第179話

ミトさんから渡された小箱は、そう簡単に開くことはなかった。
凄まじい握力を持つキルアが全力で握っても壊れない。…すごいな。

どうやった開けるかを漫画で知ってる俺としては、がんばれーとにやにや見守るのみ。
キルアが超絶不機嫌な顔で睨んできたけど、教えちゃったらつまらない。
っていうかキルアは頭良いからすぐ気づくだろうし。
「ジンが何て言ったか考えればわかるぞ」とだけ言ってみた。
そしたらすぐさまはっとするんだから、回転が速いなんてもんじゃない。
…俺、ノーヒントだったら気付くまで絶対時間かかる。

ジンはハンターになったらこれを渡せ、って言ってた。
ハンターになって得られるものはそう多くはない。ハンターとしての証明となるライセンスと。
あとはようやく基礎を習得したばかりの<念>だ。

ゴンが小箱を手に練をすると、箱がばらばらになった。さらに中から箱が出てくる。
ばらばらになった箱は鉄を組んでいただけみたいで、裏側には特殊な模様が刻まれてる。
念の効果を物質に与えるものなんだろうな。これに似た文字を遺跡で見たことがある。
…インディーなジョーンズさんもびっくりな罠だらけの遺跡だったんだよな。
念を駆使したトラップとか泣きたくなったっけ。

…機会あったらこの模様も詳しく調べてみるかな。何かに使えそう。

中にあったさらに小さな箱は、ハンターライセンスを差し込むことで開いた。
そして現れたのはカセットテープと、指輪と、ロムカード。
俺にはとても見覚えのある指輪だ。…個人で所有していいって言われてるけど断ったアレ。
バッテラ邸にお邪魔するたび、俺の指輪は常に確保されてると知って怯えてたのは懐かしい。

いまじゃ正式な連絡係になっちゃったせいで、あの指輪完全に俺専用なんだよな!
セーブデータがもつのは十日間だけだから意味ないんだけど。
………あ、チビ元気かな。可愛がってもらってるみたいだから大丈夫とは思うが。

『よお、ゴン』

聞き慣れた声が流れてきて俺は意識を戻す。
どうやらジンからのテープを聞き始めたらしい。…かっこつけてんなあいつ。
息子のために吹き込んでるから緊張してんのかな、HAHAHA笑える。

『やっぱりお前もハンターになっちまったか。……それでひとつ、聞きたいことがある』

俺に会いたいか、という問いかけに。
ゴンはなんの躊躇いも見せなかった。





俺は会いたくない、なんて言ってくるとか正直すぎるジンの言葉。
でもそれにゴンがショックを受けた様子はなくて。あの親にしてこの子あり、って感じだ。

カイトのときと同じ。会いたいなら捕まえてみせろ、っていう挑戦状。
ゴンはそれを嬉しそうに聞いていた。うんうん、お前はそうだろうとも。
ハンターになるために生まれてきたような男だもんな。主人公だしな!

ジンの声が吹きこまれたテープは、役目を終えると念によって上書きされてしまった。
ゴンとキルアが慌てる声だけが残され、テープからジンの声はもう聞こえない。
…念って本当に色んな使い方があるよな。便利っちゃ便利なんだけど。
あんまりにも便利すぎてどう使えばいいか迷うというか困惑するというか。
俺が念を覚えたのは生きるためだから、逃げることさえできればいいんだけどさー。
でも念に対して無知すぎても危険だし。

「………あーあ。なら録音止められたんじゃねーの?」
「無理だ。基本的に他人の念をいじるってのはできないと思っておいた方がいい」
「そうなの?」
「簡単に言えば、ギドが念で動かしてる駒を、俺が勝手にコントロールを握って動かすことは難しいって感じか。…不可能ではないが、まず無理」

ギドのオーラが途絶えた隙を狙って支配権を握る、ってことは可能かもしれない。
だけど大抵はすでに何者かの念の影響下にあるものを、別の能力者が支配することはできない。
シャルがアンテナで操作してる人間を、他の誰かが操作することはできないと同じ。

まあ、全く不可能ではないと思うよ?
クラピカなんて強制的に相手を絶にできるし、念の効果を打ち消す除念って能力もある。
でもどれも制約が厳しかったり、それなりの誓約を背負う必要があったり。
そもそも特質系とかでないとそういった能力を作れなかったりする…と思う。

「テープがダメになったってなると、残る手がかりはー」

キルアがちらりと視線を向けたのは、ロムカード。
これはハンター世界のゲーム機に必須の、メモリーカードだ。
といってもけっこう旧式のゲーム機用。懐かしいなー、ミルキとやったの思い出す。
最近はもっぱら携帯ゲームで対戦だし。大画面でやるゲームも好きなんだけど。

ロムカードに何のセーブデータが入っているのか。
それを確認するためにまずはゲーム機本体をキルアが買いに走る。
いよいよグリードアイランドの名前が登場するのか、なんかドキドキしてきたぞ。

「あれ、の携帯鳴ってない?」
「………あぁ、本当だ」

この音はメールじゃなくて電話だ。
珍しいな、誰だろう。俺あんまり携帯繋がらないから、知り合いはまずメールをしてくる。
仕事の依頼も基本はメールで受け付けてるから、それもないはずだ。
…イルミとかは直接電話で仕事に巻き込んでくるけどな。
非通知だったりすると、クロロかヒソカの場合もある。まずは番号を確認。

「………って」
「?どうかした?」

表示された名前に思わず動きを止める。
不思議そうに首を傾げるゴンに、俺は返事もせず目を瞬いた。

だってそこにあったのは。

クラピカ、という文字だったから。





ジョイステを見ると懐かしい気分になります

[2013年 11月 19日]