第186話
ゴンとキルアを見捨て……じゃない。二人の機転を信じて俺はアジトを後にする。
ヨークシンの様子を確認しバッテラ氏に報告するのが追加された仕事。
オークションが無事に開催されるか心配なのはわかるけど、それはそれで情報収集のエキスパートに依頼すればいいのに…と愚痴りたくなる。俺は運び屋!どんだけ俺を使い倒したいのバッテラさん!!
涙をふきながら夜の街を移動する。
……やっぱりなんかピリピリしてるな空気が。
一般人にバレないようにしてはいるけど、私服姿のマフィアたちが街中をうろうろしてる。
繁華街はいつも通り賑わっているものの、道行く人達も違和感は覚えてるんだろう。
どこかそわそわと落ち着かない様子のひとが多い気がする。
…とはいえ、襲撃にあったのは公にはなってないオークションだ。
マフィアたちの面子が絡んで問題になっているだけで、表のオークションには本来影響はない。
大小様々なマフィア勢力が総力をあげて襲撃者を探している。
そのうちこの騒動も落ち着いて、オークションは無事に開催されるだろう。
ヨークシンという場所の威信に関わることだし、原作でも無事にグリードアイランドが競売に出ていた。
「いまのままなら大丈夫、って報告でいいか…」
「あ。丁度いいところに」
突然降ってきた棒読みの声に硬直する。
「いま暇?」
「………………」
「無言は肯定と取るからそのつもりで」
「…暇じゃ…」
「暇だよね。じゃあ手伝って」
答えを最後まで聴けよおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!
お前はあいっかわらず自分の好きなように物事を動かそうとするよなイルミ!!!
そう、振り返りたくもないが振り返った先には、闇に溶けるようにして暗殺一家の長男が。
ぬぼぉ…と立ってるから幽霊と間違う。肌白いし。暗殺者らしくひとの気配がしないし。
瞬きなんてしないんじゃないか、と思うぐらいにぱっちり開かれた目は俺を凝視してて。
がっしりとつかまれた腕は離してもらえるわけもなく。
あ、両足の裏が地面から離れましたよ。
「おい」
「もしもしカルト?助っ人見つかったから連れてく」
「………おい」
「うん。拾った」
「おい………」
びゅんびゅん流れていく夜景。
へー…この先にはカルトもいるのかー…。
手伝って………手伝って? 手 伝 っ て ?
「イルミ、まさか暗殺の仕事じゃないだろうな」
「そのまさかだけど」
「俺は殺しは」
「うん、そこは俺たちの仕事。他人に譲るわけないでしょ」
……なんだそのありがたいのかわからないポリシーは。
「じゃあ手伝うって」
「侵入?ちょっと面倒なんだよね。全員殺してたら時間食うしさ」
「…そんなに焦るような依頼なのか?」
「ううん、単に親父たちと競争してるだけ」
は?シルバさんたちと競争?何そのゲームみたいな。
………えーと競争って何をだ。殺す数?いや、でもイルミは侵入したいって言ってた。
数の競争なら片っ端から殺していけばいいだけの話だ。
だけどイルミの口ぶりだと、侵入した先のターゲットを狩りたいと言ってるように感じる。
ゾルディックは確実に仕事をこなす。ゲーム感覚でやるようなことはない…と思う。
じゃあ何の競争?誰が一番早くターゲットを殺せるか?そんな無駄なことはしないだろう。
「さっさと仕事終わらせないと、依頼料もらえなくなるってだけ覚えといて」
金もらえなくなると困るから本気出せよこの野郎、と言われているようにしか聞こえない…。
タイムリミットを過ぎると依頼料が入らない……?
って、まさか。
「………お前とシルバさんで、標的が違う上に対立してんのか…」
「さあね、守秘義務があるから答えられないよ。殺してもいいなら教えるけど」
「知りたくないから教えなくていい」
「あ、そ」
知りたくないし行きたくないいいいぃぃぃ!!!
絶対これあれだろ、シルバさんたちはクロロと戦ってるやつだろおおおお!!?
そんでもってイルミはクロロから依頼受けて十老頭を………って、依頼者クロロか!!
ホント、あの、原作に絡むのも嫌だし、人殺しに関わるのはもっと嫌なんだけど…!!
「あ、本当だがいる!」
「ちょっと持っておいて」
「うん」
「……おい、俺は荷物じゃ…」
なぜかカルトに俵担ぎされるものの、身長の問題で足がついてる。な…情けない格好だ。
やたらご満悦な様子のカルトは俺の腰をぎゅっと抱きしめてくる。
どうにか解放してもらおうと顔を上げたところで。
人間かもあやしい顔と目が合いました。
…………笑って、るようにも見える…けど?無表情にしか見えなくて不気味だ。
少年のような身体のサイズ。でも肌には多くの皺が刻まれていて、高齢の可能性が高い。
あれだよ、有名なフォースの力で戦う映画に出てきたさ…ピッコロ小さくしたみたいな…。
あんなに優しい気配じゃないけど、イメージとしては近い。
誰だっけこのひとー!えっと、原作じゃ名前出てなかったような…?
ゾルディック家の曽祖父じゃないか、って言われていたような…あれ、どうだっけ!?
「じゃ。行こうか」
「待て。俺は協力するとは一言も」
「、このまま運ぶから舌噛まないように気をつけてね」
「いやカルト、俺は自分で歩け…」
「逃げられたら嫌だから」
俺がめっちゃ拒否りたいってことをわかってるじゃないですかー。
良い子だから解放してくれよカルト。今度美味しいお菓子持ってってあげるから…!!
プロの仕事人であるゾルディック家の人間に、袖の下なんて無意味なわけだけど。
そして放り込まれたマフィアンコミュニティの中枢。
「囮よろしく」と淡々と投げられた一言と共に、俺は建物に入れられ。
それと同時にけたたましい警報が鳴り出した。
四方八方から聞こえてくる荒っぽい足音や罵声。近づいてくる沢山の気配と殺気。
さっさと姿を消したゾルディック家を呪いながら、俺はぽつんとその場に立ち尽くした。
「いたぞ!侵入者だ!!」
「ぶっ殺せ!」
「てめぇどこのもんだ、あぁ!?」
皆さんもうちょっと冷静になりましょうよ。何でこんなに大量に押し寄せてるんですか。
俺んとこにばっかり集まってると、他の部分の警備がめっちゃ手薄になっちゃいますよね!?
現在のヨークシンのマフィアたちは神経が過敏になっている。
当然だろう。オークションを襲撃され、それを取り戻す算段もつかないまま。
………あ、ひょっとして旅団の襲撃ももう始まってんのかな。ウボォーの弔い合戦。
もしそうだとしたら、いまこのあたりってすごい緊張状態なんじゃ。
「………後で覚えてろよイルミ」
仕事終わったら通信機に連絡入れるから、と片手をひらりと振って去っていったあの男。
いままで一度も自分から使用したことはないけれど、捨てることもできずに持ったままのゾルディック家専用の通信機。
それが鳴るまで、とにかく俺は鬼ごっこを続けなければいけないらしい。
急だったし割増で報酬払うよ、と言われたけど。
報酬はいらないから俺を巻き込まないでほしかったな!!
クラピカやクロロがシリアスを頑張っている頃だろうに
[2014年 5月 14日]