第176話―キルア視点

ついに明日はヒソカとゴンの試合。
最後の仕上げ、ってことでウイングさんに<発>の修行の成果を見てもらった。
俺もゴンも無事に合格。そこで言われたのは、ゴンの裏ハンター試験合格って言葉。

俺もゴンも訳わかんなくて、は?って感じだったんだけど。
ハンター試験ってのはあれで終わりじゃなくて、もうひとつあったらしい。
念を習得することで本当の意味での試験合格って言われて、何がなんだか。
確かにこの力があれば大抵の危険には対応できると思うけど。
…そんだけの力だからこそ、大っぴらに存在を知らせられないのも理解できるけど。

「なんだよ、最初から俺たち…ていうか、ゴンには教えるつもりだったのかよ」
「ええ。ちなみに私が属する心源流拳法の師範は、ネテロ会長ですよ」
「「いっ!?」」
「お二人のことは師範から色々聞きました」
「あんのジジィ……」

飛行船でおちょくられたこと、俺は忘れてないからな!

「キルアくん」
「あ?」
「ぜひもう一度、ハンター試験を受けてください。君なら次は必ず受かります」
「え」

いつかあのじいさんにリベンジしてやる、と震えてた俺はウイングさんの言葉に顔を上げた。
そこには…なんつーの?すっごく優しいっていうか大らかな笑顔があって。
ウイングさんの言葉に嘘は一片も含まれてない、ってのが感じられた。
本気でこのひとは俺がハンターになれる、って思ってる。

「いまの君には十分資格がありますよ。私が保証します」
「………ま、気が向いたらね」

むず痒くなって顔を逸らすと、が俺の頭を撫でてきた。
こいつは…!いつまでも俺のこと子供扱いしやがって!
抗議してもは頭を撫でることをやめない…どころか、目許が緩んでる。
あ、これ絶対笑ってる。すげえ緩んだ顔してる、わかりにくいけど。
……こいつにこんな顔させられるのは俺ぐらいだから、許してやろう。

他の合格者の近況も教えてもらった。
ハンゾーとクラピカは念を習得したらしい。レオリオはこれからで、ポックルは苦戦中。

「ちなみに、ヒソカとイルミははじめから念を習得しており条件を満たしています」
「つーことは、もだよな?」
「えぇ、そうですね」

いまさら聞くことでもないけど。改めてを見上げる。
ほんのちょっとだけ居心地が悪そうにしてる。

早くこいつの能力を見てみたいし、知りたいな、なんて。こっそりと思った。





天空闘技場に帰る道すがら、俺はに明日の試合の予想を聞いてみた。
ちょっと前を歩くゴンはオーラが好戦的に揺らめいてる。おーおー、明日が楽しみってか。
俺の質問にやや困ったように首を傾げたは、まず確認とばかりに尋ねた。

「ゴンの目的は、一発くらわせてプレートを返すことなんだろ?」
「けどあいつは勝つ気でやると思うぜ」
「だろうな。というか、でないと一発すら当てられないと思うぞ」
「……わかっちゃいるけどさ、マジでヒソカの強さは何事だよ。化け物か」

そんでそのヒソカとじゃれ合いだとしてもぶつかれるも化け物だよな。
俺たちの力が成長すればするほど、距離が遠ざかって感じられるこの腹立たしさ。

「キルアこそ。イルミに一発くらわせられるか?」
「………………………。…………念を覚えたいまでも………死ぬ気になってできるかどうか?」
「うん、そういう冷静なところキルアらしいな」

だから頭撫でんなっつーの!!
…イルミが俺を縛り付けてたのは、多分念能力を使ってなんだと思う。
俺も同じ力を手にしたわけだけど、それでもまだ勝てる気はしない。実際無理だと思う。
圧倒的に経験値が足りない。ただの実戦ならともかく、念を使っての戦いは経験があまりない。
けどイルミはかなりの場数を踏んでるはずだ。そして自分の力を使いこなしてる。

ほんっっっと、悔しいから、絶対いつか越えてやるけどな!!首洗って待ってろイルミ!

「絶対にやる、って意思があるなら…まあ一発ぐらいできるんじゃないか?」
「心もとねーなー」
「ゴンもキルアも成長途中で、可能性の塊だ。俺やヒソカの予想を上回ることも多い」
「…おい、ハズイこと言うなよ」

がそう言うのなら、明日の試合で一発でも入れる可能性が出てくるんじゃないかとか。
俺がイルミを越えられる日もくるんじゃないかとか、そんな希望を持ってしまう。
いや、絶対やってやるけどさ。俺がイルミに負けるとか考えるだけで腹立つし。

見てろよ、とちょっとした決意もこめての腕を拳でぼすと叩いた。





んで、試合。
ヒソカとゴンの試合はと並んで観戦することになったんだけど。
こいつさ、ヒソカがオーラを膨らませたと同時に凄まじい殺気を出したわけ。
相変わらずの殺気っていうか戦闘モードのオーラは刺々しい。
ヒソカとは別種のおどろおどろしさがあって、正直怖い。
なんて言ったらいいんかな。ヒソカがねっとりならはぞわり?

いまにもリングに飛び込んでヒソカを殺しそうなオーラだ。
がヒソカを嫌いなのは知ってるし、いくらでもやってくれて構わないんだけど。
これはゴンの試合だから、と膝を叩いて引きとめる。ついでにオーラが俺には辛い。
纏をしてるから平気だけど、念を知ってしまったからこそこの圧力はキツイ。

我に返ったはすぐに膨れ上がってたオーラを鎮めた。
その後はどんなことがあっても反応することはなくて。
ヒソカの異様な表情とかオーラとか見ても、涼しい顔で眺めてるだけだった。

その後はゴンがついに一発叩き込むことに成功して、プレートも返却した。
よし、これで目的は達成だな。あとは試合に集中するのみ。

ヒソカがオーラ別性格診断、なんてものを言い出したけど。
…それはまあけっこう合ってるとして。がなんか少し不機嫌そうに目を細めた。
なんだろ?と思ってる間にヒソカが突然動き出す。って、はえぇ!
いままで完全に手を抜いてやがった!わかってたけど、それにしたって!

身体が反応できずやられまくるゴンは、ヒソカから距離を取った。
さすがのゴンも考える時間が欲しいらしい。ま、俺でもそうするだろうな。
だけど隣のがぽつりと呟いた。

「………手遅れだけど」
「え?」

もう手は打たれてる、って言わんばかりの言葉。
そして楽しげに笑って人差し指をゆっくりと持ち上げるヒソカ。………まさか。

「ゴン、凝だ!!!」

叫びながら俺も目にオーラを集める。
そうして見えたのは。
いつの間にかゴンの頬に貼りついていたヒソカの念能力らしき何か、だった。

その後の試合は一方的…になるかと思いきや、ゴンもまあ奮戦した。
これが実戦だったら確実に殺されてただろうけどな。でもマジでよくやったと思う。

…俺ホント気持ち悪いときあったんだけど。なんなんだあの変態ピエロ。
ゴンだって怯んでた。俺ならもうすぐさま逃げ出すところだね。
俺も戦闘は好きだけど、命の危機が関わるなら逃げる方を選択する。
ゴンは俺以上にヤバイ頭してるから、自分の命すら賭けてスリルを楽しむけどさ。
そんなゴンすらも怯えさせるって、やっぱヒソカは危ない。

でもそんな奇術師を見ても。はただ淡々としてて。
最初に見せたオーラの揺らめきなんてひとつもなかった。





「結局、TKO負けかー…」
「ヒソカ相手にあの怪我で済んでよかったじゃないか」
「まあな。…はあ、心臓に悪い。つかキモ!ヒソカのヤツ本当にキモ!!」

そこはも同意見らしくて頷いてた。

ゴンを迎えに一緒に控え室に向かう。
手当を終えて出て来たゴンの顔は負けたことは悔しそうだったけど。
でもきちんとプレートを返すことができたから、晴れやかでもあった。




心頭滅却してただけで、動揺してなかったわけではありません

[2013年 10月 19日]