第182話

くじら島を旅立ったゴンたちは、まずハンター専用サイトを覗きに行った。
ハンターだけが利用できるサイトで、どんな情報でも引き出せる。あ、金はかかるぞ?
個人情報だって調べられちゃうんだもんなー…怖い怖い。
あ、そうだちょっと俺も調べてみよう。

調べる内容は俺について。

いったいどこまで情報が開示されてるのか気になってたんだよな。
住んでる場所とかもバレてたら困る。マゼンダさんやじっちゃんの話なら大丈夫らしいけど。
ハンターの情報網をなめちゃいけない。

「………この程度なのか」

とりあえず検索してみたけど、俺に関して詳しい情報は意外にも出てなかった。
ハンター試験に今年受かったことと、運び屋として仕事をしてること。
身長、体重、食べ物の好き嫌いも書いてはあるけど、出身地とか住処については書かれてない。
……出身地はな、そもそも戸籍がない状態だから記載されてないんだろうな。

俺個人としての情報ではなく、運び屋としての情報しか載ってない、って感じだ。
国際人民データ機構に俺の情報がないんだから当然だけど。
ちょっとホッとしてると、後ろからひょっこりとゴンとキルアが顔を出した。

「あ、のデータ?」
「なんで自分の情報調べてるんだよ」
「どんな風に登録されてるのか確認したくなっただけだ」
「なんか、データ少ないね。これが普通?」
「いや少なすぎだろ。誕生日とかも載ってねぇし、住所もない。あ、電話番号は載ってるな」
「仕事で使うからな」
「ねえねえ、キルアの情報も見てみようよ」
「はあ?」

知りたいなら俺に聞けばいいだろうが!ってキルアが正論を言う。
本人の目の前で情報を公開するとか羞恥プレイにも程がある。

「ってキルアの情報、高!!」
「…そりゃゾルディックの人間なら高いだろう。イルミなんてさらに高いぞ」
「うげ」
「ゴンは…まだ一般人とそう変わらない金額だな」
「ちぇー」

あ、でもゴンの父親について調べようとするとエラーになる。
そういえばジンについては調べられないんだった。俺も自分の情報にロックかけたい。
そのためには莫大な金額と、一国の首脳クラスの権力が必要。…まあ無理だよね。

こっちの世界だと俺は流星街の人間みたいな扱いだから、これでも情報漏れてない方だよなー。
病歴とかDNA情報も載ってたりするらしいけど、それもない。
……シャンキーの病院って正規のもんじゃないのかな。いや、普通に住民の診療やってるし。
でもお金取らないことも多いし、かと思えばジンとかからはめっちゃぼったくるし。
…医師免許は持ってるけどまともな病院ではないのかも、うん。
おかげで俺の病歴もデータに反映されてないのかな。何それ凄い。

「ぶっは!お前だせえ、笑いダケ食って死にそうになってるとか!」
「勝手に俺の情報見るなよキルア!」
「どんだけ野生児だったんだよ。あ、いまもか」
「うっさいな。…おかげで毒草とか詳しくなったし耐性もできたからいいんですー」
「…お前たち、公共の場であんまり騒ぐな」

ネットカフェだからね?騒がしいとつまみだされるぞ?

「で、調べてみてどうだったんだ?」
「ゲームは念をこめられていて、プレイヤーはゲームの中に入るってことかなぁ」
「ヨークシンのオークションにゲーム七本が登録されてるってさ。けど…」
「最低落札価格が八十九億ジェニー………」
「それはそれは。入手難易度は?」
「G。お金さえ用意できれば集められるからだって」

ハンターにとっては難しい課題ではない、ってこと。
色んなプロハンターを見てきたけど、皆どんだけ金持ってんだよって思うもんな。
ジンは遺跡の修復とか維持方法を確立したって時点で相当な金を持ってることがわかる。
…まず遺跡の発掘ってな、それだけですげえ金かかるんだよ。
普通はスポンサーがついてないとできないからな?個人で発掘にいそしめる人間はほぼいない。

メンチやブハラみたいな美食ハンターだって、食を追及するならやはり金はかかるだろう。
各地を旅することも多いみたいだし、食材や調理器具だって最高のものをと思えば金がかかる。

キルアもゴンも、まずはお金の管理方法を覚えるべきだな。
特にキルアは甘やかされて育ってるから我慢が苦手だ。妙なとこシビアなのに。
ゴンはむしろお金に関しては一般人の感覚をもってるからまだマシだろうけど…。
使うべきときには躊躇いなくどーん!と使いそうだよねこの子…。

「よし、んじゃ金を作るぞ」
「うん!」

天空闘技場で稼いだお金を元手に、掘り出し物を発掘して売って増やしていくつもりらしい。
頑張れよー応援してるからなー。

俺は先に外に出て宿泊予定のホテルに向かった。
二人が金策に失敗することは知ってるけど、痛い目みるのも必要だろう。
あの二人は実際に体験しないと何がダメなのか納得しない。
命が関わる状況なら止めるけど、そういうわけでもない。だから今回は放置だ。

『はいはい、金ぶら下げてのご利用ならいつでもお待ちしてますシャンキーでーす』
「…すいません間違えました」
『ちょっちょ、そっちからかけてきたくせに切ろうとしないでよ』

最近よく電話してるなーと思いつつかけた先はシャンキー。
さっきの情報について調べようと思ったんだけど、相変わらずふざけた男のままみたいだ。

『どったん?声聞く限りじゃ元気そうだけど。あ、もしかしてやらかしたとか?だから避妊はちゃんとしとけって言ったでしょうにもー』
「お前アンの前でもそんなこと言ってたら殴るぞ」
『やれやれ色男は変なとこ紳士だな。医者にデリカシーを求めるんでないよ』
「うん、やっぱり次に会ったときは殴るな」
『ねえねえ、俺の周りってそんな反応ばっかりなのは何でだと思う?』
「お前のせいだ」

こんだけふざけた会話してられるってことは暇なのかな。
あの病院、普段はお年寄りの愚痴を聞く場、みたいになってるから静かだし。
診療はだいたい午前中で終わるって言ってたもんな。

「いま、ハンターサイトを覗いててふと思ったんだが」
『おー?』
「シャンキーに診察してもらった履歴、情報に上がってないんだけど」

するとふとむこうの声が途切れた。
だけどその後に聞こえてきたのはいつも通りのおちゃらけた声。

『…情報漏洩を望まない患者へのサービス。余計だったか?』
「いや、助かる。知られて困るものでもないが、良い気分ではないから」
『あの毒を受けて生き残った稀少な症例、ってことで注目されるだろうしな』
「…あぁ、クート盗賊団の」

俺に毒の耐性があったわけじゃなくて、念能力のおかげだったわけだけど。
そうか、そうだよな、あれ猛毒だったんだもんな。普通は死ぬよな。
…いやゾルディックの人間なら生き残れる気がしないでもない。つか生き残るだろ。

『情報を流さない分のお金はもらってるから安心しろ』
「…それも含めてのあの診療代か」
『そゆこと』
「納得した。…これからも世話になるよ」
『毎度どうも。けど俺としては世話になってほしくねーな。あ、俺の顔を見に遊びに来てくれるなら大歓迎だぜ?アン嬢も喜ぶ』
「アンの顔は見に行くよ」
『あれ、俺は?』

なんて馬鹿なやり取りをして電話を切る。
大概ひどい態度とってる俺だけど、シャンキーってやっぱすごいんだよな。
命の恩人でもあるわけだし。たまには優しくしてやろう。

たまには。






お金を必死に集めるちびっ子たちのために、俺は食事提供にいそしんだ。
ホテルだから掃除の必要はないんだけど、それにしても不健康になりそうな環境である。
四六時中パソコンに貼りついて帰ってきたら食べて寝る。そしてまたネットカフェへ。
身体が鈍らないように夜は二人で組手とかやってるみたいだけど。

「ぬあー!!またやられたぁー!!」
「ええー!」

着々とお金が減っていってるみたいだよ、やったね!!

金を稼ぐというのがどれほど大変なことなのか。
正規のやり方でない稼ぎ方はいかにハイリスクなのか。学ぶがいい子供たちよ。





主人公の「運び屋」や「ハンター」としての情報は登録されている模様

[2013年 12月 28日]