第194話
いよいよオークションがスタートし、敵情視察ってことでゴンとキルアは出かけていった。
俺も会場には入るものの、バッテラの警護にはツェズゲラがつくから控室で待機。
控室にもモニターはあるからオークションの様子を見ることができるわけだが、飛び交う金額がとんでもなくて現実味がなかった。
カタログもぺらぺらめくってみるものの、俺にとって興味を引くものはない。ここで呪いの石版とか出てきたら何がなんでも競り落とさないといけなかったかもしれんが。
こうして時間を潰してるぐらいなら別のことをしたらいいかと思わんでもないけど。
いまは非現実的なこの会場が丁度いい。蜘蛛のこと、ウボォーやパクノダのこと、クラピカのこと。それらから距離を置けるような気がするから。
最後までパクノダは俺を責めたりせず、むしろ胸に染み込むような笑顔を見せてくれた。
恐らく旅団の連中に記憶を渡しただろうに、シャルたちから連絡もない。……殺されてもおかしくないと思ったのにな。
鎖野郎と俺に繋がりがあることをあいつらも知ったはずだ。なのにいまだ俺は無事。
……これからもあいつらに付き合ってやって、と遺したパク。本当にそんなことが可能なのか半信半疑だったのに。
物思いに沈んでいる間にグリードアイランドがステージに上がり、競売が始まった。
最後まで争っていたのはバッテラとミルキ。いやーミルキもけっこうな金持ちだよな。急遽暗殺の仕事をまとめて請け負って稼いだらしいけど。
ゲームを買う小遣い稼ぎに人を殺す。やっぱりミルキも立派なゾルディックの人間なのだと思い知らされる。
深く考えるのはよそう!俺にとってのミルキはゲーム大好きなオタクだ、それだけでいい、うん!
『十六番!三百五億!さあ他にいらっしゃいませんか!』
なんかとんでもねー額が聞こえてきた。
どよめきが画面越しにも感じられる。たかがゲームに対して支払う金額じゃないもんな。
バッテラ氏が欲しいものは無事入手できたみたいだ、というのが落札者として映し出されて分かった。とはいってもまだこれはスタートでしかなくて、この後の日程でもグリードアイランドが競売に出る予定がある。それ全部をゲットする気だ。
「刺激的な前哨戦となったものだ」
口元に笑みをのせながらバッテラ氏が戻ってくる。俺は落札おめでとうございます、と形式的に挨拶して迎えた。
ふかふかクッションの長椅子に腰を下ろした雇い主は、後から入ってきて扉を閉めたツェズゲラを振り返る。
「先ほどの子供たち、来ると思うかね」
「……あの様子なら来るでしょうな」
「…………子供?」
思わず呟くと、面白いものを思い出すような顔でツェズゲラが頷いた。
「グリードアイランド攻略の手伝いをしてやろう、と声をかけてきた子供が二人いてな。プロハンターだという話だが、あれはまだまだひよっこだ」
「しかしメモリーカードと指輪を持っているとは、どういう経緯によるものなのか……気にかかる」
「選考会の結果次第ですな」
あー……ゴンとキルアがアタックかけにきたのかな、早速行動を起こすとは流石。
バッテラ氏がゲームのプレイヤーを求めているのは間違いないから、そこに加えてもらおうという狙いは悪くない。……とはいっても現状のあいつらの実力だとなぁ。
念能力の基礎しか知らない状態で、それぞれの系統に合わせた技というものは訓練してない。
ま、俺だって戦う力なんてほぼないから似たようなもんだけど。
逃げて生き延びる手段に特化してるんだから、これはこれでOKだろと開き直っている。
「一応、ハンターなんだろう?」
「そう名乗っていた」
「なら、選考会までには急成長してるかもしれないぞ。子供っていうのは才能の塊だからな」
「……ほう、お前がそうまで言うのは珍しいな」
はっはっは、当人たちをよく知ってるからね!
あいつらは化け物レベルの強さなんだ。なんてったって主人公。
そんな話をしていると、廊下がにわかに騒がしくなる。なんだなんだ。
大富豪たちが集まるこの場は命を狙われてもおかしくない人達が揃っている。だから警備も厳重にされているし、水面下でマフィアが絡んでいたりもするわけだが。
ここを襲撃するような酔狂な奴、旅団ぐらいだと思ってたんだけど。
「報告します!」
「なんだいったい」
勢いよく開かれた扉からは、バッテラ氏お抱えの警備員のひとりが現れた。
随分と動揺しているらしく額に滲んでいる汗は緊張からくるもののように見える。
「ぐ、グリードアイランドが!何者かに強奪されました!」
「!」
「なんだと!?どういうことだ」
腰を浮かせる雇い主を押し留め、ツェズゲラが手早く情報を確認する。
競り落とされたグリードアイランドは早速バッテラ氏の屋敷へと輸送が開始されていたらしい。
しかしその輸送車が何者かに襲われたというのだ。
きちんと厳重な警備が施されていたにも関わらず、あっさりと。車は炎上、配備されていた護衛も死亡。躊躇いのない……どころか手慣れた犯行だと推測されている。
……いたわ、酔狂な奴ら……まさしく旅団の二人じゃん……。
すっかり忘れていた漫画の展開を思い出して、頭痛を覚える。
「この損失を運営はどう補うと?」
「落札した金額は無効となる、とのことですが……」
「それだけで済むと思っているのかまったく!」
血管が浮き出るほどに拳を握ったバッテラ氏はしばらく唸っていた。
それから深い溜め息を吐くと、今度こそ立ち上がる。
「どちらへ」
「直接文句をつけてこようと思ってね。それから今後の輸送方法について提案をしようと思う」
「提案?」
部屋を出る間際、一度足を止めた雇用主は振り返って俺を見た。
「明日から私が落札した品は全てに運ばせる」
「……なるほど。オークション側としては受け入れ難い提案でしょうが、今回の過失がありますから……呑むしかないでしょうな」
「すまないが頼めるかね。もちろん報酬は上乗せしよう」
「………………」
俺の仕事が増えたんですけどぉ!?
フィンクスとフェイタン許すまじ
[2023年 6月 7日]