第193話

パクノダを見送った後はホテルに戻った。
びしょびしょだったからすぐに風呂に入って、あとはベッドに潜り込む。いまはちょっと休みたかった。身体が疲れてたのか精神的な消耗か、気がつけば意識が途切れて。

泥のように眠って、部屋が明るくなって意識が浮上する。
……あー、カーテン閉めずに寝たんだな俺。
起き上がったところで携帯にメールが入ってることに気付いた。キルアからだ。

クラピカが熱を出して倒れた。

……そういや緊張状態が長く続いたことと、念能力の負荷で倒れるんだったか。ゴンとキルアを無事に取り戻せたってのもあって、いよいよ限界がきたんだろう。
なんか差し入れ持っていってやるべきかなー。

うん、そうしよう。ここでじっとしててもしょうがない。いまはとにかく動いていたかった。






メールにあった通りの場所に向かうと、いかにも隠れ家ですって感じの外観だった。ボロいというかなんというか。最低限の清潔さは保たれているみたいだ。
たぶんこの部屋だよな?ノックしようとして、その前に扉が開く。

「こんにちは。あなたがね」

セ、センリツだー!!見た目は呪いのせいで独特なものになってしまっているけど、声はとても優しくて綺麗だ。クラピカの同僚で、暴走しがちな彼を宥めてくれる貴重な存在。
癒しオーラをすでに感じてしまって、俺の人見知りもいつの間にやら鳴りを潜める。

「……あの晩はそっとしておいてくれてありがとう」
「いいえ。クラピカにとってはそれが最善だと思っただけだもの」
「だからこそだ。クラピカの同僚があなたのようなひとでよかった」
「あら、なんだか照れてしまうわね。私はセンリツよ、よろしく」

部屋に通してもらうと、ベッドに横たわるクラピカがいて。呼吸が苦しそうなのは熱があるせいなんだろう。顔色も悪い。
こういった症状のときは俺の能力でもどうにもできないんだよなぁ。クラピカ自身の体力が回復するのを待つしかない。

「一応、飲み物と消化によさそうなもの買ってきた」
「お、さすがだな。買い出しに行かないとなんねーなと思ってたんだ」

レオリオがついててくれてるなら安心だ。医者を目指してるこいつなら適切な処置をしてくれるだろうし、センリツもいればクラピカをしっかりと休ませられる。
けどその前に、少しの時間俺が付き添うよと提案した。レオリオとセンリツだって休む時間は必要だ。二人ともそれが分かっているんだろう、俺にお礼を言ってそれぞれ部屋を出て行く。

発熱して体温は高いはずなのに青白い肌をそっと撫でて、ぬるくなってしまった濡れタオルを冷やし直す。
ほんの一日か二日のことなのに、随分とやつれたな……。

「…………?」
「起きたか」

うっすらと開いた瞳は焦点が合っていない。これ、意識はほとんどないかもな。
何かを求めてさまようクラピカの手を握って、できるだけゆっくりと囁く。

「……キルアもゴンも、お前も無事に帰ってきた。頑張ったな、クラピカ」

握った手を空いた手でそっと叩く。えらいぞ、と褒めるように何度も。
それが心地よかったのか、クラピカの睫毛が震えそのまま瞼は閉じていった。
相当に朦朧としていたようだから、たぶん俺の言葉は記憶に残らないだろう。それでも別によかった。

いまここにクラピカがいて、ちゃんと生きてる。
俺にとっては十分だった。






各自休息をとり、センリツはネオンの様子の確認をしたり、レオリオは細々と必要なものを買いに行ったりして戻ってくる。クラピカの看病はバトンタッチして廊下に出ると、キルアと遭遇した。
なんだ来てたのかよ、と俺の手をとったかと思うとずんずん歩き始める。そうしてクラピカとは別の部屋に引っ張り込まれた。

「あ、だ。仕事は?」
「空き時間ができたから、クラピカの見舞いに来たんだ」
「うん、ずっと苦しそうにしてる」
「なのにこいつ、クラピカの熱が下がらなきゃいいとか言うんだぜ」
「だって」

ゴンはクラピカが旅団と戦うことを望んでいない。
だからこのまま距離をとってほしいんだろう。俺も同じ気持ちだ。

「クラピカに必要なのは休息だな。これまでずっと張り詰めてたんだろうし」
「……ま、そりゃそうだな」
「お前たちもやるべきことがあるだろ?そろそろそっちに集中したらどうだ」
「やるべきこと?」
「グリードアイランドだろ!そもそも俺たちが駆けずり回ったのは金のためで、金稼いであのゲームを手に入れたかったんだろーが!」

いよいよオークションも近づいてきたしなー。ま、競り落とすのは無理として。
プレイヤーになることはできるから、二人はそっちを頑張ってもらわないとな。

そこでゴンの秘策があるらしく。キルアもそれに乗り気だ。
俺にもその作戦を教えてくれて、なるほどなと頷きを返す。
あれだけゲームを収集しているバッテラは、ゲームを攻略できるプレイヤーも求めているはず。だからそれができる有用なプレイヤーであると売り込めばゲームをやらせてもらえるんじゃないか。
単純だけどすごく良いアイディアだよな。キルアも一番可能性があるって頷いてる。

「良いんじゃないか?お前たちがバッテラ氏の財力に敵うはずもないしな」
「ちぇー。そういやって預金いくらぐらいあんの?」
「……総資産ってなるとよく分からないな」
「え、そうなの?」
「いちいち確認してない。運び屋の仕事も、だいたいは依頼客が報酬決めるし」
「……まあぐらいのレベルなら下手に安い値段つけねーよな」

そういうもんなのかなぁ。単に俺の客になることの多い連中の金銭感覚がバグってるだけじゃなくて?
イルミが一番依頼が多くて、あいつの支払額はとんでもない。
マフィア関係の依頼だとできるたけ断ってるんだが、逆にそのせいで相手の提示する報酬額が高くなっていたり。……ちげーんだよ、額が足りないって言ってんじゃないんだ、マフィアに関わりたくないんだよ!!!

一般の依頼もあったりするけど、その場合は運んでいくときにかかる交通費や宿泊費がメインで、あとはちょっとだけ手数料を上乗せする感じ。
俺としてはこういう依頼中心で地味に生活していきたいところなんだけどなぁ。

「さすがにバッテラ氏のような億万長者ではないよ」
「どーだか」

いや本当にそこまではないからね!?あったら大変なことだよ!
あとイルミやマフィア連中から稼いだ金はあまりにも真っ黒な気がするから、俺の資産に数えたくない!!

この気持ち分かってくれる!?分からねーよな!くそー!!!!






そろそろGI編に向けて進んでいきます

[2023年 4月 1日]