第185話―ノブナガ視点
パクにケーキを頼まれて持ってきた、っつー男は俺が気に入ったガキたちの知り合いらしい。
思わぬ接点に全員の視線が集中する中、呑気な調子で首を傾げながらが答えた。
「俺の…弟みたいなもんかな?」
「んな!?お前、俺をいつまでも子供扱いすんなよ!」
「キルア、俺たちまだ子供だよ」
「うっせ!そういうことじゃねえっつーの!」
キルアってガキは強がる癖があるらしいが、それは兄貴分にも発揮されるらしい。
いや、もしかするとこの男に認められたくて粋がるのかもしれねぇな。
だが背伸びしようとすればするほどガキなんだよなぁ、と口がにやけてくる。
ウボォーが帰ってこない。
鎖野郎とやり合うために出て行って、そのまま戻らなかった。
勝負が長引いてるだけかもしれない。どこかで寄り道しているのかもしれない。
戻ってこない理由を色々と考えてみても、他の連中の結論はやられたんだろうってものだった。
………信じられない。いや、信じたくねぇだけなのはわかってる。
けど、あいつは本当に強かったんだ。誰にも負けない圧倒的な力がウボォーにはあった。
……過去形で語ってる自分がいることに舌打ちしたくなる。
そんなときだ。鎖野郎をあぶりだすために囮に出た俺とマチを尾行する、このガキ共に会った。
ウボォーと同じ強化系らしい黒髪の坊主は無茶苦茶なことを本気で語る。
自分ではなく誰かのためにがんと跳ね上がるオーラはいっそ小気味いい。
ガキにしては強いしな。が育てたってんなら納得だ。
いまも坊主たちの前に仁王立ちして怖い顔で睨んでる。
「………お前たちは何をしてるんだ」
「……えっと」
「び、尾行…」
「………ふーん」
むしろここで説教でも飛ばしてくれりゃありがたいのに、って顔のガキ。
それがわかってるからこそ、何を言うでもなくオーラをじわじわ広げていく。
…ま、俺たちにとっては言葉よりも拳、もしくは経験で学んでくのが当たり前だからな。
言葉で教えてもらえるなんざそんな生温さ、普通はない。
「……」
黒髪の方のガキが声をかけるとの視線が動いた。
恐る恐る見上げるゴン…だったか?を何の感慨もなく見下ろして。あ、オーラまた上がったな。
んでもうひとり…あー……キルア?に目をやって、さらに澱んでいくオーラ。
「お、怒ってる?」
「怒ってないと思うのか」
「…ダヨネ…」
裏を返せば、それだけこのガキたちが内側の存在ってことだろ。
お人好しで妙に甘いところのある変人だと思ってたが、子供の面倒まで見てやがるとは。
「ごめんなさい!」
「………それは、何に対しての謝罪だ?」
「えっと……無謀なことしたから…?」
「疑問形で答えるな。キルア」
「……何だよ」
「お前なら、実力差を計るぐらいできただろ」
「………」
「ゴンが猪みたいに走り出して止まらないのはわかる。だけどそれを止めるのがお前の仕事だ」
「何それマジ面倒」
「俺そこまで自分勝手じゃないよ!」
「「どの口が言うんだお前」」
にしたって、ここが蜘蛛の拠点だってわかってんのかこいつら。
あまりに平和すぎる会話がツボに入って俺は腹を抱えて笑った。
緊張感ねーとは思ってた。敵陣の中でもなかなか堂々としてるガキたちだとも。
それもこれも、この男が師匠じゃ当然だ。って男は蜘蛛の中で飄々と過ごすヤツだからな。
シャルも同じことを考えたのか、感心した風情で口を開いた。
「なるほど、が弟みたいって言ったのわかる気がする」
「…そうか?」
「こんなガキが良い腕してんのも、お前の教育の賜物ってことか」
「いや、もともとの才能だろう。俺は何もしてない」
淡々と答えたはで?と振り返る。
「この二人、お前たちはどうするつもりなんだ」
「あー…ノブナガが変なこと言い出してさ」
「スカウトするつもりだ。団長に入団候補者として引き合わせる」
「だから俺は入らないって言ってるだろ!」
「ごちゃごちゃうるせーな、死にたくなかったら黙ってろ」
俺の言葉を聞いても、やっぱり目の前の男の表情は変わらない。
特に驚いた様子もなければ嫌悪とかの反応もなかった。
「どうするー?俺たちはノブナガの好きにさせるつもりだけど」
「好きにすればいいんじゃないか。入団を許可するか決めるのはクロロだろ」
「そんでお前の弟が入団しちまったらどうすんだ?自分は蹴っておいてよ」
「それも二人の自由。……思いっ切り拒否ってなかったか?」
「んなの関係ねえ」
言い切った俺に対して、は弟分たちへ視線を向けた。
「じゃ、頑張れ」
「おい!」
あっさり見送るつもりらしい兄貴分にキルアの方が非難の声を上げる。
ま、ここで助けるような優しい存在ではないよな、師匠ってのは。
しっかし自分はあんだけ入団を嫌がってたくせに。
「で、」
「…何だシャル」
「ノストラードについてなんだけどさ」
…あぁ、そういやその話もあったな。
ウボォーをやったと思われる鎖野郎は、恐らくノストラードファミリーの人間だ。
少しでも鎖野郎に関しての情報は欲しい。
「………一度荷物を運んだぐらいで、交流はないぞ」
「ノストラードファミリーとはね。でも、そこの占い師とは繋がりがあるんだって?」
「…いや、俺からコンタクトを取ったことは一度も」
なんでか知らんがその占い師とやらには追いかけられてるそうだ。
シャルが調べた情報の中にそんな内容のものがあって、なんじゃこりゃと全員が思った。
「そもそも何で追いかけられてんの?ノストラードの賞金首になってたこともあるらしいし」
「……その占い師が、俺をコレクションのひとつにしたいんだと」
「へー」
「…あんた、変なのに好かれるね」
「……マチ、俺とヒソカを交互に見て言うのやめてくれないか。マチだってヒソカには気に入られ」
「その口縫うよ」
氷点下のマチの声にはさすがのこいつも黙った。
「よくわからないんだが、俺の目が欲しいらしい」
「「「あぁ」」」
納得した声を出す者数名。それを受けてが渋い顔をしたのが笑えた。
俺にはよくわからんが、確かにこいつの目は特殊だ。
色としてはどこにでもあるような焦げ茶。
だが、その中にある揺らめきは俺はこいつ以外に見たことがない。
ヤバイ趣味の連中の中には、この目が欲しいってのもいるんだろう。緋の眼みてぇに。
「じゃあさ、占い師の護衛とか見たことない?」
「護衛…?」
「この写真の中で」
「…このダルツォルネってのは、常に彼女の護衛をしてたな」
「あ、こいつは俺が殺したわ」
逃げてばかりのは他にはあまり見たことはないらしい。
「がクロロに教えた予言はさ、この占い師のじゃないの?」
「……秘密」
予言ってのは何の話なんだ。
だがは口を割るつもりはないらしい。ま、タダで情報を寄越すはずねぇやな。
仕事があるから、とあっさり帰ろうとする男にケーキを食べてたパクが声をかけた。
「あ、まだお金を払ってないわね」
「別に構わない。友人のよしみだろう?」
「……それ、すごくズルイ言い方」
「ちょっとあんた、そうやって女を口説くのやめなさいよ」
「…?」
「ダメだってマチ。のこれが素だっていうのはわかってることだろ」
「……そうだった」
………こいつが来るとなんでかこうなって女連中が微妙に騒がしくなるんだよな。
「急ぎの仕事?」
「お前たちが騒ぎを起こしたおかげで、俺の仕事に影響が出てるんだ」
「ぎゃはは、それは悪かったなぁ」
「本気で思ってないだろ。ノブナガ今度お前だけ飯抜きな」
「おい!?」
「じゃ」
「」
不意にシャルが静かな声でを呼んだ。
すでに去ろうとしていた背中が立ち止まり、視線だけが振り返る。
「ウボォーが、やられた」
その一言だけだったが。
を取り巻くオーラがぐらりと揺れて、そして乱れた心を消化するように沈静していく。
「……そうか」
悼む言葉を吐くわけじゃない。怒りも悲しみも、何も感情は表に出てはこない。
それでも、絞り出すように落ちた一言には様々な想いが滲んでいるようで。
この男は確かに、ウボォーの死を胸に刻んだのだと知れた。
ノブナガっていいひとですよね
[2014年 3月 21日]