第196話

バッテラの城に到着し、運んできたグリードアイランドをスタッフたちに渡して運び屋としての仕事は完了。
彼らが新たなプレイヤーを迎えるべくゲームを設置していく様を見守りながら、審査結果を待つ。
ツェズゲラから合格人数の連絡が入ったら、一足先に俺がゲームに入ってケスーたちに報告するって手筈になってるんだ。
これが終われば俺の仕事は完全に終わることになる。何しろゴンたちが参加する今回、いよいよゲームクリア者が出るのだ。

いやー長かったな、バッテラ氏との契約。
そういえば前にジンへの連絡役をゲームマスターのイータから頼まれて、その報酬として何でもひとつだけ叶えてくれるって話を保留にしてたな。
ゲームマスターにできることであればなんでも、ってことだったけど。
グリードアイランドに入るのはこれが最後になるかもしれないし、そろそろ決めておかないといけないだろう。
……これにしようかな、というのはもう浮かんではいる。ゴンとキルアがゲームをクリアした後でお願いしてみるか。

そんなことを考えていると、俺の携帯が震える。ツェズゲラからだ。

「もしもし」
『合格者が決定した。21名だ』
「了解、ケスーたちに伝えておく」
『よろしく頼む。こちらは夕方の便で出発の予定だ』
「分かった」

通話を終えてスタッフに合格者の数を伝えると、彼らはすぐさま俺がログインするための指輪を取り出してくる。
結局この指輪は完全に俺用になっちゃったなぁ。本来の使用者だったアイザックの名前もいまだにプレイヤー名として使わせてもらってるし。

ゲームに入る前に携帯の電源を切ろうとして、キルアからメールが入っていることに気付いた。
ろくな連絡もないまま仕事に出てしまった俺への文句はそこそこに、審査に合格したぞ!という報告が書かれている。
文面からキルアの誇らしげな顔が浮かんでつい頬が緩む。ちゃんと念が完成したみたいでよかったよかった。
ゲーム楽しめよ、と返信して電源を切り荷物を預ける。

「それではいってらっしゃいませ」
「あぁ」

というわけで、ゲーム再開!




イータとの挨拶はそこそこに、シソの木に降り立った俺を迎えてくれたのはチビだった。
と俺の頭上を旋回する姿は元気そのものでほっこりする。
ひとしきり飛び回った後で頭の上にチビが乗っかったところで、ケスーがいつも通り回収にやって来てくれた。
外の様子はどうだった?と聞かれゲームは入手できたし合格者もたくさんいるよ、と返しつつ同行(アカンパニー)を使って彼らの拠点に移動する。

俺が宿に顔を出すと、ロドリオットたちもいてようと手を挙げて挨拶してくれた。
変わりなく元気なようで何より、とこちらも応じて適当に腰を下ろした。そしてそのまま報告に入らせてもらう。

「……なるほど、ひとつを除いて全てを入手したのか。さすが大富豪だな」
「額を聞くだけで眩暈がしてくるぜ」
「合格者は21名。またライバルが増えたもんだなぁ」
「どうだ?俺たちの脅威になりそうな奴はいたか?」
「……悪いが俺は受験者を見ていない。審査が始まる頃にヨークシンを出たからな」
「そりゃ残念」
「まあ俺たちは俺たちですべきことをやるだけさ」

現時点でツェズゲラのグループはカード収集率でトップ争いに食い込んでいる。
順当にいけば近いうちにゲームクリアもできるだろう、ってほどだ。

にはぜひとも俺たちと組んで欲しいんだがなぁ」
「それは何度も断っただろ。俺はクリアに興味はないんだ」
「チビの面倒を見てきた報酬ってことでどうだ?」

それ言われると痛いんだけどさー!ケスーには本当にお世話になってるんだよなー!

俺の頭の上でスピスピと眠っている手乗りドラゴンのチビ。
グリードアイランドで怯えながら暮らす日々の中、貴重な癒し要員としてそばにいてくれた相棒だ。この子がいなかったらとっくに心が折れてたかもしれない。
ただどれだけ心を寄せたとしても、チビはあくまでもゲームのカード。長期間ゲームから離れてしまえばリセットがかかって消えてしまう。
そうならないように俺がいない間はケスーが世話してくれてた。だからいまもここにいてくれる。

「……確かにケスーには借りがある」
「そんな顔で言うなよ、冗談だって」

どんな顔だってんだ。

「さすがにずっとは難しいが、何かしらの協力ぐらいはするよ」
「お、本当か?そりゃありがてぇ」
「そんときは連絡させてもらおう」

どうか難易度の高い依頼が来ませんように!運び屋の範疇におさまるものであってくれ!
この願いが届くのかは分からない。いつだって面倒事に巻き込まれてばかりいる自覚があるから、悲しいけどあんまり期待しないでおこう。

ツェズゲラが合流するまでいるか?と誘われたけど遠慮させてもらった。
また新しい仕事を頼まれても困るし、彼には悪いが顔を合わせるとヨークシンシティでの出来事を思い出してしまいそうで。
シャルと電話できたおかげで少しだけ気持ちは軽くなったけど、ウボォーとパクノダの死を完全に受け入れられたわけじゃない。
結局何もできなかった……いや何もしなかった自分に対して、渦巻く気持ちは残ったままだ。これを消化するにはきっと時間がかかるんだろうと思う。

ひとまずは俺にとって唯一の安全地帯「隠れ家不動産」に帰って一息つく。
はしゃぐチビにまとわりつかれながら、久しぶりにのんびり料理したり読書したりと過ごした。ようやくの休日って気がする。

!ごはん、ない!」
「あー食糧切らしてるかぁ。仕方ない、買い出しだな。チビは食べたいものあるか?」
「カニ!」
「いつの間にそんな贅沢な舌になったんだ」

ケスーのやつ、甘やかしまくってんな!?




というわけでグリードアイランドに戻ってきました!

[2024年 3月 15日]