第178話

さて、ゴンたちが島の散策に出てだいぶ経つわけだが。
むしろ日も暮れてきたわけだが。

久しぶりの島だし、何より友達をゴンが連れてきたのは初めてのこと。
だから帰ってくるのは夜遅くになるだろう、とミトさんもおばあちゃんも笑って予測してた。
…それが許されるあたり、くじら島って平和なんだなぁと思う。
俺のいた現代世界じゃ夜遅くに小学生がふらふらしてたら危ないって。補導されるし。

「でもお弁当ぐらいは届けてあげようかしら」

そんな言葉を漏らして、ミトさんは手際よくつまみやすい料理を作り始めた。
俺もサンドイッチなどを作るお手伝いをさせてもらう。

「……あぁ、こうすれば美味しくなるんだ」
「我が家風だけどね」
「どうしても水っぽくなるのが悩みで。今度からこれで作ってみます、ポテトサラダ」
「ふふ、試してみて。けどって料理上手ね、良い旦那さんになるんじゃないかしら」
「まず恋人になってくれるようなひとがいませんが」
「おや、じゃあミトなんてどうだい?この子も貰い手がなくてね」
「おばあちゃん!」
「いや、俺には勿体ないです。きっともっと良いひとが現れます」

家事もできて優しくて芯が強くて、それに綺麗さと可愛さを持ってるミトさん。
こんな素敵なひとが俺ごときと結ばれていいはずがない。
ゴンと身内になれるとか魅力的だけどな!でもそうなるとジンとも身内になるから困るな!!

「よし、完成。じゃあちょっと届けに行ってくるわね」
「あ、俺も行きます。もう外暗いし」
「慣れてるから平気よ」
「女のひとがひとりで出歩くのはちょっと。森は野生動物もいるし」
「ミト、送ってもらいなさい。男性の申し出を受けるのも、良い女の条件じゃよ」
「もうおばあちゃんってば…。ごめんなさいね、お願いするわ」
「はい」

ミトさんからランチボックスを受け取って、いざ出発。
いやあ、さすがくじら島。夜になると真っ暗。見上げれば満点の星。

夜間に仕事をすることが増えたおかげで、夜目も利くようになってて助かった。
まあ最悪<円>を使えば問題ないんだけどさ。月明かりだけでも十分。
現代世界にいた頃の俺じゃ、夜の森とか絶対に怖くて歩けなかっただろうなー。
人工の明かりに慣れてると夜の自然界は危険すぎる。

「慣れてない場所なのに、足取りがしっかりしてる。さすがハンターさんってとこかしら」
「足場の悪い場所は慣れてるので。ミトさんもしっかりしてますね」
「そりゃここで生まれ育ったんですもの」
「ゴンの人間離れした身体能力はここで鍛えられたわけだ」
「ジンの血もあるんでしょうね。二人揃って元気が有り余りすぎてるのよ、まったく」

だから飛び出していっちゃうんだわ、とぷりぷり怒るミトさんに苦笑するしかない。
あの暴走機関車を元気が有り余ってるで済ませちゃうとか、やっぱりこのひともジンの親族だ。
一般人からするとジンもゴンも化け物レベルですからね?
念を覚えてなかったら俺絶対にお近づきになれない人種だからね?

「あ、あっちに煙。ゴンたちの焚火かもしれない」
「行ってみましょうか」

進路をちょっとだけ変更して森の中を進んでいく。
ちらりと光のようなものが見えて、それが湖に夜空が映されてるからだと気づいた。
ゴンとキルアの話し声も聞こえてくる。

「親父のことを知ったとき、なんとなく母親の方は死んだんだろうなって。勝手に納得しちゃってさ」
「ひでー話だなそりゃ」
「俺にとって母親はずっとミトさんだから。…他にいないんだ」

どうやらゴンの実の母親について話してるところだったらしい。
足を止めたミトさんが息を呑む。

「だから聞くこともないし、聞く必要もない」
「………そっか。あーあ、俺もミトさんみたいな母親がよかったな」
「最高だよ。ちょっと口煩いけど」
「全然いいよ!うちのおふくろなんてさ、ちょっと出かけようとするだけでわめくのなんの」

ゴンにとっての母親はミトさんだけ。そう語る声はどこまでも澄んでいた。
硬直してたミトさんは、くるりと方向転換すると来た道を戻っていく。
俺はなんとなくその背中に声をかけられなくて。でもお弁当を持って帰るのも勿体ない。
帰り道を送っていけなくて申し訳ないけど、俺はそのまま進んだ。

足音に気付いたゴンとキルアが振り返る。
差し入れ、とランチボックスを持ち上げれば二人はやった!とはしゃいだ。
早速ぱくつく二人の間に腰を下ろして、俺は夜空を鏡のように映しだす湖を眺める。

はどうするの?」
「え?」
「それじゃ意味不明だろ。はこれからさ、どうするとか考えてんの?」
「…急ぎの仕事はないし。特に依頼もなければ二人に付き合うつもりだけど」
「じゃあジン探しに協力してくれる?キルアは付き合ってくれるって」
「あとついでにやりたいこと探しもする予定」

ずっと家のために生きてきたキルアだから、人生の目的とか見つかんないよな。
っていうか、この年で生きる目的を持ってる子の方が少ないと思うけど。

「付き合うのは構わないが」
「が?」
「仕事が入ったらそっちを優先させることになると思う。あと他にも外すことがあるかも」
「なんだよ他って」
「……話したことあったかな。俺は呪いの石版を探してて」

その情報がシャルから入った場合、そっちを確認に行きたい。
あとイルミあたりから依頼が入ったときは断れない。グリードアイランド絡みもそうだ。
それさえなければ協力はするけど…どれもこれも突発的だからどうなることやら。

「俺の故郷について調べてるから、緊急時でもない場合そっちを優先させるけどいいか」
「うん、全然問題なし!」
「…お前の故郷か。なあ、暇なときは俺もついてっていい?」
「あ、俺も興味ある」
「暇なときはな。まずはジンを探すことに集中しておけ」
「「はーい」」

二人が協力してくれたらあっという間に見つかりそうな気がする、主人公補正で。

でも大変なトラブルにも巻き込まれそうだよな。
…だから二人に協力してもらうのは最後の手段にしよう、うん。






家に帰った俺たちはまたお風呂に入って、ゴンはミトさんと話があるみたいだった。
俺とキルアは先に寝室に入ってベッドに寝転がってだらだら。
そのままキルアは眠ったみたいで、帰ってきたゴンが寝顔を見て笑ってた。

「ミトさん、何の話だったんだ?」
「…ジンのこと、教えてくれた。あとこれ」

ゴンが差し出したのは小さな箱。
ゴンがハンターになったら渡してくれ、とミトさんが託されたものらしい。
中身がどんなものかを俺は知ってるけど勿論言うつもりはない。
ジンの手がかりがあるといいな、と頭を撫でるとゴンは屈託なく笑った。

ミトさんから聞いたジンのエピソードを聞きながら。
話してる途中で寝落ちたゴンに布団をかけてやって、俺も眠りについた。





ミトさんとのフラグは立ちませんよ(キリッ

[2013年 11月 17日]