第190話―キルア視点

幻影旅団が仕留められた、ってニュースはにわかには信じられなかった。
全員が殺されたわけじゃないっぽいけど、団長までもやられたって話だ。
写真も出回ってて。俺たちが会った連中の顔に間違いはない。

「……これ、クラピカどうしてんだろうな」
「団長が死んだってなれば、一応目的は果たされたってことにならないかな?」
「さあな。けど俺たちの目的は達成できてないぜ」
「?」
「旅団の誰かとっ捕まえて、賞金もらうんだろうが!」
「あ」

そうだった、とあっけらかんとした顔のゴンに脱力する。
俺たちはグリードアイランドを手に入れるための資金が必要で。そのために旅団を追ってたってーのに、すっかり忘れてやんの。まったくこれだからゴンは危なっかしい。
俺としてはクラピカの協力を仰ぎたかったんだけど、どうなってるかわかんないなこりゃ。

クラピカは確実に団員のひとりを倒してる。それだけの強さをいまは持ってる。
悔しいけど俺たちじゃとてもあいつらに太刀打ちはできない。
それでも金は稼がないといけない。となると、クラピカの力は不可欠で。

純粋にクラピカを心配してるらしいゴンは、公園で待つことをメールして出かける準備を始めてる。
……ま、狡いこと考えるのは俺の役目ってね。

「長丁場になるかもしれないから、食べ物とか買ってこうよ」
「手づかみで食べられるものにしとけよ。楽だから」
「じゃあピザとかパン系?」
「あとケーキ類な」
「キルアほんと甘いもの好きだよね」





公園で待っている間なぜか途中から早食い競争が始まったりしたが、クラピカはちゃんと顔を見せた。随分やつれて見えるけどそれほど悲惨な顔色でもない。もちろん良くもないけど。
どこか不機嫌そうに見えたから、旅団が自分以外の手にかかったのが許せないのか?と思ってたら全然違った。

「一緒に来ると言っていたのに、がひとりでさっさと出かけてしまった」
も一緒だったんだ?」
「あぁ。後で合流するつもりだとは言っていたが」

あいつ仕事とか言ってたのにクラピカのとこには顔出してたのかよ。
……まあ旅団の情報聞いたんだとしたら心配になったのかもしれないけど。

…………つか、は旅団の連中が殺されたって聞いてどう思ったんだろう。

あいつらのアジトで会ったは随分と気安い仲に見えた。
仲間の結束が強そうな旅団なのに、部外者であるはずのにあいつらも親しげにしてたし。
多分それなりに長い付き合いなんじゃないかと思う。
そんな奴等が殺されて?

「クラピカ。に会ったのっていつ?」
「夜中だな」
「……旅団のニュースは」
「恐らく知っていただろう。それで私に連絡してきたようだった」

だよな。やたら俺らに甘いなら自然の行動だ。
旅団がやられて、クラピカにとっては良かったのかもしれない。
復讐なんて気持ちに取り憑かれてる姿は痛々しいっつーか……精神削ってる感じしたし。
それにゴンが言ってたように、クラピカが本当にするべきなのは緋の眼の回収と弔いなんだろうな。それはまあ、いいんだけど。……いいんだけどさ。俺らの賞金稼ぎができないと困る。

旅団を傷つけられたって事実がにどんな影響を及ぼしてるかも気になるけど。
場所を移動することになって俺は移動先をメールする。
もしかするとあいつは俺たちに悟らせないように、気持ちの整理でもしてるのかもしれない。多分、自分の感情を俺たちにぶつけることをはよしとしない。妙な線引きするんじゃねーよ、って思うけど。

とりあえず逃げずに俺たちに顔見せろよな、って意味もこめてのメールだ。
なんだかんだで律儀だからなら顔を見せるだろ。





!おはよ!」

もうおはようなんて時間でもないけど、やって来たにゴンが笑顔で駆け寄る。
全員が揃ったことが嬉しいらしい。……そういや俺の家を出て以来か。

ヨークシンで会おうって約束したのに、ここまでドタバタすると思わなかったぜ。
ゴンと一緒に近づいてきたをまずクラピカが睨みつけた。
なんで睨まれるのかわかってないらしいはひとつ瞬く。……あんま普段と変わらない表情してるな。こいつは感情を表に出さないから、隠そうと思えば俺たちには全く悟らせないんだろうけど。

「……私を置いてひとりぶらつくとは、随分と薄情だな」
「ひとりでも問題なさそうだったから」
「私に付き合って公園に行く、と言ったのはお前だろう。それが起きてみればもぬけの殻だ」

ってちょっと待て?起きてみればもぬけの殻?おい!?
まさか同じベッドで寝てたとかじゃないだろうなお前ら!単純に同じ部屋に泊まったってだけだよな!?天空闘技場にいたとき、俺とゴンと三人で寝るとかしょっちゅうだったけど、クラピカはダメだろう。なんかこう道徳的?な部分で!

一緒に寝てたはずなのに起きてみたらいなくて置いてかれた、ってなったらそりゃ拗ねるよな。
眉間に皺を寄せてるクラピカに謝りながら、頭を撫でるの手は妙に優しい。めっちゃ甘やかすときの手だ。

俺たちのことは旅団のアジトに見捨てたくせに!
しかもその後も電話一本で終わらせてろくに心配してこなかったくせにこの野郎!
……俺たちなら大丈夫だ、っていうあいつなりの信頼の形なのかもしれないけど。
あいつに甘やかされるのは俺だけの特権だったってのに、面白くねーの。

べ、別に甘やかされたいわけじゃないけどな!?

「謝るのは俺たちにもだろ!」

怒った顔をつくっての腕にしがみつけば、驚いたのか目を瞠った後で和らぐ空気。
悪かった、と俺たちに向けられて落ちた声は淡々としている中に温かみがあって。

くそう。自分がしんどいはずのときに、俺たちを甘やかしてんじゃねーよ。

なんて、理不尽なことを考えた。




ウボォーの死は悲しんでますが、キルアが心配するようなレベルではない

[2015年 4月 1日]