第195話—シャルナーク視点
フィンクスとフェイタンが妙なゲームをアジトに持ち込んだ。
ジョイステーションに対し《発》を行った者は一瞬で消えてしまう。その光景を直に見たときは流石にちょっと驚いた。
ゲームの中に入る、っていうイメージなんだとは思うけど……これは掘り下げたら面白いかも?と興味を引かれる。
得意の情報収集でゲームについて調べてみたら、の名前がヒットした。
あ、運び屋の仕事で関わりがあるんだっけ、へー。念能力が絡むゲームだし、まあ妥当な人選なのかな。ゲーム所有者のバッテラは大富豪みたいだから、単に金に糸目をつけず優秀な運び屋を雇いたかっただけなのかもしれないけど。
取り出した携帯で呼び出すのは、もう何度使ったか分からない連絡先だ。
出てくれるかどうか分からないけど、かけるだけかけてみよう。
パクが遺した記憶。その最後にはとのやり取りも含まれていた。
は鎖野郎と知り合い……どころか随分と親しい間柄らしい。
つまりは俺たちと敵対する立場にいるのか、と思ったけれど。は俺たちの情報を売ってはいなかった。ただ傍観を選んだだけ。
関わらず静観することはおかしな選択ではない。だってあいつは蜘蛛ではないのだから。
『……もしもし』
「あ、出た出た。久しぶり」
お、一回で繋がると思わなかった。
パクの記憶で見たはあんまり見たことがないぐらいに沈んで見えたから。
まるで泣いてるように見えたんだ。雨に濡れてたせいでそう見えただけかもしれないけど、でもそれだけじゃなかったと思ってる。
死んでほしくない、ってが言うなんて誰が想像する?
傍観者で徹していたはずのあいつが、個人としてできることはあるかとパクに歩み寄る声も俺はしっかりと覚えてる。
「そっちはいま何してた?」
『仕事中』
「あ、そうなんだ。電話してて平気?」
『大丈夫だよ。あんまり長くは話せないけど』
仕事中なのに応対してくれるのは、パクの最期の願いを叶えようとしてくれてるからなのかな。
これからも俺たちに付き合ってやってほしい、なんて。盗賊が随分と可愛いリクエストをしたもんだよ。
「オッケー、じゃあ手短に。ってグリードアイランド知ってるよね」
『……知ってるけど』
「あれ面白い?」
『俺は仕事で関わったぐらいだから、面白いかどうかで考えたことはないな』
大した内容じゃないとはいえ、運び屋としての仕事内容を教えてくれるのは珍しい。
秘密主義ってほどじゃないけど、守秘義務ってやつを気にするんだよねは。
「はは、らしいや。…………けっこうなお宝がありそうなゲームだよね」
『……遊ぶのか?』
「ちょっと試してみようかなって。も一緒にどう?」
『仕事中だって言ったろ』
「残念」
これ以上は踏み込まない方がいいかな。
「じゃあ邪魔しちゃ悪いしそろそろ切るよ」
『……またな』
いつもより少しだけ声が硬く感じられるのは、パクのことを気にしているからなんだろうか。
死なんて俺たちのそばには当たり前のようにあって。今日には自分が死ぬかもしれない、明日には仲間の誰かがいなくなってるかもしれない、それが日常。
だって同じはずなのに、パクの死を惜しんでわざわざ雨の中を会いに来た。……それってすごいことだよ。
だから俺は少しだけ素直になることにした。
「……パクノダに会ってくれて、ありがと」
電話の向こうでが息を呑んだのが分かる。
あんまり動じることのない奴だから、それを少しでも崩せたのならちょっと嬉しい。
欲を出すなら、どんな顔してるかも見てみたかった。
「パクも言ってたけど、はそのままでいいよ。俺たちもそうするから。じゃあね」
返事を待たずに切って、愛用の携帯で口元を隠す。
「…………は俺に甘いなぁ」
俺たちにとって鎖野郎が敵になりうるように、鎖野郎にとっては俺たちが敵だ。
さらにゴンとキルアという弟分を、人質として拘束したという経緯もある。のことだからそのことだって知ってるはずだ。
なのには変わらず俺と電話して、またなと言う。
「………………ありがとう」
俺にとっても、なかなか得難い存在なんだ。
だから失われずに済んだ繋がりに、どこかでほっとしている。
……これはパクのおかげなのかな。
どう思う?クロロ。
ようやっとお電話できた
[2023年 6月 7日]