おまけ―高校時代

くん!」
「………?」

図書室からの帰り道、呼び止められて振り返ると同じクラスの女の子に声をかけられた。
もうすぐ昼休みも終わるし、たまたま教室に戻る道が一緒だから並んだのかと思いきや。
なんだかご機嫌な様子で箱を取り出した。あ、ポッキー。

「知ってる?今日って、ポッキーの日なんだよ」
「あぁ…そうらしいね」
くん、誰かとやったことある?ポッキーゲーム」
「……いや」
「え、ないの!」

そんなに驚かなくてもいいだろうに。
むしろ高校男子でやったことあるヤツの方が珍しいんじゃないか?
リア充か相当な軽いヤツでもないと機会はなさそうだけど。
あんなのは漫画やドラマの世界の架空のゲームだろ、とまで俺は思っている。

「じゃあ、やってみる?はい」

って、ちょっとお!?いきなり目の前でポッキーくわえられたんですけどお!!

か、彼女にとっては本当にお遊びのひとつなのかもしれないけど。
俺みたいな恋愛経験ゼロどころかマイナスの人間には毒にしかならんよ。
ポッキーくわえたまま見上げてくるとかやめてえぇ、俺の目が潰れるー!!

ちょっと美味しいかも、なんて思わんでもないが。
からかわれてるだけなんだろ、と悲しくなってしまう。遊びでこんなドキドキさせられるなんて。

「……あんまり、からかうなよ」

しょんぼりしながら、彼女のくわえたポッキーを指でぱきっと半分に折る。
せっかく差し出してくれたものを受け取らないのは失礼だし、でもくわえる度胸はないし。
これで勘弁してください、と手に取った半分をくわえる。
きょとん、と瞬く瞳を合わせることは俺にはできなくて。意気地なしでごめん、と背を向けた。

「こういうのは、恋人になったヤツとやるべきだろ」

大事にしておけよ、せっかくの恋人のイベントなんだからさ。
………くそう、リア充爆発すればいいのに。
八つ当たりなのはわかってるが、こんなゲームを広めやがって。大人の商売め!

悲しい気持ちで階段を下りていくと、踊り場で友人を発見。しかも女といる。
………あれ、先輩じゃね?かなり美人って有名の。
いた。超身近にいた、リア充が。しかもかなり最低の部類の。
ポッキーをくわえてしなだれかかる先輩に、少し鬱陶しそうにしてるあたりマジ腹立つ。
甘えるように顔を近づける美女を前にして、なんでそんな面倒そうな顔ができるんだ!

普通はでれでれになって食らいつくところだろ!と手に汗握るものの。
あいつは小さく溜め息をつくと、ポッキーの先をあっという間に噛み砕いて。
そんでもって、先輩の唇にだいぶ乱暴に噛みついた。

って、なんでダチのキスシーンを見せられなきゃなんねえんだあああああああ!!!

嫌なもん見た、ホント最悪だ今日は。
腹が立った俺は、そのまま階段を下りていちゃつく二人の横を遠慮なく通らせてもらう。
お邪魔してすみませんねー、教室に戻るだけなんでー。

すたすたと振り返らずに教室に戻る。
借りた本を広げ次の授業までの時間を潰そうとしてると、すぐさま友人も帰ってきた。

「……いいのか、先輩放っておいて」
「リクエストには応えたんだ、十分だろ」

しれっと言う横顔が憎たらしくて。
僻みだとわかってはいる、自覚してはいるんだ。だけど。

羨ましいぞこんちくちょー!!!!






リア充は貴様もだ。

[2011年 11月 11日]