第180話
ゴンに断って部屋を出た俺は、そのまま屋外へ。
キルアに聞かれてもな、と思って通話ボタンを押しながら森の中へと入っていく。
…そろそろクラピカは修行を終えて念を完成させてるはずだ。
なのに俺に連絡してくるってことは、単純に世間話をするためじゃないだろう。
ゴンたちに聞かれて困るようなものじゃないかもしれないけど。
幻影旅団を狙って動き出してるクラピカは、情報が広がることを好まないだろうと思ったんだ。
会話によっては、ゴンとキルアを心配させるかもしれないし。
「もしもし」
『、単刀直入に聞く』
お互いに名乗り合うことも近況報告もなしに本題。
…いや携帯だから名乗る必要はないんだけどさ。日本人としてこう…。
『マフィアに指名手配される覚えはあるか』
いつも以上に硬い声で質問されて、俺は足を止めた。
マフィアって単語が出て来たということは、クラピカはもう仕事始めてんのかな。
クラピカの就職先を漫画の知識から引っ張り出して俺はあることを思い出した。
……そういやあいつの就職先って。
「………ノストラードファミリーか」
『お前、いったい何をしたんだ』
「いや何も。勝手に気に入られて、コレクションにしたいって言われただけだ」
『…人体収集家のマフィアに狙われているのに、随分と悠長だな』
「実害はそんなにないからな。一応、生きたままコレクションしたいらしいし」
俺の目をネオンは気に入ってるらしく、コレクションになろうよ!と可愛い笑顔で誘われている。
いやいやいや、ならねえよ?人間をコレクションにするってどういうことかな?
アブノーマルにも程があるよ!しかもマフィアの邸に住むとか絶対やだ!!
ネオンは可愛い女の子だけど、常識がぶっ飛んでるところが残念。…本当に、残念。
『…そこまで呑気にされると、心配した私が馬鹿みたいだ』
「心配してくれてありがとう。…けど大丈夫か?就職先の情報を簡単に流すなよ」
『まだ試験中だ、正式雇用はされていない』
「なら尚更情報を漏らすな」
『に危害を加えるような組織ならば、就職先として選ぶことは断念するつもりだった』
おお…なんと嬉しい言葉。
旅団を追いかけてるクラピカは本来手段を選んではいられないはずだ。
マフィアのもとで働くこと自体、本意じゃないだろう。クラピカは正義感が強い性質だから。
でも同胞の復讐のため、と気持ちを抑え込んで戦いを始めようとしてる。
それぐらい強い決意なのに、まさかの俺を優先してくれるっていう言葉。
あ、もちろん、ゴンたちが危険な目に遭っても同じなんだろうけど。
俺もちゃんと仲間として扱ってくれてるんだなぁ、と顔がゆるむ。
「俺のことは気にしなくていい。遭遇すると厄介だが、厄介なだけで危険はないから」
『……そうだな、お前のことだからどうとでもするんだろう』
おう、逃げ足には自信あるからな。
ヒソカから常に逃げてるおかげで、大抵の危険は回避できてるぞ。
………まあ、回避できなくてトラブルに巻き込まれてることも多いんだけど。そこは無視。
「クラピカこそ。マフィアに関わるなら本当に注意しろよ」
『わかっている』
「…お前のことだから大丈夫だろうけど」
『信頼には応えよう。いきなり悪かった、では』
「あぁ、試験頑張れ」
通話を終えて携帯を手の中で転がす。
…そうか、ついにクラピカもノストラードと関わりはじめたか。
ヨークシン編の準備が着々と進んでいるわけだ。ゴンとキルアも動き出してる。
いまは七月の半ば。九月なんてあっという間だ。
クラピカと旅団がぶつかって、結果的にパクとウボォーが…と思うと。
一気にずんと胸が重くなって俺は溜め息を吐くしかなかった。
旅団の連中をヨークシンに来させない方法とかないんかな…いや、無理だよな。
確か久しぶりに旅団全員が集まる大仕事だったはず。そう簡単に変更はしないだろう。
なら俺が入って止めるか、なんて。そんな無謀なことできるわけない。
クラピカの想いを俺は止められないし、旅団の連中の生き方にも関与したくない。
どっちも大切なのに、どっちつかずのまま時間だけがずるずると流れてく。
いくらハンター世界に慣れてきたって言っても、俺はやっぱり平和な国日本の人間で。
誰かが殺し殺され、復讐し戦ってなんて、そんなものに対して何かできるとは思えない。
パクやウボォーを守ろうとした結果、クラピカが死ぬかもしれない。
ひょっとしたらゴンやキルアに危険が降りかかる可能性もある。
そもそも、旅団の皆ともクラピカとも、俺は戦いたくない。
意気地なしな俺を笑うみたいに、メールの着信音が響いた。
ゴンの部屋に戻ると、買ってきたらしいゲーム機がテレビに繋がれていて。
そこにはロムカードのデータが表示されており、グリードアイランドという名前が読み取れる。
キルアは誰かと携帯で話してる最中らしく、聞いているとミルキが相手らしいとわかった。
多分グリードアイランドの情報を聞き出そうとしてるんだろう。
おかえり、と迎えてくれるゴンにただいまと返して腰を下ろす。
さっき届いたメールを確認して俺は自分の世界に逆戻りだ。
八月の後半にはバッテラ邸に向かって、ツェズゲラとの連絡を取ってほしい。
それがメールの依頼内容だった。
しっかりと契約を交わしてる仕事であるため断ることはできないし、断る理由もない。
チビに会えるのは嬉しいんだけど。…つまりこれ、九月のヨークシンに参加できなくね?
いや、近くにいるっちゃいるけど、旅団うんぬんの騒動時に俺は現実世界にいない可能性が。
いられたとしても、思い切り仕事中で動きを取れない状態な気が。
あの過酷な事件に巻き込まれずに済むことは助かるといえば助かる。
旅団とクラピカの戦いに関わらない言い訳にもなるかもしれない。
……でも優柔不断な俺は複雑な気持ちも抱えたままなわけで。あーうー。
俺って本当に臆病だよな。絶対に主人公にはなれないタイプだ(なりたくもないけど)
「?大丈夫?」
「…ちょっと仕事の依頼がな」
「えっ、なんだよ抜けんの?」
「すぐじゃない、八月に入ってからの話だ。専属で契約してるところがあって」
ミルキと通話を終えたらしいキルアがにじり寄ってくるから、ぱたぱた手を振る。
しばらくは平和だと思うよ。俺の精神的なストレスはヤバイことになってる気がするけど。
「んじゃそれまでは平気だな。はグリードアイランドってゲーム知ってるか?」
「…一応」
「そうなの?ね、どんなゲーム?」
「念を使わないとできないゲームだな」
「…ハンター専用ならやっぱそうだよなー」
仕事でプレイする羽目になってますが何か!!
このゲームに自力で辿り着くことが、ジンの用意したハードルのひとつ。
ゲームをゴンがプレイして楽しんでくれることも望みのひとつだろうけど。
まずはゲームを入手することが必要だよな。ソフト一本いくらだっけ?何十億だった気が。
バッテラ氏が金に糸目をつけず収集してるから、個人的に手に入れるのはまず無理だけどな。
うん、頑張れよ二人とも!
電話にメールに忙しい
[2013年 11月 20日]