第184話―キルア視点

俺たちはグリードアイランドを手に入れるために金を集めてる。
そんなときに飛び込んできた幻影旅団の懸賞。破格の懸賞金に俺たちは飛びついた。
ゲームを買うならともかく、オークションに参加するならとにかく金がいるから。

けど、甘かった。
幻影旅団ってのは化け物の集まりだ。
絶対にあいつらに手を出すな、って言ってた親父の言葉の意味がようやくわかる。
マジでヤバイ。離れた場所から見ててもわかる。ヒソカと同等の本能的な警鐘を与えてくる。
こんなの相手に俺たちがどうこうできるわけがない、って思うけれど。
アジトを割り出すなり捕獲するなり、勝負に勝てなくても何かしら方法はあるんじゃないか。

そんな風に思った俺は舐めてた。

見つけた旅団の男女を尾行してた俺とゴンは、さらに尾行していた連中に捕まった。
どうあがいても勝てない。歴然とした実力の差に連れていかれるしかなくて。

そうして聞かされた会話から、旅団の誰かが殺されたらしいってことが理解できた。

旅団の連中は仲間を殺した犯人を捜しているらしい。俺らには心当たりなんてないけど。
連れられていった廃墟では他の団員も待ち構えてた。
その中にヒソカもいたけど、とりあえずお互いに知らない振り。…ゴンがやらかしかけたけどな。

んで、なんやかんやあって……え?説明が雑?うっせーな疲れたんだよ!!
化け物を追いかけて、逆に捕まって、そんでそいつらのアジトに連れてかれて。
ずっと命綱なしの綱渡りをしてる気分だったんだっつーの!!

しかも何で蜘蛛に気に入られてんだよお前!!?
トラブルを呼び込むにも程があるだろゴン!!





頭痛に見舞われて眩暈も感じていたところで、ふと気配が増えたことに気付いた。

「パク、届け物」
「あら、ありがとう。早かったのね」

現れた男に、俺もゴンも唖然として声を発せなかった。
だって、なんで。

揺れる黒髪。焦げ茶色の瞳にはかすかな警戒の色。
でも敵意や殺気っていうのはほとんどなくて、新しい場所に足を踏み入れたって感じじゃない。
旅団の連中も緊張した様子もなく迎え入れている。それが信じられなかった。

?ずっと連絡つかなかったのにどうしたんだよ」
「………シャル」

目を瞬いて首を傾げたのはシャルって呼ばれた男。
………シャル?なんか…どっかで聞いたことがあるような…。
あっ、そうだ、ときどきが電話してる相手の名前!!……男かよ!!!!

つーか、なんで、ここにいんだよ、!!!!

「で?何しに来たの。パクに届け物って」
「甘いものを持ってこいって言われた。マチとシズクにも」

が手にしてた白い箱を開いて女連中に向ける。
…こ、こいつ、幻影旅団が相手でも女タラシを発揮してやがる。

ちらりとヒソカを確認してみると特に動揺した様子もない。
もともと動揺なんて見せない男だけど、それでも驚けば多少の違和感は出てくる。
だけどそれもないってことは、ヒソカは知ってたんだ。
に旅団との繋がりがあるってこと。

不思議なことじゃない。が生きてきた世界ってのは、こいつらが身近な場所なんだろうから。
でもはクラピカがどんな思いでハンターになったかを知っていて。
これからどうするつもりなのかも知ってるはずなのに。

和気藹々とした空気で会話してる姿にわからなくなる。
は俺らやクラピカを仲間として認めてるはず。多分これは間違いない。
じゃあなんでクラピカの復讐の対象である幻影旅団といま一緒にいるんだ?
それも昔からの知り合い、って様子で。

……クラピカのことを仲間と思ってるように、旅団の連中のこともにとっては仲間なのか?
クラピカの生い立ちを知っているから、旅団と繋がりがあることを言えずにいたとか…。

くそ、また俺たちに隠し事か。………隠すって意識もないかもしれない。
言う必要のないことだったから言わない、ってだけなんだろう。そういうとこ兄貴と同じだ。
要は俺たちが認められて打ち明けてもらえるぐらいに強くなればいい。
まだその域に到達してない、ってだけだ。悔しいけど。
と対等に話せるようになるまでの道のりは、きっと遠い。

そしてようやくの視線が俺たちを向いた。

「「…」」

思わず名前を呼んだ俺とゴンだったけど。
はどこか呆れた表情を浮かべて。かすかに落胆の色を見せたのみだった。





呆れたのではなく、遠くを見つめたくなっただけです

[2014年 3月 20日]