお前のいるとこには絶対寄り付かない」
「冗談だよ。逃げることないじゃないか」
「俺は静かに過ごしたいんだ。それを邪魔するヤツの傍にいる意味がない」

っていうかこうして同じフロアにいること自体嫌なんですけどね!!
一生会えなくていいんですよ!お前の顔なんて漫画という媒体で見れれば十分だ!!

とりあえずおとなしくしてくれる気になったようで。
用が済んだ俺はさっさと部屋のドアを閉めようとしたんだけど。
せっかくなんだし寄っていきなよ、と手招きされた。…誰が頷くか。
何がどうせっかくなんだか訳わからん。

「美味しい酒が手に入ったんだ。ひとりで飲むのも味気ないし、どうだい?」
「それこそ断る」

飲んでるときの記憶がほとんどなくなる上に、キルアに厳禁されている。
ヒソカの前で前後不覚になることは絶対に避けたい。
だから俺はきっぱり告げて、何か言われる前にドアを閉めた。

…昼間から酒飲もうとするとかダメ人間にも程あるだろあいつ。

「あれっ、どうしたの。そこってヒソカの部屋じゃ」
「…ちょっと文句つけに」
「は?文句?」

ゴンとキルアが不思議そうな顔でやって来る。
とりあえず部屋に戻るよう促しながら、ヒソカのオーラについて説明した。
すると二人も納得した様子で。確かにあのオーラは気持ち悪い、と同意してた。
…なんだやっぱりキルアたちも気付いてはいたのか。
…だよな、あれだけだだ漏れのオーラじゃな。

「あいつのせいで睡眠不足なんだ」
「買ってきた本読んでるせいじゃなくて?」
「…それもあるが。ようやくひと段落ついて寝ようとしてるときに、あのオーラ」
「そういえば飛び起きてたことあったよね。あれ、びっくりした」
「敏感なのも考えものだよなー」

草食動物はそういうものだけどな!
自分を捕食しようとする動物から身を守るために、眠りは浅い。
俺が安眠できる場所っていったら……GIの秘密の部屋か、新居か。
シャルのマンションもまぁ普通に寝れるっちゃ寝れるけど。

「………疲れた、甘いものが欲しい」
「そう言うと思って。キルアとケーキ買ってきたよ!」
「…ケーキ?」
「修行の帰りにいつもの店寄ったんだよ」

何それずるい!

「とりあえず店長のお勧めを詰めてもらったよ」
「あと良い茶葉が入った、ってお姉さんがサービスで」
「へえ。……この量、お前たちも食べる気だな?」
「えへへ」
「目の前でお前が食ってて俺らが食えないとか、拷問じゃん」

いやすでに食べてきたんだろ?どんだけ食べる気なんだよ太るぞ。
それよりも虫歯になる危険の方が高いか。

部屋に戻ってイリカがくれたっていう紅茶を淹れてみる。
……お、なんか清涼感のある紅茶だな。気分がすっきりする。
鬱々としてた俺には丁度いい。さすがイリカ。

そして店長お勧めのケーキもまたフレッシュ系で。
あと優しい甘さのケーキもあった。こっちはふんわりと癒される味。
………天空闘技場ってさ、殺伐とした場所じゃん?
正直俺にとってはストレスにしかならない場所なんだけどさ。
このケーキと店長やイリカの優しさのおかげで、俺は過ごせてるんだと思う。

「なーなー、そっちもひと口食べていい?」
、こっちもおいしいよ」

クリームが口の近くについてるぞちびっ子ども。

キルアと初めて会った場所がここで、あの頃に比べれば大きくなった。
でもまだまだ子供のままだなぁ、なんて自然と笑う。
ゴンもキルアも大人顔負けの強さを持ってるけど、やっぱり幼いところも沢山ある。

それが俺を癒してるんだろうな。
……まあ子供特有の無邪気さに振り回されて泣きたくなることもあるんですけど。




ヒソカとゴンの試合まで、あと少し。





相当切羽詰っていたようで、ヒソカさんにクレーム

[2013年 9月 23日]