第183話―クロロ視点

九月一日。
久しぶりの大きな仕事まで、あと一週間。

「全員が揃うのって久しぶりだよね。全員遅刻しないと思う?」
「さて」

オークション会場について下調べをしていたシャルがパソコンに背を向けて笑った。
いつも冷静な男だが、今回の大きな仕事にこいつもテンションが上がっているらしい。
ヨークシンでは世界中のマフィアが集まる大きなオークションが行われる。
そこのお宝を全ていただいてしまおう、という算段だ。

「そういえばヒソカは一度も招集に顔出したことないけど」
「マチが伝えたんだろう?あとはあいつ次第だ」
「クロロさ、なんでヒソカを置いてるわけ。あいつの殺気ホントに気持ち悪いんだけど」

ヒソカが戦闘狂であり、俺との勝負を望んでいることは知っている。
俺に限らず強い人間と命のやり取りをするのが好きらしいから、団員も狙われているだろう。

「団員になっちゃうと、マジギレご法度だから殺したくても殺せないし」
「それはヒソカも同じだろう」
「あいつ、いざとなったらその辺りのルール無視しそうだけど?」
「そのときは遠慮なくヒソカを殺せるじゃないか」
「…はいはい。つまりいまはあの変態をどうこうするつもりはない、と」

肩をすくめたシャルが画面へと向き直る。
ちょうどそのとき、俺の携帯が着信を教えた。団員の誰かから連絡だろうか。
表示された名前を確認し、俺は一瞬だけ硬直した。珍しい名前だったからだ。
訝しげに振り返ったシャルに手を振って通話ボタンを押す。

「どうした?お前から連絡してくるなんて珍しいじゃないか」
『…伝えておきたいことがあったんだ』
「なんだ?普段は着拒してる男に伝えたいことなんて」

?とすぐさまシャルが言ってくるぐらいにはこいつの着拒は俺たちの中で話題だ。
何しろが着信拒否している相手は俺とヒソカぐらいだというのだから。
同じ括りにされてんのかよ団長、とげらげら笑われたことを俺は根に持ってなんかいない。
は蜘蛛には入らない。その無言の意思表示なのだろう、と思っている。
ヒソカに関しては単純に拒絶反応なのだろう。あいつと俺とでは違うはずだ、絶対。

あちらから着信拒否を解くことなどなく、連絡も直接取ろうとはしていなかったはず。
なのに電話をしてくるとはどういうことなのか。シャルも興味を引かれたのか近づいてきた。
用件はなんなのかと思えば『予言、かな』という要領を得ない答え。

「予言?ほう、お前いつ運び屋から占い師になった」
『占いというより…知ってるだけだ』

にはなりの情報網があるのだろう。だから特別驚くことはないが。
俺たちにどんな予言をよこそうというのか、続きを待った。

『九月一日。お前がやろうとしていることは取りやめた方がいい』
「………なんのことだ?」

なぜその日付を知っている。
ちらりと隣で耳をそばだてていたシャルを見やるが、無言で首を振る。
当然だ、蜘蛛の中に外部に情報を漏らすような人間はいない。……ヒソカは、ありうるが。

『蜘蛛がやることに口を出すつもりはない。だけど、今回はやめておけ。誰かを失うぞ』
「何を知っている?」
『俺が知ってるのは、このままいくとお前たちの誰かが欠けるってことぐらいだ』

それは明確な警告だった。
俺たちがこれから行おうとしている仕事は確かに危険が伴うもの。
しかし誰かが命を落とすようなことは滅多にない。死んだら死んだときのことだ。
かといって簡単に死ぬような連中でもない。だって俺たちの実力は知っているはずだ。

なのにヤツの声には冗談の響きはなく、いつも通りの淡々とした声に重さが付与されている。
がこうした類の冗談を言うような男ではないことぐらい、これまでの付き合いで知っている。
だが、の言ったように蜘蛛のことに口を出させるつもりもない。

「…忠告には感謝するが、久しぶりの大仕事なんでな。今更変えるつもりはない」
『……だと思った』

シャルにアイコンタクトで指示を出すと、頷いてパソコンに向かう。
キーボードが凄まじい速さで叩かれていくのを見守りながら、俺はとりあえず探りを入れた。

「お前が何を知っているのか、ぜひ吐いてもらおうか」
『残念ながら、俺はこれから仕事なんだ。お前たちには捕まえられないよ』

逆探知をかけていることを知っているかのような口ぶり。
の持つ携帯はシャルがカスタムしているらしく、その気になれば追跡可能らしい。
表示された場所はいま俺たちがいる場所からは離れており、すぐには駆けつけられない。
これから仕事ということは通話を終えたらすぐさま移動してしまうのだろう。周到な男だ。

『………クロロ』
「何だ」
『本当に、手を引いてくれ。俺はお前たちの誰にも欠けてほしくない』

顔を見ていないせいか、いつもよりの感情の揺れが感じられた。
本気で俺たち蜘蛛を気遣っているとわかる声音に、むず痒さを覚える。

俺が何かを答えるより先に通話は切られてしまった。
シャルへと顔を上げれば、「電源も切られたっぽい」とエラー画面を前に溜め息を吐いている。
あいつはあいつなりに何かしらの情報を手に入れ、俺たちに警告をしてきた。
どこから得た情報か明かさないということは、仕事絡みでのことなのか。

どちらにしろ、あの男がそう易々と情報源をバラしてくれることはないだろう。
パクに読み取らせれば簡単だが、捕獲するにも手間がかかる。

「しかし意外だ」
「何が?」
「俺たち蜘蛛は、嫌われていると思ってた」
「嫌ってる場所に顔出したりしないでしょ」

それもそうか。
嫌な顔をしながらも、なんだかんだで顔を出しては世話を焼いていたっけ。

「嫌ってるのはクロロのことなんじゃない?」
「……………」

いや。俺だけじゃないだろう。
ヒソカやフェイタンのことも、避けてるはず。
フィンクスと話すのも、嫌がってただろう。

「あ、クロロ地味に落ち込んでる?」
「そんなわけないだろう」
「で、九月一日はどうするのさ」
「決行だ。確証のない予言に耳を貸すつもりはない。…まあ、油断はせずにおこう」
「マフィアンコミュニティを敵に回すのに油断も何もないけどねー」

しかし予言か。
がそれをどこで入手したのかは、やはり気になるな。

「多分はさ、マチやパクを心配したんじゃないかなー。紳士なとこあるから」
「……それでどうして俺に連絡してくるんだ」
「団長だからじゃない?一応、決定権のある人間だし」
「………………俺よりもあいつらの方がよっぽどしぶとく生きそうじゃないか」
「女って強いよね」




私の中でクロロはどういう扱いなのか

[2014年 2月 2日]